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あれだけの騒ぎがあったばかりだというのに、
留まることを知らない波の音は、
いつもと変わらず涼やかだ。
突然、心が空っぽになったような感覚を抱え、
ポールはぼんやりと海の歌を聴きながら、
時間が経つのを感じていた。
ZZHの溜まり場に大事なチビを置いてきてしまっている。
ノエルがいれば滅多なことはなかろうが、
取りに戻らなければならない。
それに、勉強の続きを済ませないと、
ユッシがガンガン怒るに決まっていた。
また、午後の狩りの準備をしなければ、
メンバーに迷惑をかけてしまう。
だから、早く戻らないと。
頭では判っているのだが、どうしても体が動かない。
なにより、自分は戻っていいのだろうか。
出先の様子からすれば、
ZZHの方でも一嵐起こるのは間違いないようだし、
何もなく済むまい。
結局、マツリの判断は正しかったのだな。
そう、他人事のように思う。
後ろでは、まるで何事もなかったかのように、
クレイとヒゲ達の会話が続いている。
「つか、ごめんねー 巻き込んじゃって。」
「いや、ぜんぜん気にせんでいいよー
いつものことだし!」
愁傷な態度でクレイが謝れば、
ヒゲが事も無げに、懐大きく受け入れる。
しかし、ジョーカーはそういかない。
「ごめんねじゃないよ!
ボクというものがありながら、何、あのLK!!
見てよ、この傷! この怪我!
心からの謝罪と誠意を要求します!!」
激しく非難の声をあげるも、
こちらは即座に切り捨てられた。
「黙れ。自分には謝ってない。
むしろ、もっと酷い目に遭えばいい。」
「何でwwwwwwwwwwww」
当然ジョーカーは怒るが、きっぱりとクレイは断言した。
「自ら状況を悪化させたでしょ。絶対に。間違いなく。
手を出されて当然のことをやったと信じてる。」
「畜生wwww相変わらずのエスパーめwwwwwww」
いつものように自業自得を見抜かれ、
AXは地面を転げ回った。
まあ、殴られるだけのことは言ったよな。
ぼんやりとポールも思う。
すっかり不貞腐れて、公共の場にも関わらず、
ジョーカーはベンチでゴロ寝を始め、
まったりとヒゲとクレイの会話は続く。
「つかさー どうするのよ、あれ。」
「いやー どうもこうも。
出来ればGvまで、バレずに済ませたかったけど。
こうなったら、何とかするしかないね。」
「なんとかなんの?」
「この日の為に、前々から理論武装はしてある。」
「準備万端ですねwwwwwwwww」
危機感を感じているのか、いないのか。
会話からは推測できないが、
ただ、心なしかヒゲのトーンが下がった。
「でもさー 真面目な話、どうなのよ?
大丈夫なの?」
「大丈夫かって言ったら、思いっきり駄目なんだけど。
今更、時は戻せないしなぁ。」
答えたクレイの声も、少し下がる。
それに合わせたように、風が強くなった。
肌寒い海風が話し声を遮り、
遠い何処かの噂話のように流れていく。
「向こうは立場もプライドも捨てて、
きてくれてるんでしょ。
このままじゃ、不味いんじゃね?」
「まあね。これ以上ないぐらい不味いね。」
「だったら、さっき、
さっさと謝っちゃえばよかったんじゃね?」
「そうなんだけどさー
あいつの顔見てたら、ついね!」
「ついね! じゃないでしょwwwwwwww
ぶっちゃけ、テツさんの何が嫌なのよ?」
「嫌な訳じゃないんだけどさ。
うちは良くても、向こうが条件悪すぎるんだよね。
わざわざ種族の違う、しかも後、数年、
生きるか判らん嫁貰う意味、あるのかと。
メリット皆無だぞ。」
「でも、始めから、それを承知で来てるわけじゃん?
