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V(ヴァカみたいにどうでも良いこと)を、 N(ねちねち)と書いてみる。 根本的にヴァイオリンとは無関係です。
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「まあ、ユッシンがちょっかい掛けなかったとしても、
 ドスコイでさぼった分、苦労するだろうけどね。
 ポール君にはいい薬でしょ。」
などと、冷淡にクレイが考えた通り、
ZZHに仮所属した日から、
ポールは苦難の連続だった。
初日にリヒタルゼンで不勉強を暴露してしまったため、
毎朝、狩りに出かける前にきっちり2時間、
レンジャーとして基礎授業を受けることになった。
剣士、ナイトとしては勿論、
アコライトやマジシャンの魔法、
プロンティア周辺を囲む魔物の生息範囲と、
授業内容は多岐にわたり、
3日ごとに行われる試験で合格点をとれなければ、
腹筋100回、腕立て伏せ100回が待っている。
勉強が終われば次は実技と、
雷魔法を打ち込んでくる、
鳥人間ヒルウィンドがでる調印谷、
羽衣を鋼鉄の剣に変え遠距離から攻撃する天仙娘々と、
魔法と物理両方を使う天邪仙人のでる昆倫の洞窟、
大量の巨大トンボがおそってくる亀島と、
難易度の高い狩り場に連れていかれ、
昼食を挟んで、みっちり魔物退治をさせられた。
生体研究所で死に掛けた時のようなことはないものの、
今までとは比べものにならない危険な狩り場で、
槍を振るい、怪我をし、動きが悪いと怒鳴られ、
自宅に戻ると同時に、布団に倒れ込む日々が続いた。
辛いと感じることもできないほどの毎日だったが、
それでも2週間も続けば、大分慣れてくるもので、
テストの点数は少しづつあがっていったし、
思ったように動くことはできなくとも、
流れのようなものが、何となく分かるようになってきた。

LKばかりでも、
それぞれ得意分野と大まかな役割分担がある。
対多数戦を得意とするのは圧倒的にテッカだ。
巨体の魔物が複数かかってきても、
まとめてボーリングバッシュで叩き飛ばし、
ポールがみている限り一歩たりとも後退したことがない。
だが、最も殺傷能力が高いのはフェイヤーだ。
彼の槍は常に相手の心臓を貫き、止めを刺す。
同じ槍使いでも、技術と経験面で劣るノエルには、
フェイヤーほどの攻撃力はない。
しかし、ペコペコとの巧みな連携により攻撃スキルは、
単体での使用より威力を増すし、
なにより軌道力で他の追随を許さない。
それらを踏まえて、
狩り場での動きをみていると、
まず、テッカが前線に立つ形で敵の勢いを殺し、
硬い鱗や強靱な生命力を持つような、
止めを刺しづらいような敵はフェイヤーが叩き、
ノエルが細かく動いて、隙間を埋めていくような、
各自の特徴を有意義に使っているのが分かった。

分かったことがあると確認してみたくなるのは人の常で、
溜まり場で、その日の狩り場での出来事を逡巡し、
漠然と感じていた疑問の理由に気がついたポールは、
不躾な質問もした。
「マツリさんが以前、
 自分はLKとしては出来損ないだって言ったのって、
 火力や耐久性の関係ですか?」
ギルド内に関わらず、ポールが知る限り、
マツリの動きは誰よりも早い。
タイマン時は勿論、対多数の乱戦になっても、
攻撃を受けることなぞ、まず無いし、
細かいステップで立ち位置を変え続けるので、
動きを補足するのも難しく、
僅かな隙間をくぐり抜け、
敵の死角に潜り込み、攪乱するのが得意だ。
だが、純粋な力比べとなると、
テッカの様に相手を叩き返すような馬力はないし、
フェイヤーの様に決定的な攻撃スキルもない。
如何に素早いといっても、直線上ではノエルの駆る、
ペコペコには叶わない。
なにより、小柄な体格故に一撃を受けてしまうと、
他のLKなら簡単に耐えるところでも、
あっさり体勢を崩してしまう。
不安定な状態では、武器とする稼働力は落ちるし、
一度体勢を崩せば復帰にかなりの時間がかかる。
支援職のユッシが、
他のギルメンには受ける衝撃を半減させる防御魔法、
アスムプティオを使うのに、
マツリには術自体の持久性は劣るものの、
完全に攻撃を跳ね返すキリエレイソンをと、
使い分けているのも、
その点を考慮した上でのことだろう。
敵をくい止め、後衛を守ること、
火力として確実に敵をしとめること、
騎獣の軌道力を駆使して、広い範囲で動くこと、
騎士が得意とするこの三点において、
中途半端、更に耐久性も劣るとなれば、
ナイトとしては、確かに問題だ。

