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V(ヴァカみたいにどうでも良いこと)を、 N(ねちねち)と書いてみる。 根本的にヴァイオリンとは無関係です。
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いらぬ墓穴を掘ったとはつゆ知らず、
ポールは家路を急ぎながら考えた。
支援職であるアコライトから、
ナイトとなり、LKにまで上り詰めるには、
何をどれだけ、こなせばよかったのだろう。
また、テッカが指導したとは言え、
マツリは決して、良い環境にいたわけではないという。
弓手の村で育ち、剣士の基礎がない自分と、
どちらが大変だったのだろうか。
環境だけなら、自分は随分恵まれているはずだがと、
悩んでいたため、周りに注意を払っていなかった。
それでも、何かが風を切る気配を感じて身を起こす。

ヒュッと音を立てて、小石が壁にぶつかった。
「あっぶな。」
一体誰の仕業かと振り返れば、
見覚えのある二人組が、
ニヤニヤとあざけるような笑いを浮かべながら、
こちらを眺めているのが目に入った。
「まだ、こんな所を彷徨いているのかよ。」
「とっくに田舎に帰ったかと思った。」
石を投げたらしいナイトの少年に、
クスクス笑いをやめないハンターの少女が、
嘲りを隠そうともせずに言った。
「ケビンにマリアじゃないか。」
仲が良かったわけではないが、
公認冒険者となるべく入学した冒険者学校での同級生だ。
学校を卒業して数ヶ月、
色々あった分、懐かしいと言えなくもなかったが、
別に会いたい顔でもなかった。
「それで、ポリンぐらいは、
 まともに狩れるようになったのか?
 学校始まって以来の落ちこぼれさんは。」
さも見下げ果てたようにケビンは笑ったが、
そこまで言われるほどでもないと、ポールは思った。
確かにポールは入学当時、
フェイヨンの村での暮らしや、
その近辺に生息する魔物のことしか知らず、
筆記試験はぼろぼろだったし、
教官が魔法を使う度に驚いて、
周囲の失笑をかってはいたが、
低級モンスター相手に剣を振るう、
実技の出来は特別良くもない代わりに、
取り立てて悪いわけでもなかったのだ。
だが、そんなことを指摘しても、
この同級生は納得すまい。

「関係ないだろ。」
関わってもいいことないと、
ポールはその場を去ろうとしたが行く手をケビンが塞ぐ。
「なくないさ。
 同期に変なのがいると、
 俺たちの質まで疑われるじゃないか。」
レンジャーバックルには、
公認テストに合格した順に番号が刻まれるとは言え、
初心者学校で同期だったかなど、
本人が口にしなければ判らない。
言いがかりも甚だしいと、ポールが眉をひそめると、
ナイトの少年は鼻高々と、
新しい騎士の鎧を見せびらかすように胸を張り、
特に身長差もないのに、上からの目線で言った。
「まだ、剣士のところを見ると、
 相変わらずなんだろうけどな。
 俺はとっくに転職したぜ。」
「ケビンは同期で1番初めに二次職になったのよ。」
一体どこで調べたのやら、
ハンターのマリアがわざわざ教えてくれる。
「因みに私は2番目。」
わざとらしく付け加えるのに、
ポールはその場限りの世辞を口にした。
「早いね。おめでとう。」
少しぐらい、羨ましく感じても良さそうなものだと、
自分でも思ったが、
何の感情も持つこともできなかった。
どうでもいい。
それより、早く帰って休みたい。

ポールが悔しそうでも、
羨ましそうでもないのを不信に感じたのか、
ケビンは眉をひそめて、じろじろとその様子を眺め、
右腕にバックルがないのに気づいた。
「なんだ、もう冒険者はやめたのか。
 正しい判断だぜ、それは!」
けたたましく笑いながら指摘され、
ようやくポールはバックルを忘れたことに気がついた。
流石に慌て、否定する。
「違うよ! 
 ちょっと、溜まり場に忘れてきただけだよ!」
「普通忘れる? レンジャーバックルを?」
ケビンに追従するようにマリアも笑い、
ふと、我に返ったように聞き返した。
「溜まり場? あんた、ギルドにはいってるの?」
口にすると同時に再び吹き出す。
「あんたみたいなの、
 入れてくれるギルドなんか、あったんだ!」
同じように大げさに笑いながら、ケビンも言う。
「どうせろくなギルドじゃないんだろ。
 名ばかりの馴れ合いまったりギルドか、
 余所であぶれた一人者が、寂しく作ったソロギルドに、
 混ぜてもらったんじゃないのか?」
これにはカチンと、頭にくるものがあった。
「おい、取り消せよ!」
我を忘れるほどではないが、
強い怒りが、まとわりつく疲労を吹き飛ばす。