見た目以上に生きてるんだから、
その分、知識も分別もあんだろうしさ。
それで良いって言ってるんだから、
ベッキーが気にしなくていいんじゃね?」
「長い人生、人間と結婚することがあってもいいかで、
済む話なのかもしれんけどさー
うちが死んだ後、どうするんだろと。
さっぱり忘れて次にいける性格ならいいんだけど。」
「不器用そうだしなー
けど、どうするのよ。
2度目のプロポーズだって受けちゃったんでしょ?」
「だって、まさかその日の夜に、
血ぃ吐いて倒れるとは思わないじゃん。」
「バロスwwwwタイミング悪すwwwwwww」
「あれだね、それまで色々あったから、
一気に気が抜けたんだな。
2年足らずで学費30Mはキツかった。
自分の装備揃えながらだしさー
お陰で未だにアコセット以外の装備がございません!」
「闇服なしで、よくニブル通えたよねwwwww」
「ニブルに通えたと言うより、
ニブルしか通えなかったのが、正しいねwwwww」
「アコセット万歳ー! ニブル村、万歳ー!」
「万歳ー! 万歳ー!」
「ちょっと、もー うるさいよ二人とも!」
止めどないお喋りは万歳三唱に変わり、
風の噂と言うには騒がしくなった所で、
ジョーカーに咎められて終了した。
話しているうちにすっきりしたのか、
クレイが立ち上がり、パンパンと服の埃を払う。
「まあ、こうなったからには仕様がない。
ちょっと、謝ってくるわー」
「行ってらー」
手を振るヒゲに軽く答え、散歩にでも行くように、
悠々とハイプリは出かけていった。
そのまま、ヒゲも黙ってしまったので、
ますます、聞こえてくるのは、
漣とカモメの声ばかりになる。
実際には15分程度の間に起こったことなのだが、
ポールが1時間も2時間も過ぎたような気分で居ると、
思い出したようにジョーカーが突っ込んだ。
「なあ、今、クレイさん、
ってか、お前も幾つか変なこと言ってなかった?」
「何が?」
「何がって、色々だよ。ねえ、ポール君。」
「すみません。俺、よく聞いてませんでした。」
ヒゲはいつも通り、適当であるし、
同意を求められても、上の空だったポールは、
何も答えられない。
「なんだよ、もー」
ジョーカーがまた不貞腐れ、
再び海の歌が周囲を満たし、緩やかな時が過ぎていく。
ついでに何時使うか判らない裏設定も、
そのまま流していただきたい。
そもそも、LK転職辺りにでもならないと、
使わないと思われる設定より現在の進展が大事である。
波の音を聞きながら、
ポールが思考停止している間にも時間は流れ、
ヒゲとジョーカーが一悶着起こしたようだ。
「大体、この前教授さんが遊びに来た時も、
お前がおっぱい連呼して思いっきり引かれたんだろ!」
「お前だって、鞭でぶってくださいとか、
叫んでたじゃないか!」
「だってあんな美人、滅多に居ないぞ!」
「そうだ! あんなバランスの良い巨乳はそう居ない!」
「結局おっぱいかよwwwwwwwww」
「おっぱいは男のロマンだろwwwwwwww」
「でも、怒ったベッキーにやらされた、
ウンバラバンジー命綱なしは怖かったな・・・」
「下が池になってるとはいえ・・・
一歩間違えなくても死ねるよね・・・」
仲がいいのか、悪いのか、
喧嘩しているのか、いないのか。
どちらにしろ、
人聞きが悪いことこの上ないセクハラ発言が、
強制的に耳に入ってくるのは、気分のいいものではない。
「いい加減にしてくださいよー」
ポールが二人を窘めた時、騒ぎにつられたように、
ひょっこりとノエルが顔を出した。
「あー いたいた。」
「ノエルさん!」
突然の先輩の来訪にポールが驚く。
「騒がしいところに行けばいいって、
それで会えるのかと思ったけど、本当に分かったよ。」
呆れるよりも感心した様子で、ノエルは頷き、
一体自分たちは余所でどの様に評されているのか、
想像してぐったりしたポールにダンボールを手渡した。
「はい、忘れ物。」
「ちび!」
忘れていたわけではないとは言え、
目の前に突き出されると、やはり罪悪感が胸を突く。
「ごめんね、おいてっちゃってー」
「ピィ」
まるで恋人に対するように、
ポールが雛鳥に話しかけるのをそのままに、
ノエルは片手をあげて挨拶した。
「やあ、ヒゲさん。久しぶり。」
「・・・・・・?」
挨拶されても首を傾げただけのヒゲに、
気を害した様子もなく笑う。
「まあ、覚えてないだろうなとは思ったけど。」
「以前、お会いしましたっけ?」
どうやら、面識があるらしいが、
全く覚えていないヒゲに怒るどころか、
ノエルは忘れて当然だと頷いた。
「1年前、何回か一緒に騎士団行っただけだけどね。」
それを聞いて、大声でヒゲが叫んだ。
「思い出した! ペコ丸の人だな?
