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目覚めると、酷く気分が悪かった。
どうやら、良くない夢を見ていたらしい。
何とか起きあがると、頭が割れるように痛い。
ぼんやりと、どんな夢を見ていたのだっけと考えたが、
手のひらから砂が落ちるように、
さらさらと流れて消えてしまった。
どうせ、ろくな夢ではあるまい。
よっこいしょと、年寄り臭いかけ声をあげて、
ベットから立ち上がる。
少し、足下がふらついた。
昨日の酒が残っているのだろうか。
「僕も、見た目ほど若くはないからねえ。」
なんの気なしにこぼれた独り言だったが、
ユッシが聞いたら、一体幾つのつもりだと、
怒るに違いないと考え、苦笑する。
昨晩のことは余り覚えてないが、
取りあえず、布団に潜り込んだだけ上等としよう。
体がギシギシ言うのを感じながら、
フェイヤーは階段を下りた。
水の一杯でも飲めば、気分もすっきりするだろうと、
考えていた彼の耳が、
ピィピィと聴きなれない声を捉える。
「あ、フェイさん、おはようございます!」
「おや、ポール君、今日も早いね。」
机に座って何かしていたらしい新米が、
ギルマスの姿を見つけ、嬉しげに挨拶してきた。
30cm四方の見慣れないダンボールを前に、
にこにこしている。
先ほどのピィピィ声は、そこから聞こえてくるようだ。
軽い好奇心でのぞくと、ピンク色の小さなひよこが、
怯えることもなくフェイヤーを見上げ、ピィと鳴いた。
「おや、可愛いピッキだね。」
まだ、頭に卵の殻をくっつけていそうな、
小さなペコペコの雛に、自然と顔も綻ぶ。
「でしょー 昨日の夜、買ってもらったんです!」
レンジャーの命、バックルを忘れた新米を追いかけて、
ユッシたちが出かけていったが、
ついでに買い物にでも行ったのだろうか。
新米にプレゼントとは、
あの三人にしては珍しいことをする。
そんなことをぼんやり考えながらフェイヤーは、
ポールが雛鳥に夢中になっているのを眺めた。
「よしよし、お腹が減ったんだね。
いま、ご飯あげるから。」
雛鳥に話しかけ、擦り餌を与える様はまるで父親だ。
まだまだノエル達に色々教わる立場のポールが、
一人前に雛鳥の面倒をみようとしている姿は、
なんだか、小さい子供が兄から教わったことを、
したり顔で更に小さい子に教えているようでおかしい、
もとい微笑ましい。
同時に少し力を入れれば簡単に握りつぶせてしまう、
雛鳥の弱々しい姿に、軽い不安と恐怖を覚え、
やはり、この手の動物はちょっと苦手だなと考えた。
弱肉強食というこの世の摂理は身に染み着き、
今更疑問も感じないし、
生きるために戦いもすれば狩りもする。
己の手を汚すことを憂うほど純粋でもないが、
小さな命が儚く散ってしまうのは、
いつになっても慣れやしない。
むしろ、守ってやろうと手を伸ばしたものを、
守りきれなかった時の痛みに対する恐怖は、
年をとるほど強くなっていく。
だったら、初めから関わりたくないと思ってしまう、
己の弱さとずるさにため息をつくのはいつものことだ。
傷つくことを承知で、
守る側にまわった古い知人がいるが、
その勇敢で無謀な選択は、
自分には真似できないと、改めて思う。
この、如何にも弱々しい雛鳥はうまく育つのだろうか。
意外にも慣れた手つきで、
ポールが雛鳥の口に擦り餌を突っ込むのを見ながら、
フェイヤーは冷蔵庫を開けた。
昨晩粗方飲んでしまったようで、
あいにく、中身は殆ど入っていなかった。
隅っこに残っていたサイダーの缶を引っ張りだす。
カクテル用の炭酸水で、味も素っ気もないものだったが、
酔いざましには丁度良いだろう。
その後ろで、ギイとドアが開いた音がした。
ポールが挨拶する。