「俺をバカにするのはいいよ。
 でも、ギルドのことは関係ないだろ!」
自分に目を掛け、世話をしてくれたと言うだけで、
何故、否定されなければならないのか。
これは現在やっかいになっているZZHのメンバーは勿論、
ポールを受け入れてくれたドスコイや、
最初に声をかけてくれたクレイに対する侮辱だ。
全員、ポールにとって大切な人たちで、
誰一人、バカにされるわけにはいかない。
腹の底から沸き立つものを押さえてケビンを睨むと、
ナイトの少年は少し怯えた顔をし、
それを誤魔化すように大きな声を出した。
「何言ってるんだ、
 入ってるメンバーをみれば、
 ギルドの質だって、わかるようなもんだろ!」
ハンターの少女も高飛車に言い放つ。
「私たちはね、今、Gvギルドに入ってるのよ。
 そこら辺にいるような冒険者じゃ、
 入れないんだから!」
くだらない自尊心だと、ポールは思った。
「Gvギルドだけがギルドじゃないだろ。
 そもそも、ソロギルドやまったりでも、
 別に悪いことじゃないじゃないか。」
毎朝3時間の授業中、
ユッシが教えてくれたところによると、
確かに、Gvを目的としたギルドの中には、
質と連携を求めるために、
一定の条件を満たさなければ、
入会を認めない所もあるとのことだ。
しかし、そんなギルドは対人戦や、
砦での活動に特化する故に、Gvでは確かに強いが、
通常の狩り場での動きが今一だったりするという。
また、基準を用いないギルドが弱いと言うわけでもなく、
狩りの利便性の所為に組まれたギルドはもちろん、
交流を主とした「まったり」ギルドなどにも、
優秀な冒険者は山ほどおり、
彼らが偶に参戦することによって、
Gv常連Gが敗退することも良くあることだと、
ハイプリは言っていた。
確かにレンジャーに会ったら、
ギルドフラッグもみろとは言われるが、
所属ギルドで評価されるのは、
大体において人柄に対するもので、
決して冒険者技量を確定するものではないことを、
今やポールは知っている。
どんなギルドに入ったか知らないが、
Gvギルドの所属したというだけで勝ち誇る二人が、
滑稽に見えて仕方がなかった。
しかし、彼らはそうは思わない。

