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揃えば、もうちょっと・・・畜生ユッシ、火鎧返せ!!」
「何でもできるし! ボク、何でもできるし!
バランスは万能だし! 半端なんて気にしてないし!」
何にしても、
先輩のコンプレックスは刺激しない方がいいらしい。
誰もいない彼方に向かって、
叫び始めたノエルとジョーカーに、
ポールが呆然としていると、
ヒゲが思い出したように付け加える。
「でもGvには、ああ言うのがいっぱいいるかんな。
気合い負けしてたら、やってられないぞ?」
「うひー 本当ですか?」
「んだ。」
彼のような強い冒険者が沢山居るとすると、
自分なぞ、塵芥に等しい。
判っていたこととはいえ冷たい現実を、
ポールは今から噛みしめ、先輩連中もため息をつく。
皆、すっかり寒くなったところで、
ジョーカーが着替えを持ってきていない事に気がついた。
「つかさー 誰か、バスタオル持ってない?」
「そんなん、持ってるわけないだろ。」
暢気な台詞にヒゲが呆れるが、
濡れネズミなのは彼も同じだ。
タイミング悪く太陽は雲に隠れ、風も出てきてしまい、
ぶるぶる震えだした二人を見かね、
ポールが道具袋を漁る。
「さっき倒した、レグルロの羽ならありますけど。」
これなら、タオル代わりにならなくもないのではとの、
新米の気遣いは、我が侭なAXに却下された。
「やだよ、鳥臭くなるから。
ボクがそんな臭いをさせてたら、
世界中のお姉さんががっかりしちゃう。」
そう宣うジョーカーは、即行で無視するとしても、
ヒゲまで放っておけない。
「大丈夫ですか、ヒゲさん?」
心配するポールに、ハイプリは本当に情けない顔をした。
「腹が冷えるとまずいんだ!
漏らしたらどうしよう?!」
「いや、自分で何とかしてよ。」
こっちもこっちで、対処に困る。
二十歳過ぎてから漏らした数は指の数じゃ足りないと、
主張するヒゲに、真顔でノエルが突っ込む。
ますます狩りをする雰囲気ではなく、
ジョーカーは完全にやる気を失ったらしい。
「しゃあない、もう、帰ろうよー」
当然の結果ともいえる主張に、
ノエルが戸惑ったような声を上げた。
「え、帰るの?」
帰らない方がおかしいぐらいの状況で、
それを拒否するような態度に疑問を感じ、
ポールが首を傾げた。
「何か問題でも?」
「いや、帰るにはまだ時間がって言うか。」
何処となく落ち着かない様子で、
ノエルが口をもごつかせた。
ただ、あれこれ言い訳を用意できるほど、
彼は鞭撻な方ではなく、
本人もそれは自覚しているのか、
少しの逡巡の後、正直に理由を話した。
「なんていうか、マツリちゃんが、
迎えに来てくれる手はずになってるんだよね。」
だからそれまで、ここに居なければと言うノエルに、
ジョーカーが口をとがらせた。
「別にいいでしょ。ヒゲのポタで帰ったって。」
帰れさえすれば何でもいいじゃない。
そう言われてノエルはますます困ったようだ。
「でも、行き違いになったら悪いし。」
折角迎えにきてくれるというのに、
当人たちが居なければ無駄足になってしまう。
そればかりか、何かあったのかと心配して、
そのまま自分たちを探しに行くかもしれない。
マツリにそんな迷惑はかけられないと、
ノエルが思うのは当然だが、
一刻も早く着替えたいジョーカーにすれば、
長々と迎えがくるのを待ちたくないに決まっている。
さて、どうしたものかと悩んでみても、
いい手があるわけでもなく、
ひとまず、待ち合わせ場所までやってくれば、
木陰でのんびり休んでいるハイプリーストの姿が見えた。
「いよう。」
「クレイさん!」
いつもと変わらないクレイの姿に、
ポールは大急ぎで駆け寄った。
色々と聞いていただけに心配もあったが、
元気そうな様子に安心もする。
「吐血は、もう大丈夫なんですか?」
「ああ、もうぜんぜん平気。」
その答えもいつも道理、落ち着き払ったもので、
病の気配は微塵も感じられない。
現場を見ていないポールは、
この様子なら大丈夫なのではと思ってしまう。
逆に、ノエルがぐったりと肩を落とした。
「俺らが平気じゃなかったよ・・・」
「ははは、すまんね!」
恨めしげな友達に陽気に答えるその様は、
ヒゲが勢いに任せて色々とごまかすのに似ていた。
そう考えると清々しさが返って胡散臭く思えるが、
まずは元気そうで何よりと、新米は胸をなで下ろした。
「でも、随分早かったね。」
「まあねー」