レア運が悪いので有名だった!」
「そうだけど、それって忘れられた方がよくない?」
折角思い出したのに、憮然とされたヒゲ。
記憶に残っていたけれど、酷い扱いのノエル。
双方にとって散々な再会となったが、
切り替えの早いLKが、早速話を変える。
「でも、元気そうで良かったよ。
本当、一年ぶりだもんな。」
「ベッキーが行方不明になってから、
会わなくなっちゃったかんな。」
すっかり忘れていたが、
言われてみれば、クレイを接点として、
ヒゲもZZHメンバーと付き合いがあったのだった。
懐かしげにお互いの肩を叩くところからすると、
接点がなくなり、自然消滅したとは言え、
関係は良好だったようだ。
「しっかし、俺もしくじったなー
剣士ギルドで噂を聞いたとき、
ヒゲさんだって気がつくべきだったよ。」
悔しそうにノエルが唸る。
「風呂敷マントを肩に2階の窓から飛び降りる人なんて、
なかなか、他にはいないよなー」
似たようなのがいるもんだとは思ったらしい。
「それは気がつくべきだったかもしれませんね。」
「世界中探しても、そんな阿呆、
ヒゲ以外居ないかもしれないね。」
淡々と、ポールとジョーカーが突っ込みを入れる。
「でも、二人組って聞いてたからさ。」
ノエルが言い訳するのに、ヒゲが頷いた。
「何だ、ジョカのせいか。」
「何で、ボクのせいよ。」
当然、ジョーカーが文句を言う。
「温暖化も、マナティの絶滅危機も、
郵便ポストが赤いのも、皆、ジョカのせいだからなー」
「無茶を言うなwwwwwwwww」
言い争う二人に、大体の関係を理解したらしい。
特に突っ込むこともなく、ノエルは話題を変えた。
「今日はユッシは他の友達と約束ができたって言うし、
他も狩りいける状態じゃないから、
俺らだけでオットー退治に行こう。
あそこなら、魔法さえ気をつければいいし、
ピッキが居ても大丈夫だろうから。
1時にプロの十字路で待ってるから、
それまでに準備しておいてね。」
何事もなかったように、午後の予定を告げられ、
ポールは戸惑う。
「よかったら、ヒゲさんたちも一緒にどう?」
「オットーか。あそこはチンピラもでるな。」
「チンピラはMSがでたらウハウハだし、
でなくても宝石類が旨いよね。」
それに気がつかないのか、ノエルが他の二人を誘い、
ヒゲとジョーカーが揃ってその気になるのを、
「ちょっと、待ってくださいよ。」と、止める。
「そんなことより、テッカさんたちは?