「入れない奴に限って、そういうこと、言うのよね。」
「全く、みてみたいよ。
 お前をギルドに入れる間抜けの顔が。」
ポールの台詞を単なる負け惜しみとして、
嘲り笑うのをやめるどころか、一層バカにする。
心底うんざりしたが、
メンバーをこけにされて黙っているわけにはいかない。
兎も角、それだけは撤回させようと、
ポールが口を開きかけた途端、
肩にズシリと重い物が負ぶさった。
「見たければ、いくらでも見ればいいじゃない。
 ノルの顔なんか、減るもんじゃなし。」
「おい、俺かよ。」
聞き慣れた二人組の声に、ポールはひどく驚いた。
「ユッシさん、ノエルさん!」
その声に答えず、
だらりとポールの背中に負ぶさったまま、
ユッシはノエルと言い争う。
「だって、そうだろ。
 うちは間抜けじゃない。テツさんも違う。
 フェイさんはどっちかったらアル中だし、
 だったら、ノルだ。」
「無理に設定しなくていいだろ。
 それに、名前を短縮するなってば。」
「ちょ、俺の頭の上で喧嘩しないでくださいよ!」
言い争う二人を止めながら、
ポールは困ったのだか、嬉しいのだか、
何とも言えないものが沸き上がってくるのを感じた。
その横で、勝ち誇っていたはずの二人が青ざめる。
「ZZHのノエルにユッシ?!」
「あ、あんた、ZZHに入ったの?」
名前を呼ばれてLKハイプリコンビが、
おや、という顔をして言い争うのをやめた。
「呼ばれたぞ、ノル。」
「そーね。で、お二人さん。
 うちの新人さんがなんだって?」
一気に喧嘩モードというわけではないが、
売るなら買うぜと、ノエルが不適に笑うと、
二人のバックルを確認したユッシが、
がっかりしたように言った。
「なんだよ。
 「その辺のじゃ入れない」って言うから、
 どこかと思えば"Blind Feather"じゃないか。
 しかも、またナイトと来れば引き抜く気もしないや。」
「知ってるのか、ユッシ?
 っていうか、引き抜く気だったのかよ!」
Gvギルドに関わらず、
多彩な人脈と情報を持つ幼なじみにノエルが聞けば、
ハイプリは大げさに肩をすくめて首を振った。
「先々月解散した、
 "Trool"と"Rang Baranser"は知ってるだろ? 
 そこのメンバーが集まって出来た新しいギルドだよ。
 人数は多いけど、
 それ以上の魅力も感じないって言うか。」
せめて職が違えば誘い甲斐もあったのにと言う、
ユッシは前向きなのか、節操がないのかわからない。
ポールの頭に顎を乗せ、
ぶらぶら腕を揺らしながら、ノエルに指示する。
「そんなわけで、仲良くする必要もないから、
 思う存分ブチのめせ、ノル。
 あ、でも、そっちのハンターの子はもったいないか?」
「俺がやるのかよ。
 っていうか、メンツが欲しいのは判るけど、
 勧誘は時と場合を選べよな!」
「出会いは有限だぞ。
 誘えるときに誘っておかないでどうする。
 だからお前、未だに彼女の一人も出来ないんだよ。」
「それは今、関係ないだろ!!」
頭の上で繰り広げられる、
何処までも自分の欲望に合理的なユッシと、
正論なのに何故か分が悪いノエルの言い争いに、
ポールが目を白黒させていると、
有無を言わさない低い声で、制止が入った。

「やめろ、みっともない。」
声の主を見て、ケビンがますます青ざめる。
「テッカ・リンドウまで・・・マジかよ・・・」
対するマリアは、ケビンとは少し反応が違う。
「やだ、ちょっと、どうしよう。」
まるで、アイドルにばったり出会したかのように、
頬を染め、恥ずかしげにケビンの後ろに隠れた。
そんな二人の様子を見て、
やはりZZHのメンバーは凄いのだなと、
ポールは改めて確信した。
イベントギルド・ジュノーカフェの経営する、
毎月のGv中継にはZZHも映る。
見知っていてもおかしくないが、
例え、ジュノーカフェのギルマスの一押しがあっても、
それを裏打ちする実績がなければ、知名度は上がるまい。
揺るぎない実力があればこそ、
全く面識ないはずの相手にまで、
顔と名前を覚えられているのだろう。

「ったく、心配になってきてみりゃ、
 案の定、無駄な騒ぎを起こしてやがって。」
ポールの同級生には目もくれず、
さっさと帰るぞと、テッカは指示を出した。
LKハイプリコンビは素直にそれに従う。
「はーい。」
「いこうぜ、ポール君。」
「あ、はい。」
二人に促され、
なし崩し的にポールもその場を離れることになる。
無視された形になったケビンが、
「え、ちょっと、」と、声を上げるが、
誰も振り向かない。
「それにしても、腹減ったなー」
「まあ、いい時間だから。
 今日は何処に食いにいこうか。」
ユッシとノエルが何事もなかったかのように、
違う話を始め、テッカの視線に急かされるようにして、
ポールも二人の後を追う。

