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V(ヴァカみたいにどうでも良いこと)を、 N(ねちねち)と書いてみる。 根本的にヴァイオリンとは無関係です。
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詐欺? レンジャー規則違反? ギルド資金の使い込み?
どれも全くそぐわないが、
テッカやマツリの態度は普通ではない。
「一体、何をやらかしたんですか、クレイさん!?」
心の中で叫びながら、
ポールはイズルートへ全力で向かった。
途中でマラソン中のユッシにぶち当たる。
「ちょっと! 何処行くのよ?」
走り疲れて不機嫌も露わなハイプリは、
そのまま走り去ろうとした新米の腕をひっつかみ、
ヒステリックに叫んだ。
「まだ、勉強の時間じゃ・・・」
「それどころじゃないんです!」
非難を遮ってポールは怒鳴る。
ユッシに刃向かうなど、
不可能が可能になったのは、それだけ慌てていたからだ。
「クレイさんが、なんかやって、
 テツさんが大変なんです!!」
「クレイさん?」
混乱のままに口にした台詞は、ユッシの顔色も変えた。
「おい、なんだよそれ!
 クーさんが居るなら、うちも言いたいことがある!」
「後にしてください!」
胸ぐらを掴まん勢いで、
食いついてきたハイプリを振り払い、
ポールは先を急いだ。
帰宅後を考えると恐ろしいが、今はそれどころではない。
過去に何があったのか。
想像も付かないが、
ユッシの様子からしても、事態は深刻なようだ。
万一のこと、取り返しもつかないようなことがあったら、
どうしよう。
どうしたら、いいんだっけ?

「焦ったって良いことないよ。
 まずは落ち着いて、状況を把握しなさい。」
複数の敵に囲まれた、うまく動けない、
使用スキルを間違った等、
すぐ慌てるポールに、よくフェイヤーは言った。
「慌てたところで状況が変わるわけでもないし、
 開き直っちゃいなさい。
 それの上で何が出来るか考えると良いよ。
 どんなに酷くても、
 本当に何も出来ない状況なんてあんまりないし、
 落ち着いてみると、穴があったりするしね。」
そうだ、まずは落ち着いて考えろ。
「そうだよ、それほど酷い状況なはずがないよ。」
渦中の二人は、大人だ。
クレイはヒゲ達の悪ふざけに怒ったり、
逆に手酷い仕打ちをしても、
後まで残るようなことはしない。
本当に悪いことをすれば、きちんと謝るし、
何かやられたときは、怒っていても相手の話を聞く。
人としての一線を弁えている彼女が、
許されざる悪行などしまい。
テッカも、時々指摘されるように、
怒りっぽいところがないわけではないが、
それは飽くまで身内同士でのことで、
事が重要なほど自我を抑え、冷静に振る舞うよう勤める。
まして、女相手に怒りに任せて何かするはずがない。
だから、大丈夫なはずだ。
「俺は二人を信じる。
 滅多なことがあるもんか!」
そう、信じるしかない。
無我夢中でポールは走り続け、イズルートへ飛び込んだ。

「二ギャーーーーー!!」
絹を裂くような悲鳴が耳をつく。
転がりこむように、
ドスコイ喫茶のたまり場へたどり着いたポールの目に、
飛び込んできたのは、どうしようもない絶望だった。
「助けてポール君!! 
 突然変なLKが殴り込んで・・・!」
「お前だけには変とか言われたくねえ!!」
「実にご尤もwwwwwwww
 しかし、我々の業界では誉め言葉ですwwww」
「黙れ!!」
ボコボコにされたジョーカーが助けを求め、
ヒゲが余計なことを言って殴られる。
ドスコイの二人組がフルボッコという、
いつも通りと言えば、いつも通り過ぎる風景に、
ポールは顔を覆い、座り込んだ。
「テッカさんの裏切り者! 信じてたのに!!」
「何がだ!」
ジョーカーの首根っこを押さえながら、
テンポよく、テッカが突っ込む。

確かに女相手に暴れているわけではないが、
クレイさんじゃなきゃいいやとは、流石に言えない。
「なんでこんなん、なっちゃったんですか?」
色々な意味でどうしようもない状況に叫ぶポールに、
ヒゲが報告する。
「ジョカが悪いと思います!
 ジョカが初対面の人に、
 『お前にやる、おっぱいはねえ!』とか、
 失礼なこと言うからいけないと思います!!!1」
「いつもながら即行でボクを売るなwwwwwwww」
八つ当たりも甚だしく、ジョーカーがヒゲに飛びかかり、
騒ぎはますます激しくなる。
テッカなら、大人の対応をしてくれると、
彼を信じたポールは馬鹿だったのだろうか。
いや、ジョーカーとヒゲを相手に大人の対応など、
誰にも求めてはいけないのかも知れない。