それに俺、このままZZHに関わっていいんですか?」
「何で駄目なのよ。」
疑問をそのまま口にしたポールに、
ノエルは不思議そうな顔をした。
「だって、クレイさんが・・・」
「それはポール君に関係ないでしょ。」
もめ事を起こした彼女の紹介なのに、
自分が居て大丈夫なのか。
ごにょごにょと言い訳するようなポールを、
ノエルは一笑に賦した。
「それに、クレイさんのことなら、
本人がさっき溜まり場に顔を出して、
事情を説明してくれたよ。」
流石に彼女は動くと早い。
しかし、動けば済む話であれば、
もっと早く動いていたであろう。
また、先ほどのテッカ達の態度を考えれば、
余計に納得できない。
「それで、済んだんですか?」
「うん。取り合えずは。」
なおも不信を顔に出すポールに、
鷹揚にノエルは頷いた。
「久しぶりに会ったけど、その辺りは健在だったね。
あっと言う間に皆、丸め込んじゃったよ。」
ジュノーカフェ現役時代、
他ギルドとの交流や取り決めを、
次々纏めていただけあって、クレイの交渉術は確かだ。
後回しにして長引かせた割には、
あっさりZZHのメンバーを納得させてしまったらしい。
納得させたと言うより、
せざるを得なかった部分も多かったがと付け加えた上で、
ノエルは詳細を語ってくれた。
先ほど見たテッカと同じくらいの勢いで、
ポールが飛び出していった後、
ひとまずフェイヤーを椅子に座らせ、
ノエルは首を傾げたという。
「一体、なにがあったのかなあ?」
思わずこぼれた独り言に、
息も絶え絶えながら、フェイヤーが答えた。
「そんなの、決まってるじゃない・・・」
水を持ってきてくれと言う彼にコップを渡し、
なにが決まっているのかを問えば、
もらった水を一息に飲み干すと、
ギルマスは事も無げに言った。
「鉄っちゃんと祀ちゃんの様子がおかしい、
っていったら、紅さんのことに決まってるよ。」
「クーさんの行方が、判ったって事?!」
1年前、急に行方不明になった友達の名前に、
ノエルは驚いたが、同時に納得もした。
彼らの関係は、ZZHでは周知の事実だ。
テッカがあれだけ必死になるとすれば、
確かに彼女のことでしか考えられない。
「でも、じゃあ、マツリちゃんは?
なんでマツリちゃんはあんなに落ち着いてたの?」
だが、それではマツリはどうなのか。
クレイが生きていたのを知れば、
同じ反応を示すはずなのに、
いつも以上に飄々と逃げてしまった。
この疑問にも、フェイヤーが答えてくれる。
「多分、祀ちゃんは知ってたんだろうね。」
「なんで! じゃあ、何で教えてくれないのさ!?」
同郷のクレイやテッカほどではないとしても、
自分達も苦楽を共にする仲間のはずだ。
前ギルド時代から続く、
今までの付き合いを否定されたようで、
ノエルはショックだったという。
それに同じギルドではなかったが、
クレイのことも、友達だと思っていた。
黙って何処かへ行ってしまったことに傷ついたし、
万一の可能性を考えて、心配だってしていた。
結局、二人にとって自分は何だったのだろう。
漠然とした不満が腹に溜まっていくのを感じると共に、
クレイだけならばまだしも、
マツリがまで、そんなことをするはずがないとも思う。
にわかに信じられずにいると、
ギルマスの予想を肯定するものが現れた。
「くそう・・・ポール君めー
戻ってきたらクーさん共々、とっちめてやる!」
「ユッシ! どうしたんだよ?」
戻ってくるなり物騒なことを宣言する幼なじみに、
何事かを問えば、噛みつかんばかりの勢いで、
ハイプリは怒鳴った。
「なんかポール君が、
テツさんとクレイさんがどうとか言いながら、