ここまで露骨に無視されたケビンの心中や、
想像するだに恐ろしいとポールは首をすくめたところに、
大きな声が肩をつかんだ。
「こそこそ逃げ出すとは、落ちたもんだよな!
 プロンティアの鷹と呼ばれた元RGHのメンバーも!」
ぴたり、と前をいく二人の足が止まり、
ノエルの背中に、ポールは思い切り鼻をぶつけた。
「ああ? なんだって?」
低い声で、ユッシがケビンを咎め、
無言で振り返ったノエルの瞳も、氷のように冷たい。
「ちょっと、止しなさいよ!」
マリヤが必死で相方を止めるが、
ケビンはその腕を振り払った。
「いくら人手不足にしても、
 そんな意気地なしを入れなきゃいけないなんて、
 よっぽど切羽詰まってるんだな! 
 当然、うちみたいな大手とはやり合いたくないよな!」
「人数だけのBFごときが、
 誰に何を言ってやがんだ?」
自分たちとやり合うことで、
大手ギルドに目を付けられたくないのだろうと、
挑発するケビンに、即座にユッシが牙をむきだし、
ポールを押し退け、前にでた。
ハイプリは支援職にも関わらず気が荒い。
「さっきっから、やけにポール君に絡むじゃん。」
ギルドに対する侮辱にも、怒っているだろうが、
後輩へのケビンの態度にノエルも激しく不快を示す。
再び喧嘩を始めようとする二人を、
片手でテッカが止めた。
「止めろ。」
これ以上、任せておけないと考えたのか、
騒ぎが大きくなるのを嫌ったのか、
自らナイトの少年に向き直り、ポールを顎でしゃくる。
「お前、こいつに何かされたのか?」
怒りにまかせて噛みついたものの、ZZHの要と呼ばれ、
文字通り、他とは一線を引く実力を持つテッカの、
威圧感に堪えきれず、ケビンが僅かに下がった。
「別に、そんなのあんたには関係ないでしょう・・・」
「だが、見過ごすにゃあ言うことが穏やかじゃねえ。
 ちゃんとした根拠があるんだろうな。
 それとも何か? 
 まさか初心者学校の成績だけで、
 一生が決まるなんて言うんじゃねえだろうな?」
「それは・・・」
只でさえ実力差に押されているのに先制パンチを打たれ、
ナイトの少年はますます詰まった。
元々転職したてのナイトがかなう相手ではない。
そこへ助け船を出そうと、ハンターの少女が口を出した。
「だって、そのこはアーチャーにならなかったんですよ、
 フェイヨン出身なのに。」
何とか場を取り直そうとしているのか、
努めて明るく振る舞う。
「フェイヨンに生まれたなら、
 弓職に就くのが当たり前でしょう?
 家族や周りに技術も教えて貰えるし、環境も最高。
 なのに、わざわざ剣士になるなんて、
 おかしいじゃないですか。
 実際、全然向いてなかったし。
 だから、ちょっとからかっただけですよ。」
「フェイヨン出身なら、
 弓職に就かなきゃいけねえ決まりでもあるのか。」
即座に、テッカが重ねて問いた。
その口調はケビンに対するものよりもキツく、
只の冗談だと誤魔化そうとしていたマリヤは青ざめ、
ナイトの少年の背中に隠れた。

「ちょっと、何とか言ってよ。」
元々自分で売った喧嘩だ。
ポールだけでなくZZHに対しても、
先ほど唾を吐きかけている。
ハンターの少女に縋られなくとも、今更後には引けぬと、
意を決したのか、ケビンはポールを指さして言い放った。
「そいつは、逃げたんだよ!
 アーチャーに向いてないから、
 ナイトになりたいって理由を付けて、逃げたんだ!」
これにはテッカも眉をひそめ、
ユッシとノエルも、僅かにポールを振り返る。
「ポール君、どう言うこと?」
戸惑い気味のノエルに問われ、
勝手に決めつけられてたまるかと、
ポールも必死に言い返した。
「違うよ! そりゃ確かに俺は弓の腕は悪かったし、
 罠の設置とかも下手だったけど、
 ナイトを目指したのは、弓師の勉強を始める前の、
 子供の頃からだって言ったろ!」
「誰がそんなこと、信じるんだよ!
 フェイヨン一の弓師の息子が、
 わざわざナイトを目指すかよ!!」
ポールの反論を頭から否定し、
ナイトの少年は彼を罵った。
「結局、自分の才能のなさから逃げただけだろ!
 ナイトは体を張って仲間を守らなきゃいけない、
 命がけの職業なんだ!
 お前みたいな卑怯者のチキンの隠れ場にされちゃ、
 迷惑なんだよ!!」