ドスコイの二人組がフルボッコ&大騒ぎという、
日常と一欠片も違いが無さ過ぎる現状だからこそ、
弱り果てたポールに、
救いの神と更なる火種が同時に舞い降りた。
「何、騒いでるの。」
タイミングが良いのか悪いのか、
問題のクレイが顔を出したのだ。
「クレイさん!」
何とかしてくれと、ポールが泣きつく間もなく、
一瞬で彼女は状況を理解した。
「さよなら。」
顔色一つ変えず、クルリときびすを返す。
「ちょっとwwwwwwwwwww」
そうはさせるかとジョーカーが飛びつき、
ポールが右腕を捕まえ、ヒゲが反対側を押さえる。
「この状況で去らないでよ!」
「それはないですよ、クレイさん!」
「酷すぎるぞ、ベッキー!」
何の躊躇いもなく仲間を捨てるなと、
ドスコイメンバー総出で引き留められ、
渋々、クレイは立ち止まった。
しがみつく男共を振り払い、改めて状況を一瞥する。

ようやく正面から対峙する様子を見せたハイプリに、
LKも呼吸を乱したまま、向き直る。
しかし、相手の様子をうかがっているのか、
思うことがありすぎるのか、双方、直ぐには動かない。
荒々しく獣が唸り合うのとは違う、
冷たい緊張感に、自然と場が静まり返る。
手に汗を握り、状況を見守るドスコイメンバーを前に、
先に動いたのはクレイだった。
「いよう。」
1年ぶりの再会にしては、適当すぎる挨拶に、
不機嫌さも露わにテッカが答える。
「久しぶりだな。元気そうじゃねえか。」
「お前もな、マグロ丼。」
再び、しばしの沈黙が流れた。

口火を切ったのはテッカだった。
「誰が丼だ、馬鹿野郎!
 漢字が同じだからって失礼にもほどがあるだろってか、 
 ここ、外国で誰に通じるんだよ!
 そもそも、久しぶりに会って言うことがそれか!!」
頭から怒鳴りつけられても、押されるクレイではない。
勝っても劣らぬ激しさで噛みつき返す。
「るっせーな!
 悪口なんか、当人に通じりゃそれで十分だ!
 まあ、無理があるとは自分でも思ったわ!」
これでは収まるものも収まらない。
当然の結果として、言い争いに発展した。
「散々心配かけさせて、なんだその態度! 
 相変わらず可愛くねえな!
 1年も経って、少しぐらい変化はないのか!」
「別に心配かけたくてかけた訳じゃないし!
 変えるつもりも特にないし!
 何よりお前に可愛いとか思われたくないし!」
「可愛くねえ! 本当に何年たっても可愛くねえ!」
「そうですが何か? 今更何言ってるの? 馬鹿なの?
 バーカバーカ、鉄火のバーカ。」
「誰が馬鹿だ! 俺が馬鹿ならお前は阿呆だ!」

ぎゃあぎゃあとしか表現できない喧嘩は、
段々ヒートアップしていき、
最終的に子供のような叩き合いがぺちぺち始まった。
ポールが危惧していたような展開でこそなかったが、
真剣身が薄すぎて、対処に困る。
「ちょっとー もう、なんなのこの二人。」
殴られた頬をさすりながら、ジョーカーがふてくされ、
ふらふらといつも通りの足取りで、マツリもやってきた。
「あーあ。 案の定、やってますな。」
「マツリさん。」
酷く面倒そうに顔をしかめたLKをみて、
ポールは改めて訪ねた。
「いったい何なんですか、これ?」
「何に見えますか。」
「どっからどう見ても、痴話喧嘩ですな。」
質問に質問で返したマツリに、
ジョーカーが答えると、首をすくめて肯定された。
「端的に表現すれば、
 いわゆる元カレと、元カノですな。」
「因みに別れた理由は、
 テツさんの家庭の事情らしいよ!」
横からのヒゲの補足にマツリは頷き、ぼやいた。
「事実だけ言えば、姐さんが若旦那を振って、
 国を飛び出しちゃったんすよ。
 でも、はい、そうですかって状況じゃなかったんで、
 後を追っかけてきたのは良いものの、
 当然なかなか見つからねえし、見つけた時にゃあ、
 それぞれ抱えた事情もございましたしね。」