南の方向へ逃げていったんだよ!」
そして、そのままヘたり込む。
いくら現役冒険者と言えど、ユッシは支援職、
広大なプロンティア町内3週は堪える。
力つきてまで、怒らなければ良さそうなものだが、
騙されていたという思いは、彼も同じなのだろう。
確かにクレイが関わっていると判明して、
生きていたことに喜びたいのか、
その不実を怒りたいのか、
ノエル自身にも判らなくなった所で、ユッシがボヤいた。
「もー・・・クーさんの居場所を知ってて黙ってたとか、
絶対あり得ないだろ・・・」
動く元気はないにしても、
何かにかじりつきそうな顔をしている相方に、
ノエルはかける言葉を見つけられなかった。
反面、フェイヤーはドライなもので、
特別感情的になることもなく、あっさりと首を振る。
「いやあ、ポール君は紅さんと僕らのこと、
知らないでしょ。」
知っていたら絶対ボロを出すはずだと、ギルマスは言う。
「隠し事をできるほど、器用な子じゃないからねえ。
それに今回の件は紅さんの単独犯だと思うよ。
彼女に口止めされれば、祀ちゃんは従うだろうしさ。」
「確かに。」
ポールは馬鹿がつくほど正直であるし、
本来の上司以上に、マツリはクレイに懐いていた。
心中はどうあれ、彼女には逆らうまい。
理由は兎も角、現状にノエルが納得したところで、
ユッシがまた怒る。
「じゃあ、なんでクーさんは、
戻ってきたのに、それをうちらに隠してるのさ!」
正に問題はそこだ。
挨拶一つなく行方知れずとなっただけで腹立たしいのに、
かなり前に戻ってきて、且つ、
マツリとは連絡を取っているのに、
自分達には何もなしとは気分が悪い。
更に口止めまでしていたとあれば、
明らかな故意というか、悪意を感じる。
「黙っていなくなったことを考えても、
俺らとは、関わりたくないって事かな?」
心当たりもないのに、ここまで露骨に避けられれば、
こちらから付き合いをお断りしたくなる。
ノエルの表情も険しくなるのを見て、
難しい顔をしながら、フェイヤーが首をひねった。
「んー・・・そうねえ。
僕らと関わりたくないって言うよりは、多分・・・」
珍しく答えを出し渋ったが、
結局ギルドマスターははっきりと言い切った。
「やっぱり、原因は鉄っちゃんだろうね。」
なんとなく、分かったような気がして、
ユッシとノエルは顔を見合わせた。
「兎も角、詳しいことは本人に聞くしかないよ。」
そうフェイヤーがまとめるのに何か言う気にもなれず、
ユッシは椅子に座ると机に突っ伏し、
ノエルも黙って、それに追従した。
鉛のように感じられる時間がどれだけ過ぎたのだろう。
玄関先が騒がしくなった。
「仕方ないだろ! 手が滑っちゃったもんは、
滑っちゃったんだから!」
「手が滑ったで済むんなら、
警察も判事もいらねえんすよ!」
「だってあいつ、
自分が死んだらなんか問題あるのかって、
言ったんだぞ!」
「酷い! 姐さん、それは酷い!
でも、あんたの罪が消える訳じゃありませんかんね!」
「あーもー 俺が悪うございました!」
いったい何があったやら。
子供っぽい言い争いをしながら、
テッカとマツリの二人組が帰ってきたのを指さして、
「爆弾が帰ってきたね。」
と、フェイヤーは言った。
その上で、如何にも付け足すように、
「おかえり。」と、二人を出迎える。
帰ってきて早々、何ともいえないユッシとノエル、
状況を把握したマツリの冷たい視線を受け、
ばつが悪そうにテッカは言った。
「何だよ、その顔は。」
彼としても、聞くまでもないだろうが、
他に反応の仕方もあるまい。
早速、ノエルは事の真相を問いただした。
「そんなことより、二人とも何処行ってたのよ!