名声高い父を持ちながら、弓のセンスがない。
入学時、うっかり口を滑らせたことから、
それはポールの成績の悪さを裏付ける証拠として、
あっと言う間に広まった。
その時の同級生の反応や、ケビンの指摘は、
ポールからすれば謂われのない非難であったが、
同時に耳慣れた台詞でもあった。
幼い頃に得た騎士への憧れは、
ポールの心の中にしかなく、誰にも見せられない反面、
父との差に絶望して他職へ逃げたという考えは、
安易で誰にでも理解できる。
故に、出身や家系に反した彼への周囲の冷たい反応は、
初心者学校が初めてではなかった。
ただでさえ、フェイヨンはセンスがあろうとなかろうと、
ほぼ全員がハンターになるようなところなのだ。
それ以外を志すのは相当な異端だ。
足らないものを埋める努力すらしないのかと、
怒るにしろ、呆れるにしろ、
誰も、彼の話を聞いてくれない。信じない。
案の定、困ったように己を見つめる先輩の視線を感じ、
ポールはここ数ヶ月忘れていた孤独を思い出した。

「勝手なこと、言うなよ。」
皆の気持ちも分かる。
実際、事実なのではと、
自分でも疑うところがないわけでもなかった。
村一番の腕を持つ父の息子にも関わらず、
ポールに弓の才能がないのは、
かなり早い段階から村中の知るところで、
同年代の子供達は、よく彼をからかったし、
3つ年上の姉とのあまりの違いに、
大人たちは揃って溜息を付いたものだった。
いくら、ハンターになりたい気持ちが薄かったとしても、
それが辛くなかったわけがないし、
むしろ、騎士になるという覚悟を決めるまでは、
弓手としてのセンスのなさは、揺るぎのない現実として、
常に彼を叩きのめしていたからだ。
そんな事実を見たくないために、
別の道を進んだとされても、完全に否定するのは難しい。

だが、幼き日、旅の騎士を見たときの高揚感が、
消えない想いとして彼の中に残っているのも、
紛れもなく、本当のことなのだ。
その確かに自分の中にあるものを信じ、
己の道を進んできた。
何人たりとも、
この想いまで否定する権利などないはずだ。
「なんで、弓手に向いてないってだけで、
 俺が騎士を目指しちゃいけないんだ!」
弓の不得手と、何を目指すかは別の話のはずだと、
ポールは叫んだが、鼻先で笑われる。
「臆病者に勤まる仕事じゃないって言ってるんだよ!
 だいたい、本当にお前が必死で努力してるなら、
 とっくに転職してるはずだろ。」
既に二次転職がすんでいるのは自分だけではないと、
ケビンは言った。
「転職まで一年なんて言われた頃とは違うんだ。
 本気で毎日狩りをすれば、
 必要MPが貯まるまでば3ヶ月もかからない。
 上級職と一緒に狩ってるなら、もっと早い。
 けど、学校を卒業して何ヶ月も経ってるのに、
 お前はまだ、剣士じゃないか!」
まあ、確かにね。と、やる気のない声で、
ユッシが相づちを打つのが聞こえる。
それはケビンの耳にも入ったらしい。
勝ち誇るように、ナイトの少年はポールを指さし、
言い切った。
「結局、駄目な奴が何やったって、
 駄目なんだよ!」

ギリリ、と無意識に食いしばった奥歯がなった。
尊敬する先輩方の前での侮辱、
誰にも認められることのない屈辱。
何より冒険者として、たった数ヶ月であっても、
必死で積み上げてきた努力を全面否定された怒りが、
長年つもった鬱憤と共に体の中を駆け巡る。
ポールは一歩踏み出した。
「お前に、いったい何が・・・!」
「判った。もう、いい。」
何が判ると喉の奥から、
魂が吐き出されるような叫びは、
拳を握りしめた右腕ごと、無理矢理押さえつけられた。
押し戻された怒りが腹の中をかき回し、
吐き出しそうになる。
そんな彼をあくまで冷徹に押さえ、
僅かに首を振ったテッカの瞳に、
哀れみに似たものが浮かんでいるのを認め、
ポールは泣きそうになった。
やはり、判っては貰えないのだ。
掴まれた腕を振り払い、
その場から逃げ出したい衝動に駆られ、もがくが、
テッカの左手はピクリとも動かない。
その目はポールを見てもいない。
動くなと、テッカの左手に言われ、
利き手ですらない制止もふりほどけない自分に、
ポールが絶望している上から、声は降ってきた。
「つまり、親と同じ職に就かねえ奴は、
 ろくでなしって事か? 下らねえ。」