数多くの国、都市の中、しかも慣れぬ地で、
たった一人を探しだすのは、
海岸で一粒の砂を見つけだすようなものだ。
数年で再会できたのは、非常に運がよかったが、
年単位で月日が流れれば、
仕事や友人、環境は勿論、気持ちも変わる。
別れただけの理由もあったわけで、
元の鞘に戻れるはずもなく、直ぐ近くにいながら、
すれ違うような状態が続いたのだという。
だが、マツリは二人の状況に気を使う理由もないと、
国に居た時と同じ様に振る舞い、
狩り仲間としても、クレイと共に行動した。
接点が存在する以上、
お互い、全くの無関係を通すわけにもいかず、
段々と会話を交わすようになれば、変化も生じる。
元々嫌いあって別れたわけでもない。
遅々とした歩みであっても、
いつかは、昔のように戻れるのではないか。
そう、マツリが期待し始めた矢先のことだったという。

「寄り戻すの、戻さねえのは兎も角、
 黙っていなくなるのだけは止めろと、
 言ってる最中に行方不明になった人が。」
「クレイさんが悪いと思います。」
「ボクも。」
事情を聞いて真っ先にポールがクレイを非難し、
ジョーカーが追従する。
「まて、世の中には予定外というものがある。」
ヒゲが尤もらしいことを述べるが、
計画的にやられたら堪らない。
「不可抗力だってのは、あたしも聞いてますがね。
 納得できるもんと、出来ないもんがありますわ。」
理解と感情は多々、別のものであり、
この件に関しては自分も怒らない自信がないと、
マツリは腹立たしげに唸った。
だからこそ、関わりたくなかったが、
放っておくわけにもいかず、結局様子を見に来たらしい。
普段テッカには理由なくとも逆らい、
クレイにはべったりなマツリが、
ここまで言うのであるから、
実際、色々貯まっているのだろう。
どことなく落ち着きがなく、苛立たしげな態度に、
感情的になってる今なら、色々聞き出せそうだと判断し、
情報不足を補うべく、ジョーカーが切り出した。

「つかさー 真面目な話、最初に何で別れたのよ。
 家庭の事情っていったって、程度があるでしょ。」
身内での問題が発生するには色々あるが、
クレイが逃げ出すほど酷いのであれば、
寄りを戻すも何もないと言えば、きっぱり否定された。
「断っておきますが、その件に関しては、
 一切若旦那にゃ、非はありませんぜ。
 うちの一族の長になられる方ですからね。
 そりゃ、周囲は反対するに決まってますが、
 面倒を見ると決めてから、一歩たりとも、
 揺らいだこたぁござんせん。
 身を引いたんは、姐さんの勝手な判断でさね。」
その頃からテッカはいざとなれば、
家より恋人を選ぶ覚悟を持っていた。
クレイには何も心配ないから任せておけと言い聞かせ、
正面から周囲の説得に当たっている最中に、
渦中の相手が身を眩ませたのだ。
誠意を踏みにじったのはクレイの方だと、
実際に現場をみていたマツリが言うのだから、
間違いないが、
それでもヒゲは困ったように腕を組み、首を傾げた。

「でも、ベッキーからすれば、散々世話になってる上に、
 これ以上迷惑を掛けられんってのは分かるけどなぁ。」
自分一人が責められるのであればまだしも、
己のせいで恋人が火中に立たされて、
平気ではいられまい。
そう、クレイを庇えば、
身を引くにも限度があると言い返される。
「だからって、只でさえ丈夫な体じゃねえし、病んでて、
 まともにやってけねえのが目に見えてんのに、
 放っておけねえでしょう。
 挙げ句、海の向こうで行方不明になったと聞いて、
 黙ってられるほど、こちとら薄情じゃありませんわ。」
村を出ていく程度ならまだいい。
隙を見て会いに行くこともできれば、手助けもできよう。
だが、外国へ向かう船に乗って、
そのまま行方知れずになったと聞いた時、
自分達がどれだけ心配したか分かるかと、
マツリが憮然とすれば、ポールも頷く。
「それで後を追って来たわけかぁ。
 確かにそれじゃ、心配ですよね。」
自分の家庭の所為で、
病弱な彼女が村を出て行かざるを得なかったとなれば、
心中穏やかでいられるはずがない。
その上、行方不明などなれば、
男として黙っている方がおかしい。
それでも、ジョーカーはまだ不満げに言い募った。