怒られるのを覚悟の上だったが、
意外にも、マツリはニヨリと不敵に笑って肯定した。
「気がつきましたかい。
 どうやらスパルタ教育の成果が出始めたようですな。」
予想外の誉め言葉に、ポールは照れて頭を掻いたが、
続いた言葉に、青くなった。
「結局、あたしの剣は軽いんですよ。
 ちょいと手先が器用でも、
 魔法が少々使えようとも、
 望まれる仕事ができねえようじゃ、
 なんの意味もねえっすんかんな。
 騎士としては、三流品でさあ。」
「そんな、俺、そんなつもりじゃ・・・!」
否定しようとするポールを片手で押し止め、
どうでも良さそうに、マツリは言った。
「さりとて、もって生まれた体質ばかりは、
 変えようもねえし。
 ま、人には向き不向きがある以上、
 仕方のねえことです。」
「でも、マツリさんは凄いじゃないですか!」
自虐的に聞こえる台詞に納得できず、
ポールが声を大きくすると、マツリは笑った。
「そりゃ、ただ遊んじゃいませんかんな。
 適正がないからって、
 役立たずの座に甘んじるわけにゃいきません。
 あたしにゃあたしの出来ることを、
 やるしかありませんわ。」
三流には、三流なりのやり方があると、
いつも通り飄々と言う。
「しかし、あんたにそんなこと、
 指摘されるようになるとはねえ。
 叩きゃあ延びるたあ、思ってましたが、
 たった二週間で随分目が肥えたじゃねえすか。
 あたしも精々、追い抜かれねえように、
 精進しねえといけませんな。」
ポールが気がついたことなど、
マツリにとっては、今まで何度も指摘され、
自身も自覚する分かりきったことなのだろう。
かといって火力を強化するにも、
フェイヤー達より一回り二回り小さい体格を考えれば、
容易に改善できるようなことではないし、
そもそも可能ならば、とっくに対処しているはずだ。
マツリは己を三流だと言うが、
その強さは凡庸なものではなく、
冒険者としても、騎士としても、
ポールなど、足元にも及ばない。
それは安穏として手に入れたものではなかろう。
元々、アコライトだったことを考えれば余計に、
相当な努力が必要だったはずだ。
「それでも、足らないなんて。」
返す言葉を見つけられず、
黙り込んだポールと反対に、
マツリは機嫌良く、ふらふらと出ていった。
フェイヤーが声をかける。
「祀ちゃん、どこかいくのかい?」
「へえ、ちょいと買い出しついでに、
 ポリンでもつついてきますわ。
 まだ日が暮れるにゃ時間があるし、
 空き瓶はいつでも需要がありますかんな。」
「そっか、気をつけてね。」
行ってらっしゃいと見送るフェイヤーに、
ヒラヒラと応えるその腕は、LKとしては細すぎる。
まるでマツリが無理をしている証のような気がして、
ポールは悲しくなった。

「なに、湿気た顔してやがんだ。」
複雑な思いで佇むポールに、テッカが声をかけた。
マツリが支援職から前衛へ転向したのは、
彼の希望だったことを思い出し、
半ば八つ当たり気味にポールは言った。
「テッカさんは、
 どうしてマツリさんを剣士にしたんですか。」
適正があったのならまだしも、
マツリの台詞や現状を考えれば、
単なる上司の無理強いでしかない。
珍しく生意気な態度の新米に、
「ああ?」と、テッカは不可解そうな顔をしたが、
勘のいい彼は直ぐに質問の意図を察して、鼻を鳴らした。