クーさんが戻ってきてるって本当?」
彼らが悪いわけでもないが、詰問口調になってしまう。
言われた方も、騒ぎの要因となった自覚があるのか、
少々答えづらそうだった。
「まあ、本当だ。」
テッカが自らの非を認めるかの如く、
渋い顔で肯定するのを、後からマツリが淡々と補足する。
「3月あたりから、こっち戻ってきたそうですぜ。」
「3月?!」
これには全員、落ち着いていたフェイヤーも驚いた。
「3月なら、もう4ヶ月も前じゃん!」
どんだけ黙っていたんだよとユッシが天を仰げば、
慌ててテッカもマツリを問いただす。
「おい、そんな前からか?!」
流石に数ヶ月も内緒にされていたとは、
思っていなかったのだろう。
「あたしが知ったのは2ヶ月前からですがね。」
上司に責められて、憮然とした顔で答えた辺り、
自分だって2ヶ月は放置されていたんだと、
マツリも言いたそうだった。
「あーもー なんだよ、それ!」
一向に好転しない情報に嫌気がさしてノエルは叫び、
場を纏めるべく、フェイヤーが現状を把握しようとする。
「それで、紅さんは今何処に?」
ギルマスの質問に、何か思い出したのか、
怒鳴るようにテッカが答えた。
「知らん! まだイズじゃ・・・」
ないのか、と言い終わる前に訂正が入る。
「汝が後ろに。」
何時の間にやってきていたのか。
テッカの後に音もなく現れた、
白髪のハイプリーストを見て、場にいた全員が肝を潰す。
「お前、何時からそこにいた!」
「僕やノエル君ならまだしも、
鉄っちゃんや祀ちゃんの背後までとらないでよ!」
テッカが怒り、
フェイヤーがよく判らない悲鳴をあげたが、
何処吹く風で、突如現れたクレイは飄々と答えた。
「何時からって言うか、牛乳屋の前を横切った辺りから、
自分らに追いついてたんだけどね。
最近、気づかれずに背後を取る技を収得しましてな。」
「ハイプリ! ハイプリだよね、クレイさん!?」
支援職とはほど遠いスキル収得に、ノエルは突っ込み、
それから、本来の質問を思い出す。
「っていうか、いきなり居なくなって、
今まで何処に行ってたのさ!」
「血ぃ吐いて倒れて、気がついたら半年が過ぎてました!
その後の半年もほぼベットの上にいました!」
感情にまかせて怒鳴ったそばから、
怒鳴り返された答えは、ちょっと酷いものだった。
うわぁ・・・と、引き掛けたところで、
ユッシが援護射撃にはいる。
「それにしたって、
戻ってきたのは4ヶ月前だって言うじゃん!」
相方の指摘に、マツリに課せられた箝口令を思い出し、
ノエルも怒り直す。
「そうだよ! 何ですぐ連絡しなかったのさ!
マツリちゃんに口止めまでして!」
心配していた自分たちが馬鹿みたいじゃないか。
そう、二人は怒ったが、
さも不思議そうに首を傾げられた。
「連絡するって、何処に?」
「え、っと・・・」
逆に問われた意図が分からず、
ユッシとノエルは顔を見合わせた。
「君ら解散しちゃって、たまり場も変えちゃったから、
連絡したくても何処にすればいいか、
判りませんでしたが?」
指摘の通り、確かに1年前、彼らのギルドは解散し、
借りていた集団住宅からも引っ越している。
「困るんだよね。
勝手に居場所変えといて連絡ないとか言われても。」
先に行方知れずになったのは向こうなのに、
ギルド解散時の連絡不行き届きであるかの如く指摘され、
二人が言葉に詰まると、
畳みかけるようにクレイは続けた。
「揃っていなくなってたから、
何処にいるのか判んないし、聞く人もいないし、
少なくとも、Gvは続けてるだろうって、
中継チェックはしてたんだけどさ。
先々月とその前、君ら前半サボったでしょ。」
Gv中継は安全のため、前半1時間しか放映しないため、
後半から動き出すギルドは全く写らない。
結果的にZZHのメンバーが写ることもなく、