予想外の言葉に思考力を奪われ、
ポールは、そのままきょとんとした顔で固まった。
「全く、聞くだけ時間を無駄にしちまった。」
再び首を振った後、固まっているポールをみて、
テッカは溜息をつき、
がさがさと頭を掻いた右手をポケットにしまうと、
ギルメンたちを促した。
「さっさと帰るぞ。」
有無を言わせない決定に、ノエルが頷き、
ユッシは一瞬不本意そうに目を反らせたが、
こちらもすぐ諦めて素直に従った。
やれやれと大儀そうにユッシが歩き始めると、
場の展開についていけずに、
ぽかんとしているポールの腕を、
当然のようにノエルが引っ張る。
「ほら、用は済んだし、飯食いに行こう。
 腹減ったよ。」
「え、ええ。」
ずるずるとされるがままに、
ポールがノエルに引きずられて行くのを、
鼻を鳴らして見送ると、
他ギルドの二人組にテッカは一言だけ投げつけた。
「自分の価値観と違うってだけで、
 よく、知りもしなけりゃ、
 手合わせもしてねえ相手を見下せるたぁ、
 BFのメンバーっていうのは、随分偉いんだな。」
そのまま、くるりときびすを返し、
メンバー達の後を悠々と追いかける。

残された二人は暫し立ちすくんだが、
投げつけられた言葉の意味が理解できないほど、
愚鈍ではなかった。
ポールの実力や、会わない間に彼が積み上げてきたこと。
彼を受け入れたギルド、メンバーの事情や考え。
また、自分の言動で所属するギルドがどう思われるか。
テッカは多くを語ったわけではないが、
年若い二人組が赤面するに十分だった。
彼が始終冷静で淡々としていただけに尚、それが痛い。
「何も判っていない餓鬼が偉そうな口を叩くな。」
とでも、頭から罵られた方がまだマシだと歯噛みし、
ケビンが悔しさも露わに地を蹴る。
「俺らも帰るぞ!」
そのまま、荒々しくマントを翻した相方の背を、
慌ててマリアは追った。
「ちょっと、待ってよ!」
全身から怒りを吹き出しているかのような彼に、
どう接するべきか、戸惑いながら、
ハンターの少女は少し、後ろを振り返った。
黒髪のLKが仲間達に追いつき、
何か話しかけられているのが見える。
「・・・やっぱ、格好良かったなぁ。
 もー こんなことになるなんて、超最悪~」
もっと別の出会い方がしたかったと、
名残惜しげに呟いた彼女に、怒鳴り声が飛んでくる。
「さっさとこいよ!」
「ご、ごめんっ 今行くってば!」
噛みつくようなケビンの声に首をすくめ、
マリアは急いで相方の元へ走った。
足早に二人が立ち去った後に残ったのは、
夏の匂いを含んだ風ばかり。
だが、見ていたものがいれば、
今月のGvGは荒れると予測するに違いない。

「おい、ユッシ。
 お前が国一番だって誉めてたWIZ、
 ミシェルとか言ったか?
 あいつはどこ出身だったっけ?」
「リヒタルゼンだな。
 セージのメッカ、ジュノーならまだしも、
 リヒに負けるとか、ゲフェンはなにしてるんだろな。」
「でも、あれだよな。出身や親だけで、
 スキルやなんかが確定すれば、ある意味楽だよな。」
「何、言ってるんだ。ダメな親だったらどうするんだよ。
 お前の義理の兄貴みたいな。」
「義兄さんはダメじゃなかったよ!
 立派なプリーストだったよ!
 ただ、姉貴が強すぎただけだよ!!」
「ああ、あの姉ちゃんは確かに怖かった。」
腐れ縁としか言いようがないという幼なじみ同士が、
言い争うのを聞き流しながら、
ポールはまだ、ぼんやりしていた。
ほんの10分足らずの間に起こったことの、
大体の流れは理解できたのだが、
自分がどういう反応をすればいいのかは、
判らなかった。
どうやら、先輩方はケビンの言に惑わされることなく、
自分の味方をしてくれたようだがと考えていると、
あからさまに眉をしかめたテッカに叱られた。
「いつまで腑抜けてやがんだ。」
「すみません!」