約束の時間より早く迎えにきていただけなのに、
もう、大丈夫なのと、しきりに様子を気にするノエルに、
平気平気とクレイが手を振る。
そこへやはり、
彼女の不調を認識できないらしいジョーカーが、
クレイを心配するより先に、己が主張を優先させる。
「どうでもいいけど、早く帰ろうよ。
このままじゃボク、風邪引いちゃうよ。
それとも、クレイさんが暖めてくれるんですか?」
余計な文句を付け足して、
それっていいなあと、妄想モードに入った彼には、
冷たい現実が突きつけられた。
「勝手に引けよ。」
「バカは風邪引かないんだぞ。知らないのか、ジョカ!」
クレイの付き離しとヒゲの己を棚に上げた叩きの、
連係攻撃が炸裂し、まともに受けたジョーカーが怒る。
「お前と一緒にするなwwwwww」
いつも通り、相方だけにAXが食ってかかり、
ぼかすかと殴り合いが始まった。
「はいはい、喧嘩しない。」
「とりあえず、一旦帰りましょうよ。」
この雰囲気にすっかり慣れたノエルが仲裁に入り、
ポールも帰宅を主張する。
「はいよ。」
ジョーカーの怒りなど微塵も意に介することなく、
言い争いを投げ捨てて、クレイが振り返った。
「ワープポータル。」
早速形成された移動魔法陣が光を放ち、
各自それに飛び乗っていく。
出口はいつも通り見慣れたイズルートの片隅、
と思いきや、同じく見慣れては居ても、
プロンティアのZZHの溜まり場こと、
集合アパートの前であった。
「あれ、ここプロ?」
「こっちにメモ取ったんですか、クレイさん。」
「うん。」
戸惑うポール達を後目にクレイがアパートの扉を開け、
そそくさと何故か逃げるように、
ノエルが中に引っ込んでしまったので、
残りも何となく、後に続く。
一人、ジョーカーだけが入り口の前で立ち止まり、
文句を言った。
「もー 早く帰ろうよ。
こちとら、ずぶ濡れなんですよ?
大体ボクは人見知りが激しいのに、
こんなところに連れてきてどうしろと!」
ZZHのメンバーと今後どの様につきあうにしても、
自分を巻き込むな。
少なくとも、今やるなとジョーカーが怒るそばから、
ヒゲが大喜びで手を挙げる。
「いよう、ユッシン、久しぶり!
フェイさんも元気そうですな!」
「生きてたのか、ヒゲ氏。」
「お久さ~ ヒゲさんも元気そうだね!」
声をかけられた方、ユッシ、フェイヤーも同じく、
嬉しそうに挨拶を返す。
「それからマツリンと、
テツさんもさっきぶりwwwwwww」
「うぃっす。」
「ああな。」
ついでにマツリ、
その後ろの若干不機嫌そうなテッカにもヒゲは挨拶し、
返事をして貰ったのをいいことに、
元気でしたか! みりゃわかるだろと絡み始めた。
一人、置いてきぼりを食らったジョーカーが憮然とする。
「何、この阻害感。」
「だから、ヒゲ氏はあたし等と面識あるんですってば。」
呆れ顔でマツリが教え直し、
流れについていけてないポールがクレイを省みた。
「何かあったんですか?」
「いや、何かあったって言うか。まあ、あれだ。
本日よりドスコイは、
ZZHに吸収合併されることになりました。」
無表情に告げられた確定事項に、
ジョーカーとヒゲが悲鳴を上げる。
「ちょwwwwwww」
「ちょっと、ベッキー! どう言うこと!?」
二人掛かりで食ってかかられても、
クレイの表情は変わらない。
「ついでに君らに選択権はないんだ。」
「更に酷いwwwww一体なにがwwwww」
自分のギルドに関わらず、
しかも、ギルド員ですらないクレイに解体を宣言され、
一応、ワシ、ギルマスなんですけどと、
半泣きでヒゲは主張した。
それから逃れるように顔を背け、
クレイは悲痛の隠った声で事情を話した。
「すまない、ヒゲ氏。本当にすまない。
でも、ハイプリ大魔王の怒りを静め、且つ、
うちがGvに引きずり込まれないためには、
こうするしかなかったんだ。」
「いわゆる生け贄ですねwwwwwwww」
「正に外道wwwwwwwww」
いくら声が悲哀に満ちていても、
どこまでも自己都合に満ちた理由に、
再びヒゲが悲鳴を上げ、ジョーカーも叫んだ。
なんてこったと泣きわめく二人を後目に、
ユッシが不服そうに口を挟む。
「誰が大魔王よ。」
「ユッシン。」
あくまでも冷静に答えるクレイからは、
反省の色や後ろめたさは微塵も感じられず、
今まで正視することのなかった彼女の黒い部分に、
ポールはひきつった笑みがこぼれるのを、
止められなかった。
その後ろでこれまた勝手なことに、