「でもさー 実際、何とかなっちゃってたんでしょ?
 だったらそこで、大人しく帰るべきだったんじゃない?
 ずるずる未練がましく引っ張ったから、
 体調不良を理由に、また逃げられたんじゃ。」
お互い、苦労はしたかも知れないが、
再会したとき、恋人が既に新しい仕事や、
環境に馴染んでいたのであれば、
それ以上は無用な心配だろう。
どんな過去であっても、過ぎてしまえば過去でしかない。
心変わりした恋人にしつこく言い寄れば、
それは一途ではなく、ただの自己中だ。
再び身を眩ますような追いつめ方をしたのではないか。
ジョーカーの疑いは、ヒゲが首と手を振って否定する。
「いや、2回目に関しては、
 真面目に不可抗力だったらしいぞ。」
体調悪いなとは思っていたが、まさか突然意識を失い、
強制入院するほど酷いことになるとは、
本人も思ってなかったらしい。
「それにあの頃、
 ベッキーは学費の資金繰りで、相当無茶してたしなー
 結婚でもしてるならいざ知らず、
 相変わらず独り身で苦労してるのが分かって、
 放置するなら、来た意味がないだろ。」
ヒゲが肩をすくめて言えば、
我が意を得たりと、マツリが別方向から賛同した。
「そうなんすよ。
 それなのに『あいつが望まないのに、
 俺が手を出すわけにはいかない』とか格好付けて、
 半端に手を引きやがって、あの馬鹿旦那。
 もっと積極的に動けば学費集めだって早く終わったし、
 姐さんだって倒れずにすんだかも知んねえのに。」
当時の対応が相当不本意だったのか。
マツリの眉間のしわがますます深くなったのに、
怯えながら、ポールも言った。
「それにテツさんも今更帰れないんじゃないですか?
 結局、家族も地位も捨てて、
 出てきちゃったわけでしょう?」

元々反対されるだけの立場にいたのに、
それを無視して、こちらまで来たのだ。
駄目だったで済む話ではないはずと指摘すれば、
にべもなく払い下げられる。
「国のもんは、戻ってきて欲しがってますがね。
 今更、姐さんを捨てて帰るとか、
 お天道さんが許しても、あたしが許しませんよ。」
鼻先で笑われて、一体マツリはクレイとテッカ、
どちらの味方なのだろうと、ポールは考えた。
どちらにしろ声が怒っているので怖い。
そろそろ、この話は終わりにしたいのに、
ジョーカーがまだぐずぐずと反論する。
「でも、肝心のクレイさんの気持ちってもんがさー」
どうしても、二人の仲を否定したいようだ。
女の気持ちがないと、いくら男側で騒いでも無駄だと、
けちを付けるのに、ヒゲが呆れた声を出した。
「馬鹿だな、ジョカは!
 事情があって別れたとはいえ、
 惚れた男が心配して遠国まで来てくれたとか、
 嬉しくない訳ないだろ!」
そう言われれば、そうなのだろうけれど、
元々恋愛経験のないポールには、もうよく分からない。
「つまり気持ちの問題じゃないから、問題なんですね。」
なんとか、理解しようと勤める側から、
また、関係ないところで怒られる。

「周囲の意見とか、身分がどうとか、
 そんなんは若旦那がいいって言ってるんだから、
 どうでもいいんすよ!
 姐さんはつまんないこと気にしすぎなんすよ!」
感情がヒートアップしすぎて、
コントロールできなくなっているのかもしれない。
きちんと人の話に対応しているとは思えないが、
マツリが雄弁だったお陰で、
当人達のすぐ隣だと言うのに、
無神経に盛り上がった暴露話は、
パシンと、小気味よい音で強制終了された。

横で騒いでいる間に、
隣はまじめな展開に発展したらしい。
頬を押さえたクレイの姿に、
ポールはカッと頭に血が上るのを感じた。
とっさに駆け出そうとした彼を、ヒゲが押さえる。
「離してくださいよ、ヒゲさん!」
「落ち着け、落ち着くんだポール君!」
これが落ち着いていられるとか、ポールは憤った。
「どんな理由があっても叩くなんて、酷いですよ!」
見損なったと怒るポールを、
普段の彼と同一人物とは思えない真摯な態度で、
ヒゲは言う。
「ワシ等にはわからん理由もある!
 まずは落ち着くんだ!」

真正面から肩を押さえられ、
ぐっと詰まったポールに、ヒゲは重ねて言った。
「まずは、落ち着いて、」
話し始めたそばから、怒声が響く。
「離せ、この野郎!」
「真剣は流石に不味いって、マツリちゃん!」
愛刀を抜かんばかりのマツリを、
ジョーカーが必死で止めている。
「まずはマツリンを止めるのを手伝ってくれwwwww」
「俺には無理です!」
真摯な態度は何処へやら、
ポールは泣きついてきたヒゲに、本気で首を振った。