一瞬で正気に返り、ポールは慌てて背筋を伸ばしたが、
やはり、どういう態度をとっていいのか判らない。
困って、直ぐに下を向いてしまう。
その様子に、ますます眉間の皺を深め、
テッカはきつい言葉と、
レンジャーバックルを併せて投げつけた。
「ったく、
 そうやってちょくちょく気を抜いてやがるから、
 あんなのに絡まれっし、バックルも忘れるんだ。
 もっとシャキッとしろ、シャキッと!」
投げつけられたバックルを受け落としそうになり、
一時あたふたするも、
直ぐに己が情けなさでいっぱいになる。
「はい・・・すみません・・・」
吐き捨てるような物言いは厳しかったが、
怒っているわけではないのに気がついたポールは、
ますます肩を落とした。
確かにテッカの指導の厳しさは、
ノエルやフェイヤーの比ではなかったし、
人当たりの良い方ではない分、睨まれれば大層怖い。
だが、言葉や態度の裏に隠されたものは、
直接的ではなくても伝わってくる。
そういう意味で、テッカはマツリとよく似ていた。
また、ギルドの要と言われるだけあって、
その判断は冷静で公平だ。
多少怒りっぽいところがあるとは言え、
少なくとも、よく知らないケビンの言葉を鵜呑みにして、
ポールを見下すような男ではない。
どうして、自分はこの人を疑ってしまったのだろう。

「まあまあ、次から気をつけるよね。」
「バックル忘れるとか、
 次も前もあっちゃいけないけどな。」
「ユッシ! また、お前は!」
「本当のことだぞ! 
 バックルなかったら、施設が使えないどころか、
 稼いだMPも全部パアじゃないか!」
ノエルがフォローに入る側から、
ユッシがそれを打ち消し、言い争いが始まる。
この二人にしても、特にノエルは、
ポールの言い分も聞かずに、結論を出すことはあるまい。
身を置いて、まだ半月ばかりとはいえ、
彼らの人なりはポールにも判っている。
結局、仲間を信じなかったのは自分ではないか。

だが、しかし。

「大体お前は人の気持ちを考えなさすぎだ!」
「本当のことは言わなきゃわかんないだろ!」
「お前等、いい加減にしろ!」
ノエルとユッシが言い争い、
テッカが二人を押さえるのを聞きながら、
ポールは不安をかき消せずにいた。
「落ち付けって。大丈夫だから、落ち付けって。」
自分に言い聞かせながら、
仲間を信じきれない己の未熟さを深く恥いると同時に、
ポールは今まで受けてきた扱いが、
自身に落としている陰の濃さを痛感した。
まだ、自分は彼らを疑っている。
本当に、ケビンの話を聞いて、
何とも思わなかったのだろうか。
モロクの砂漠やアルベルタの港町に近い、
比較的拓けた森外れのごく一部を除けば、
フェイヨンで弓を持たない者がいないのは、
プロンティアでも常識だ。
まして、高名な弓士の父がいながら跡を継がないなど、
何か理由があると考えるのが普通なのに。
「どうせ、信じて貰えてないよ。」
そう、ため息をついている、もう一人がいる。
「余計なこと考えるなよ。」
と、そいつを押さえ込もうとしていたら、
テッカに再び怒鳴られた。
「何だ、なんか言いたいことでもあるのか!」
「ハイィッ! すみません!!」
飛び上がったところで、
真正面から自分を見つめるテッカの視線に捕まる。
蛇に睨まれた蛙よろしく、逃げることも、
誤魔化すことも出来ない。