フェイヤーが実に嬉しそうな声を上げる。
「いやー 人少なくて困ってたから、助かったよ~」
鼻歌を歌い出さんばかりのギルマスの横では、
青い顔をしたノエルが、
いつも通り、どこ吹く風な態度のマツリを咎めた。
「マツリちゃん、ドナドナ歌うの止めて。
俺の良心が痛む。」
「へーい。」
「っていうか、俺が時間稼いでる間に、
テツさんの説得は穏便に済んだんだろうね?」
マツリを問いつめる先輩の姿に、ポールは一人、頷いた。
「ああ、何かそわそわしてたのって、
そんな役目、背負ってたからかあ。」
必要な時間を稼ぎ、且つ、自然にドスコイメンバーを、
たまり場まで誘導する計画だと思われるが、
冒険者としての職務、精算の必要性などを考えれば、
実に合理的な罠だ。
人の良いノエルの性格を考えれば、
陰謀と知りつつも、頼まれて嫌とは言えないだろうし、
彼の誘いであれば、
誰もが疑問を持たずに付き合うに違いない。
「実際、俺もちっとも疑わなかったしなあ。」
そう、力なく呟いた新米の心も知らず、
諸悪の根元、クレイはきっぱりと宣言した。
「まあ、うちは自分の保身の為なら、
平気で友達を売るよ。」
「あっさり言い切らないでくださいよ。」
「ここまで堂々としてると、
もはや反論する気がなくなるな。」
清々しいまでに売り飛ばされ、
ポールと同じ気分なのだろう。
ジョーカーとヒゲがぼんやりと感想を述べる。
普段、無駄に元気な二人組がぐったりしたのに、
流石に悪いと思ったのか。
いや、悪いと思うのであれば、
始めからやらないであろうから、
やはり何とも思っていないのか。
兎も角、頭を掻いてクレイは言った。
「それに、手前勝手なこと言うけど、
自分らにも悪いことばかりじゃないはずよ。
Gvで上手く砦取れれば、国から報奨金がでるし、
後、確か、欲しがってた闇のルーンだっけ?
あれを落とすスコグルがでるオーディン神殿は、
今、一般冒険者立ち入り禁止地区になってるけど、
砦取ったギルド員には特権として進入許可が・・・」
彼女は最後まで言い切ることはできなかった。
「ありがとうございます!
ありがとうございます!」
「ジョーカーです! 今日からよろしくお願いします!」
ヒゲが土下座しながら感謝を示し、
ジョーカーは跳ね回って自己紹介を始めた。
提示された報酬は、二人に十分すぎたらしい。
「いや、取れればの話しですよ?」
「見事な変わり身っすね。」
あまりの変わりように、
判っているかとクレイが確認する横で、
マツリが首をすくめる。
それでも一応、ドスコイ側が納得した形となり、
無事に合併が行われることとなった。
とてもそうは見えなかったが、
今回の騒ぎの主原因として一応気を張っていたのか、
クレイが一息つく。
「無事、まとまってよかったわー
先日ブラッドさんから肩代わりした、
借金返済期日の件、持ち出さずに済んだし。」
晴れやかな笑顔を見せる彼女と正反対に、
無表情でノエルが突っ込む。
「ちょっと、それって脅迫っていうのよ。」
もう、クレイの黒い部分は無視することにして、
ポールは先輩二人に改めて確認する。
「いいんですか、二人とも?」
仕組んだクレイは勿論だが、
自分にも都合が良すぎる展開過ぎて、
素直に喜べない彼と裏腹に、
こともなげに二人は返事をした。
「うん。なんかよく分かんないけど、
ベッキーがいいなら、いいんじゃね?」
「こうなったら仕方ないしね。
クレイさんも、ボクがいないと寂しいだろうし。」
ドスコイは元々形ばかりのギルド。
その気になれば、すぐに作り直せるとヒゲは笑い、
ジョーカーも大げさに首をすくめて、
クレイの我が儘を認めた。
その後ろから即座に補足が入る。
「別にいいよ。自分だけイズに戻っても!」
ヒゲさえ居れば、何の問題もないと言い切られ、
ジョーカーが再び悲鳴を上げる。
「今更一人だけ戻れる訳ないのを知ってこの態度wwww
ここは悪いけど宜しくって言いましょうよwwwww」
「絶対嫌だ。」
どこまでも冷たいクレイと、
泣かされっぱなしのジョーカーが言い争いから、
それまで黙っていたテッカが、
うんざりした様子で顔を背けた。
これまでの経過を考えれば、機嫌がいいはずがない。
いくら他が喜んでいたとしても、
彼の不満を押し退けてまで、
ヒゲとジョーカーの加入を押し進める気には、
とてもなれず、ポールは訪ねた。
「テッカさんは、いいんですか?」
不安も露わな新米に、
テッカはますます物言いたげな顔をしたが、