「ああな。
 手っとり早く言やあ、俺の計算ミスだ。」
さて、どこまで言ったものかと、
軽く逡巡するも、表情が険しくなったあたり、
彼としても、苦いものがあるのだろう。
「俺がこっちにくる時、ついてきちまったんだが、
 そんときゃ、家族にゃ勘当され、
 国には二度と戻れねえような状態だったからな。
 目的も雲を掴むような話で、
 何時果たせるかも分からねえし、
 そんな俺の我が儘に、
 先のある彼奴を巻き込むわけにゃ、いかねえだろ。」
再三、帰れときつく命令したのだがと、
テッカはため息をついた。
「けど、言って聞くような奴じゃねえしな。
 キツくあたりゃ、嫌になって帰るかと思ったんだが。」
だが、マツリはそれに耐えてしまった。
そればかりか、二人きり、
馴れない土地での行程は進むにつれ、辛いものとなり、
他に頼らずとも身を守る必要も生じた。
「そうすると決まったからにはやるしかねえ。
 教えられることは叩き込んでやったし、
 剣を振るい始めると結構筋がよくて、
 今じゃあの通りだが・・・
 職も違えば、周りの反応も良くなかったし、
 なんにしても、
 彼奴には相当無理させることになっちまった。」
渋い顔を見ずとも、
テッカはテッカなりに負い目を感じているのがわかった。
だが、マツリの性格を考えると、
そんな気遣いは望むまい。
自分の責任でついてきたのだから、
現状にテッカは関係ないと、言い切るに違いなかった。
ギルドにいる間に、慣れて気にしなくなっていたが、
やたらとマツリがテッカに反抗するのや、
他にそんな態度を許さないテッカが、
マツリにはどうも甘い理由が、
何となく分かった気がして、ポールは肯いた。
そこへユッシが口を出す。
「でもさ、最近ちょっと、
 マツリちゃんを甘やかし過ぎじゃない?
 石投げぐらいはいいけどさ、
 G狩りの参加率悪いし、Gvにも遅れてくるし、
 一度ガツンと言った方がいいと思うよ。」
何をしてたっていいけれど、
協調性だけは保って欲しいよねと、
あきれ顔で言うユッシに、憮然としてテッカが答える。
「むしろ石投げが一番頭痛いんだがな。
 それに俺はどちらかと言えば、
 お前にガツンと言いたい。」
大体お前はと、説教が始まりそうになったが、
フェイヤーが間に入って止める。
「まあまあ。
 そんなことより、ユッシン、
 国に提出するレポートはどうなった?
 提出期限過ぎてるんだけど。」
「まだ、書いてないよ!
 はい、ポール君の取り分。」
ギルマスの催促に胸を張ってハイプリは答え、
今日の戦利品の収入を、ポールに押しつけた。
「あ、ありがとうございます。」
手渡された売り上げはずしりと重かったが、
心にも重いものがのし掛かったようにポールは感じた。
人数ではなく、働きによって配当を分けたとしたら、
この袋はどれだけ軽くなるだろう。
自分はまだ、何も出来ない、出来ていない。

そんなポールの思いに気付いているのか、いないのか、
テッカが発破を掛けるように言った。
「兎も角、環境も下地も最悪だってんのに、
 彼処まで這いあがった、
 彼奴の頑固さと根性は半端じゃねえぞ。
 目標にするなら、お前も相当な覚悟でやるんだな。」
「ハイッ!」
ポールは慌てて返事をし、
言われずとも、そのつもりだったと思い出した。
足らないものは、必死で手に入れるしかない。
へこんでいる暇なんか、始めからなかった。
それに、環境だけならマツリより、
自分の方が数段恵まれているはずだ。
改めて気合いを入れ直す。
「わかったら、早く帰って休め。
 明日も早いぞ。」
「ハイッ、今日もありがとうございました!!
 お先に失礼します!」
テッカの指示に元気よく答える。
「はいよ、お疲れさんー」
「お疲れさまでした!」
フェイヤーにも、ぺこりと頭を下げると、
ポールは駆け足で部屋を飛び出した。