「ちょっと、止めてよマツリちゃん!
 マジで駄目だって!」
「姐さんに手ぇ出されて黙ってろってんですか!」
「落ち着いてください、マツリさん!」
「ベッキー、何とかして!」
ドスコイメンバーでは怒るマツリを押さえきれない。
助けてくれと泣きつかれ、
クレイは困ったように首を傾げた。
「えー 今、こっちだけで十分揉めてるんだけど。」
全く、彼女の言う通りであるのだが、
普段飄々としているマツリが感情的になると、
ここまで手が着けられないとは、誰も思っていなかった。
男三人揃ってベソをかきそうになったところで、
ストップが入る。
「ギャアギャアうるせえぞ、祀!
 大人しくしろ!」
怒鳴ったテッカに、
『誰のせいだとwwwwwwwwww』
ドスコイ三人、声にならない突っ込みを入れる。

案の定、マツリが落ち着くはずもなく、
唸り声を上げる勢いで噛みつき返した。
「あんたこそ、大人しくしてりゃ何してやがんですか。
 姐さんに手ぇ出すたぁ、正気ですかい!」
「あ、大丈夫、ぜんぜん痛くないから。」
横からクレイが他人事のようにいれたフォローは、
簡単に流され、荒々しくテッカは部下を押さえた。
「黙れ! さっきから聞いてりゃ、
 余計な事をベラベラ喋くってやがって。
 何時からそんなお喋りになりやがった!」
がつんと、頭から叩きつければ、
上下関係はきちんと発動するらしい。
不満を隠しはしないものの、マツリは臨戦態勢を解いた。
八つ当たり気味に、
腕を押さえるポールとジョーカーを振り解く。
そこへもう一言、叱咤が飛ぶ。
「第一、そう言う裏話は陰でやれ!
 こんな表通り、しかも当人の前で堂々とやるな!」
こちらもご尤もである。
部下と一緒にドスコイメンバーまで大人しくなると、
まったくしょうがねえなと、
怒りを追いやるように首を振り、テッカは言った。
「黙ったら、とっとと帰るぞ。」
これには驚いて、ポール達は揃って、
クレイとテッカの顔を交互に見返した。
応えたマツリの声も戸惑っている。
「姐さんは?」
このままでいいのか。
不安も混じった問いに、きっぱりとテッカは言い切った。
「構うな。
 そいつも、俺らに言うことはないそうだ。」
縁を絶ちきるかのような物言いに、
部下は即座に反発する。
「"俺ら"って言わないでくださいー
 あたしはあんたと違って、
 ちゃんと姐さんに愛されてますー」
「本当に可愛くないな、お前等は!」
生意気なマツリの言い返しに、
いい加減我慢の限界なのか、大人げなくテッカが怒鳴る。

「兎も角、帰るぞ。」
「・・・へーい。」
何とか声のトーンを落とすと、
テッカはクルリときびすを返した。
そのまま、振り返らずに帰ってしまう。
その後ろ姿と、クレイを交互に見返し、
マツリは立ちすくんでいたが意を決した。
「姐さん。あたしゃ、如何な時でも、
 姐さんの味方のつもりですが、
 この件に関してだけは、
 若旦那の側に立たせてもらいますわ。」
捨て台詞のように言うだけ言うと、
足早にテッカの後を追う。
嵐のような二人が立ち去さり、空虚な感覚だけが残った。

ふむ、と特に表情を変えず、クレイが首を傾げ、
叩かれた頬をさする。
「大丈夫ですか、クレイさん?」
ポールが訪ねると、初めて彼の存在に気がついたように、
目を開き、苦笑した。
「ああ、全然平気よ。
 思い切り手加減されたし、
 叩かれるだけのこともしたしね。」
「でも・・・」
「大丈夫、大丈夫。」
確かに、本気でテッカが叩いたのであれば、
そのままクレイは吹き飛んでいただろう。
叩かれたところも、跡が残り、腫れ上がっているはずだ。
だが、さすられる頬は僅かに赤みを帯びてすらいない。
クレイも何事もなかったかのように笑った。
それが返って気になって、ポールは下を向く。
『大丈夫か、心配なのは、
 頬っぺたの事だけじゃ、ないんだけどな。』
思っても、口には出来ない。
何を心配すればいいかも判らない。
ただ、ため息をつくことすらできずにいる彼を余所に、
ジョーカーがきっぱりと宣言する。
「全く、もう!
 元カレだかなんだか知らないけど、今度きたら、
 クレイさんのおっぱいはボクのだって言わなきゃ!」
「マジ、帰れよ。」
「マジ、空気嫁よ。」
即座に入ったクレイとヒゲの突っ込みも耳を通り過ぎた。
嵐が本当に去ったといえるかは兎も角、
イズルートはいつもと変わらない。

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