まだ冒険者をやっているのか、
言ってしまえば、生きているのかすら、
把握できるような状態ではなかったという。
「それに戻ってきたはいいけど、
既に死亡扱いされてたから、
あちこち取消手続きが必要で、
知り合いに連絡どころじゃなかったのよ。
銀行口座も凍結されて、
当座の生活費すら引き出せなかったからね。
稼ごうにも、レンジャー関連施設だって使えない、
倉庫から装備も引き出せない状態でさ。
なんとか手続きが終わったと思ったら、
実際に物があるのはミッツガルドだから、
そっちにも連絡しろって言われちゃって。」
クレイはシュバルツ共和国のジュノーに家を持つため、
正式には同国の住民である。
しかし、実際に公認冒険者として活動していたのは、
ミッツガルド王国であり、
結果的に双方で手続きが必要であったらしい。
ただでさえ、役所相手は手続きが盆雑だというのに、
両国を行き来しなければならなかったとすれば、
確かに楽ではあるまい。
「持ち家があったから住むところはなんとかなったけど、
シュバの行政は固くって、大変だったよ。
そこにカプラサービスがらみで、
いい加減なミッツの行政も絡んできたから、
余計に手間取っちゃって。
挙げ句に生きていたなら死亡してた間の税金払え、
期日過ぎるなら滞納料として3倍だとか、
ふざけたこと言われてさ。」
帰宅手続きや、装備の引き出しがすんだら、
滞納税金を稼いだりと忙しく、
それでまるまる最初の1ヶ月はつぶれたとボヤく。
「あー そりゃひどいね。」
シュバルツ共和国の役所は、
書類手続きに細かく、融通が利かないこと、
ミッツガルド王国の行政と言えば、
ルーズで時間ばかりかかるので有名だ。
素直なノエルはついつい頷いたが、
ユッシの眉間のしわはそう簡単に消えない。
「じゃあ、次の1ヶ月は何でつぶれたのさ。」
「1日も早く税金稼がなきゃいけなかったところに、
唯一再会出来た知り合いの借金騒動に巻き込まれて、
派手に狩りしたら、また倒れました。
それから復帰した辺りで、
マジで何も知らない新人さん拾っちゃって。」
再会した友達のギルドに、丸ごと預けることも考えたが、
自分が拾った新人を人に任せるわけにもいかず、
あれこれ世話を焼いているうちに1ヶ月が過ぎたらしい。
「それにしたってさー
ちょこちょこっと、
挨拶にくる時間ぐらいあったでしょ?」
いくら忙しいといっても、
挨拶だけなら1時間とかかるまい。
せめて、顔を出すだけでもするのが礼儀ではないか。
苛立たしげな態度を隠そうともせず、ユッシが言うのに、
半ば呆れたようにクレイは同じ言葉を繰り返した。
「だから、その挨拶先が判らなかったんだって。」
「それがおかしいって言うんだよ!」
バシンと机をたたき、
納得いかないと、ユッシは噛みついた。
「うちらの居場所なんて、
ジュノーカフェに聞けば、すぐ判るじゃん!」
元々クレイはZZHのメンバーではなく、
友好関係にあったジュノーカフェのメンバーだ。
前ギルド解散時になんとなく疎遠になったとはいえ、
縁が切れたわけではないし、
彼らならば、自分たちの居場所を知っているはずだ。
ジュノーカフェのたまり場は以前から変わっておらず、
自分の元ギルドのまで忘れたとは言わせない。
なぜ、分かるはずの情報を、
得られなかったと言い張るのか。
ユッシの指摘に、ハハッとクレイは乾いた笑いで答えた。
後ろで、マツリが嫌そうな顔で首を振る。
「そのジュノーカフェに捕まって、
3ヶ月目がつぶれたんだよね。」
「何度か様子を見に行きましたが、
ありゃ、あり得ませんな。」
嘲るようなクレイの言葉に、
苦虫をかみ潰したような顔でマツリが続く。
「元創立者の一人とはいえ、
ギルドを抜けたもんを義理で拘束して働かせるにゃ、
あの書類の量は異常でした。」
「え、なに?