「あの、さっきの、俺が、
 父さんの跡を継がなかった話しとか、何ですけど・・・」
大人しく白状したが、
だんだん語尾が弱くなってしまう。
答えを聞くのが、怖かった。
その様子にノエルとユッシは喧嘩をやめて顔を見合わせ、
テッカは苦虫を噛み潰したような顔になる。
だが、ポールの泣きそうな顔を見て、
考え直したのだろう。
「さっきも言ったが、フェイヨン出身者は、
 ハンターにならなきゃいけない決まりなんてねえ。
 事情だって、それぞれあるだろ。」
新米剣士の問いに答えるその声は、
いつも通りのようで居て、何処か暖かかった。
「どんな理由で、なにを目指したとしても、
 他人が口出すことじゃねえ。
 まして、そいつが真面目にやってりゃ、尚更だ。」
ノエルとユッシが、揃って頷く。
「あんなの、気にすることないよ。」
「そうそう。親が立派だからって、
 子供がそうとは限んないじゃん。」
「ユッシ、それ、今使うべき言葉じゃない。」
「あれ?」
それだとポール君が駄目だって言ってるのと同じだろ。
なんで? そうは言ってないじゃんと、
二人組が揉めるのにため息を付き、
草臥れたようにテッカは僅かに首を振った。
「仮に始めがなんだったとしても、
 ちゃんとした結果が出せりゃ、問題ないだろが。
 つまらねえこと気にしている暇があったら、
 その分努力して、立派な騎士になっちまえ。」
ハンターになれなかったからではなく、
騎士を目指して良かったと、笑えるような。
そのために此処にいるんだろと、
テッカの瞳は言っていた。
答える言葉を持てず、ポールは必死で何度も頷く。
そんな新米に仕様がねえなと、テッカは再び首を振り、
ノエルに財布を投げる。
「お前等、これでこいつに旨いものでも食わせとけ。」
「あれ? テツさんは?」
一緒に行かないのかと不思議そうに聞くノエルに、
心底嫌そうにテッカは答えた。
「俺は帰って、フェイさんのお守りだ。
 見張っておかねえと、何やらかすか判らねえからな。
 祀も帰ってくるだろうし。」
「あー・・・ お疲れさんです。」
納得してノエルが頷くと、
珍しくユッシも熱心に頼んだ。
「ちゃんと見張っといてね。
 最近、マジで飲みすぎなんだよ。 
 特に怪我した後や、Gv前は飲んじゃ駄目だって言うのに、
 絶対聞かないんだから。」
「・・・全く飲まないってのは、もう遅い気がするがな。」
まだ付き合って日が浅いから、
むしろ、夕方から家に帰るから、
ポールの知らない何かがあるらしい。
ZZHの古参メンバーは揃って肩を落とし、
ため息をついた。
「じゃあ、そういうことで俺は先に帰るが、
 これ以上、無駄な騒ぎ起こすんじゃねえぞ。」
「はーい。」
素直に返事をするユッシとノエルに後を任せ、
やれやれと首を振りながら、テッカは歩き始めたが、
思い出したようにポールの前で足を止めた。
「浮き沈みが激しいし、
 自信もねえくせに、無謀だとか問題はあるが、
 お前が必死に頑張ってんのは、皆、知ってんだ。
 下らねえことは、気にすんな。」

言うだけ言うと、さっさと帰ってしまう。
如何にも序でと言わんばかりに付け足されたそれに、
ポールは勝手に涙がこぼれ落ちるのを感じた。
振り返ることのない背に、ただ頭を下げると、
ノエルが肩を叩いてくれる。
「さ、美味しいもの、沢山食べよう。
 ラーメンとか、好きかな?」
おいしい店、知ってるんだけどと陽気に提案するLKに、
ばっかだなあとハイプリが怒声に近い声を上げた。
「折角テツさんが心づけくれたんだぞ!
 ここはパーッと! 派手に! 
 綺麗なお姉ちゃんのいるような店で!」
「ポール君は未成年。
 序でにお前は既婚者。
 且つ、俺はそういう店知らないけど当てあるの?」
「ない!」
「駄目じゃん! 色々問題ありすぎるじゃん!」
いいだろ、言ってみたかっただけだし!
良くない! それでも良くない!と、
幼なじみ同士が争うのを前に、
やっぱりポールはどうしていいか判らなかった。
冒険者、剣士としての技術は勿論、
突っ込み的渡世術も磨いた方がいいらしい。

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