諦めたように力なく言った。
「しょうがねえだろ。
うちに人が足りないのは事実だしな。
それにお前もギルドで悩まずにすむだろ。」
どちらかを選ぶ必要がなくなり、
丁度良かったじゃないかと言われ、
ますますポールは申し訳ない気分になった。
「それはそうですけども。」
新米は自分に都合が良ければいいと言える性格ではない。
そのお人好しを考慮したのか、
如何にもついでとばかりにテッカは付け加えた。
「お前がいなくなったら寂しいって、
ユッシとノエルがぐずぐず言うのを聞かずに済むから、
俺も助かる。」
あまり、彼に都合の良い理由とは思えなかったが、
目を丸くしたポールに、
仲良くやれとため息混じりにテッカは言い、
その後ろでハイプリLKコンビが、
照れくさそうにお互いをつついた。
そんな様子に目を細め、
頃合いとフェイヤーが場を締めくくる。
「まあ、そんなわけで宜しくお願いします。」
「よろしくー」
それぞれギルドマスターの挨拶に応え、
お互いに挨拶を交わし合う。
早速、新しいメンバー参加時恒例の、
ギルドの方針や規定の説明が始まるが、
お互い、元々あってないような指針なので、
適当なフェイヤーの確認に、
ヒゲがいい加減に返事をして終わった。
その横で新メンバーの都合などそっちのけで、
ユッシがGvの算段を始めてノエルに怒られ、
口数の少ないテッカを、
クレイとマツリが二人掛かりでどつき始めた。
皆、なんだかんだ言って、
新しい展開に自然と心が弾んでいるのだろう。
たった3人とはいえ、メンバーが増えたことで、
ユッシが言うとおり、
Gvの内容も結果も変わるはずだ。
通常の狩りも、これまで以上にレベルの高い狩り場へ、
いけるかもしれない。
思いがけない幸運が舞い込んできたような気がして、
ポールもじっとしていられず、うろうろと歩き回った。
意味もなく飛び跳ねたいような気持ちになる。
ただ一人、ジョーカーだけが、
先ほどのクレイの付きはなしから立ち直れずに、
ぶつぶつ呟いていたが、思い出したように、
突然飛び上がって叫んだ。
「あ、忘れてた!
ギルド合併云々は差し置いても、
これだけは言っておかねば!
特にテッカさんに!」
「なんだよ。」
名指しの要望に怪訝そうな顔をしたテッカを、
ビシッと指さし、ジョーカーは言い放った。
「元カレだか、なんだか知りませんけど、
クレイさんのおっぱいは、ボクのですからね!」
これだけは譲れないと、激しく主張するAXに、
黒髪のLKは、黙って腰の得物に手を伸ばした。
「ボーリングバッシュッ!!」
「ニギャアアアアアアアア!!!」
どこかで見たような光景に、
フェイヤーが肩を落とす。
「あーあ、鉄っちゃん本気で怒らせた。」
「若旦那はこの件に関して、
特に大人げないですからな。」
「止めた方がいいんじゃないの。」
呆れ顔でマツリが鼻を鳴らし、
ノエルが不安げに口を挟んだが、
即座にユッシが吐き捨てる。
「めんどくせー」
「放っておけばいいよ!」
自業自得とヒゲもユッシに賛同し、
防御の要、プリーストがいなければ、
叩きつける攻撃を防ぐすべもない。
「と、言う結論に達してしまいました。」
「非常に残念です。」
ハイプリ仲間の決定には逆らえないとクレイは言い、
ふがいないことに、
何の力にもなれないと涙を拭ったポールに、
ジョーカーは思いっきり叫んだ。
「大概酷いよ、君たちwwwwwwww」
イズルートからプロンティアに場所が移っても、
ギルドが合併しても、
新米剣士を囲む状況は、あまり変わらない。
| 10 | 2025/11 | 12 |
| S | M | T | W | T | F | S |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ||||||
| 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
| 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
| 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
| 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 |
| 30 |
残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