その様子を微笑ましく思ったのか、
フェイヤーが笑う。
「久しぶりにいいこが入ってきたよねえ。
 技術や知識はまだまだあれだけど、
 元気だし、礼儀正しいし。」
「勢いだけはあるのは確かだな。」
ギルマスの言葉を否定せず、肯定もしない程度に
テッカが答え、ユッシも肯く。
「狩り場での動きも、
 テストの点数も良くなってきたしね。
 思っていたより、
 プリの魔法に関する知識は悪くなかったし。
 MEみたいなマイナーな術のことまで、
 知ってるとは思わなかったよ。」
「ふうん。」
少し、考えるようにフェイヤーが相づちを打つ。
「そろそろ、もう少し上の狩り場へ、
 連れて行ってみても良いかな?」
次はニブルの渓谷か、
ハイオークの群なす時計塔などどうかと、
ギルマスは提案したが、テッカが首を振った。
「まだまだ、早いだろう。」
勢いだけでどうにかするには、
まだまだ足らないものが多すぎると言う。
「最近、前にでるようになった代わりに、
 防御が疎かになってきてるしな。
 上の狩り場に慣れるのはいいが、
 注意が散漫じゃあ、危なくて仕方ねえ。
 ここは現状を維持して、基本を固めさせるべきだ。」
「おやまあ。
 思ったより評価が低いね。」
石橋を叩いてわたるような評価に、
フェイヤーが眉を下げた。
「何事も経験だし、若いうちに、
 いろんな狩り場を知っておくのも大事だと思うけどね。 その上で、必要だと思うものを見つけて、
 組み上げていけばいいんじゃないかな。」
どうせポールがいる期間は短い。
ならば、その間に出来るだけ視野を広げ、
何を強化すべきかは自分で考えさせればいいと、
フェイヤーは主張する。
そうすれば、仮に体験期間後ポールがギルドを去り、
指導するものがいなくなっても、
次に目指すものが分かりやすいだろう。
しかし、テッカは更に首を振った。
「だったら尚更基礎を教えておくべきだろう。
 都合にあわせてスタイルを変えていくとしても、
 基礎があるのとないのじゃ、全く違うぞ。」
横からユッシも口を出す。
「うちも狩り場は今のままで良いから、
 もっと全般的な知識を付けるべきだと思うな。」
狩りの時間を少し押さえてでも、
筆記を増やした方がいいと、ハイプリは言う。
「支援は良いけど、攻撃魔法の知識は微妙だし、
 各地域の特性やモンスターの性質なんかも、
 まだまだ理解が足らないよ。
 支援魔法だって、もっと勉強すれば、
 その分連携だって取りやすくなるかんね。
 もっと興味があるようなら、
 クルセの方も検討しても・・・」
『その話はするなって言った。』
フェイヤーとテッカの制止がかぶる。
しばしの沈黙の後、
ハイプリは不思議そうに小首を傾げた。
「そうだっけ?」
「お前、彼奴がきてから、
 何回同じ話を蒸し返すつもりだ?」
「自分の都合で、
 他人様の将来を左右しようとするんじゃありません。」
あきれ顔で年長組が言うのに、
むしろ、初めて言ったと思うんだけどと、
ユッシは心外そうな顔をした。
反省どころか、過去の発言を覚えてない。
彼が如何に恣意的に生きているか判るようだ。
そのマイペースな態度に、
LK二人は肩を落としたが、
気を取り直して「兎も角」とテッカが言う。
「まずは基礎だろ。」
「広い視野は若いうちほど重要だよ。」
「実技重視もいいけど筆記舐めると痛い目見るよ!」
侃々諤々と三人が言い争っているところに、
一人、シャワーを浴びていたノエルが、
頭を拭きながら戻ってくる。
「お先にー なんかあったの?」
不思議そうな顔で問う彼に、
ユッシが怒ったように教える。
「ポール君に次何を教えたら良いかって話。
 絶対、魔法や冒険者としての知識だよな! 
 ノルもそう思うだろ?」
「ノルって言うな。」
自分の意見を押しつけるばかりか、
勝手に名前を短縮する幼なじみを牽制した後、
ノエルは首を傾げた。
「まあ、確かに今はウィズがいないけど、
 組むとなれば、魔法の癖を知っておかないと、
 連携どころか、効果を半減させちゃう・・・ってかさ。」
ポール君と言えばと、
真新しいバックルを取り出す。
「これ、洗面所にあったんだけど、
 ポール君のだよね?」

「あー・・・さっき、腕まで洗ってたから・・・」
あの時だなと、フェイヤーが肩を落とせば、
バカだなあとユッシもため息をつく。
「バックルないと、倉庫も使えないじゃん。」
「そういう問題ですらないぞ。」
テッカが言うとおり、
公認冒険者としてだけでなく、
ミッツガルド王国国民としての身分証明書であり、
所属ギルドの提示、
MPの蓄積や管理、カプラサービスの顧客番号など、
重要な個人情報の詰まったバックルは、
レンジャーにとって命の次に大事なものである。
「まず、一番に教えるべきは、
 冒険者としての自覚だな!」
眉間にしわを寄せて、テッカが言い放つと、
ギルメン達は揃って肯いた。
「全くだね。」
「違いない。」
基礎、知識、新しい環境、
今後どれがポールに提供されることになっても、
厳しいものになるのは間違いない。

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ないかもしれない。
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