「あ、テツさん、お帰りなさい!」
こんな朝早くからテッカは出かけていたのかと、
プルタブを開けながら振り返り、
プシュッという炭酸が抜ける音を聞く。
「お帰り、鉄っちゃ・・・」
言いかけた挨拶は思わぬ殺気に襲われ、途切れた。
身構える暇もなく、右手の缶に強い振動を感じ、
とっさに手を離すと炭酸水をまき散らしながら、
魔力の槍に突き刺された缶が空を舞うのが見えた。
一瞬の出来事に、ポールが口を開け、
フェイヤーも判断に迷う。
カン、カラカラと大きな音を立て床に転がる空き缶と、
こぼれた炭酸水がシュワシュワと音を立てるなか、
テッカの低い声が響いた。
「・・・なんだ、サイダーか。」
「い、いきなりスピアピアースとか、
一体何事だい、鉄っちゃん。」
魔力を練り上げ槍型に形成し投げつける、
スピアピアースは騎士の得意とするスキルの一つだが、
威力故に人に向かって打つのは重罪だ。
急所を外し、さらに小型化されていたとはいえ、
殺人罪に問われかねない行為に、
フェイヤーが顔をひきつらせると、
それ以上にひきつった笑顔でテッカは言った。
「あんた、もう、暫く俺の前で酒を飲むな。」
ギルマス相手にも関わらず、
有無を言わせないテッカの重圧が、
都合良く覚えていない昨晩の不始末を物語っていた。
どうやら、また、何かやってしまったらしい。
あっちゃーと、テッカから目を逸らせ、
どう謝ろうかとフェイヤーが逡巡し始めた横で、
今度はポールが怒られる。
「お前は何を部屋の中に持ち込んでやがんだ!」
「ご免なさいー!!」
そう言えばテッカは鳥が嫌いだ。
予期せず火に油を注ぐ形となったポールが、
すぐさま裏の鳥小屋に逃げ込むと、
フェイヤーは予想したが、珍しく新米は食い下がった。
「でも、こんなに小さいんですよ。
向こうの鳥小屋じゃ、すぐ風邪とか、
病気になっちゃいます。
もう少し大きくなるまで部屋に入れさせてください。」
ポールが言うとおり、
まだ母鳥の胸に抱かれている時期であろう雛鳥を、
外の鳥小屋へ単独でつれていけば、病気どころか、
寒さであっと言う間に死んでしまうに違いない。
それを無理に表へやれなどと非情な仕打ちは、
流石に出来ず、テッカは若干考える様子を見せた。
しかし、掛かる手間を考えれば、
なし崩し的に認める訳にもいかない。
「何でそんな面倒なもん、仕入れてきたんだ。」
ペットを飼う余裕はまだないだろうと責められた新米は、
首をすくめるどころか、胸を張った。
「ペットじゃないですよ、パートナーです。」
「パートナー?」
「騎士になった頃に乗れるよう、
今から育てるんです。」
予想外の答えにフェイヤーも聞き直したが、
その方が、信頼関係が築けて良いと聞いたと、
何の疑う様子もなくポールは答えた。
確かに騎士となった暁には、
ポールも騎乗用としてペコペコを飼うことになるだろう。
だがしかし。
「ユッシン! ちょっと降りてきなさい!」
二階で寝ているはずのハイプリに向かい、
フェイヤーは怒鳴った。
それにあいつは昨日から帰ってきていないと伝え、
テッカが額を押さえる。
「ノエルは、一体何をしてたんだ・・・」
一緒についていながら、役に立たないと嘆く。
その様子に目をパチクリさせながら、ポールが聞いた。
「なんでユッシさんが買ってくれたって、
分かったんですか?」
現場にいなかったにも関わらず、何故分かったか。
それはペットを買い与えるだけならまだしも、
同時に変な無茶を言いつけたとあれば、
誰の仕業か容易に想像がつくからだ。
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残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