書類作成手伝わされたの?」
意外そうにフェイヤーが声を上げる。
「あそこはジャスミンちゃんがしっかりしてるから、
大丈夫かと思った。」
「今のギルマスはしっかりしてるけど、
メインの仕事はスポンサーの交渉とか営業で、
書類作成にはほぼ、関与してません。
また、男共はその辺り、全く役に立ちません。」
余計なイメージを断ち切るように、
きっぱりとクレイは言い切った。
「それは初代の頃から変わらないことだけど、
なにより裏方の要だった、
シェナさんが抜けてたのが痛い。」
「シェナさん、最近見ないと思ったら、
抜けちゃってたんだー」
聞き覚えのある名前に、フェイヤーが頷くと、
吐き捨てるようにクレイは言った。
「因みに脱会の決め手は担当だった告知ポスターへの、
18禁要素要望だったそうです。」
「それは見たかったような、
不味いんじゃないかって言うか。」
ジュノーカフェの絵師が、
スキルを用いて書いたポスターは、
ローグより、その道に進んだ方がよかったのではと、
町で評判になるほど美しい仕上がりだった。
あの腕にエロ要素が加わったら、
さぞかし見応えがあっただろうが、だがしかしと、
フェイヤーが額を押さえれば、横からマツリが口を挟む。
「その上旦那が、
ギルドの仕事と家事全部、姐さんに押しつけて、
自分は狩りいって友達とうはうはしてるか、
姐さんとの約束すっぽかして、
寝てるかのどっちかとなりゃ、
あの穏和なシェナ姐さんだって嫌になりますわな。」
「しかもその時、その旦那がサブマスだったしね。
シルベスタさんはよく離婚されなかったと思うよ。」
っていうか、されちゃえば良かったのにと、
頭をかきながらクレイが酷い感想を述べ、
思い出したように付け加える。
「そういえば、そういう事情を知らないのに、
怒ってるシェナさんを、
ヒステリー扱いしてた人がいたらしいですね?」
「いましたな、結構近くに。」
ああ、そういえばと白々しくマツリが相づちを打つ。
もしかして、あの頃かと、
若干名が気まずそうに身を縮めるのに、
マツリは鼻を鳴らして清々したという顔をした。
いつか、言ってやりたいと機会を狙っていたのだろう。
その様子にやれやれと呆れ、クレイが話を進める。
「もう無理と言われても、
シェナさんのグラフィティを駆使した、
芸術的広報ポスターを誰が真似できるのかって。
おかげで、広報関係がぐちゃぐちゃでしたよ。」
「確かにもったいないね、それ。
シェナさんのポスターは、
美術的価値があるって、評判だったもんね。」
急にポスターの絵が切り替わったので、
何があったのかと思ってたらとノエルが頷くのに、
問題はそれだけじゃないとクレイが首を振った。
「それ以上に誰があの人以上に、
リズちゃんと意志の疎通ができるって言うのよ。」
「リズちゃんって、
天然キャラなダンサーの看板娘さんだっけ?」
「いや、あれは異星人のが正しい。」
ノエルが引っ張りだした記憶を若干調整し、
クレイは頭を掻きながらボヤいた。
「リズちゃんと普通に会話できる、
シェナさんがいなくなったから、
リズちゃんのローグ以上の収集能力と、
驚異のレア運が見事に無駄になって、
倉庫がもう酷いことに。」
「空っぽだったの?」
先立つものがなくて、
よくイベントを続けられたとノエルは驚いたが、
そう言う意味ではなかった。
「ありとあらゆるものがごちゃ混ぜに押し込まれて、
見事にゴミ屋敷と化してました。」
友達がいなくなった分、自分が頑張ろうと、
張り切ってしまったのがいけなかったらしい。
次々と集められる収集品は瞬く間に棚からあふれ、
管理できなくなるまで、時間はかからなかったそうだ。
M単位のレアも無造作に含まれているので、
まとめて捨てるわけにもいかず、
片づけは正に地獄だったという。
「シェナさんは経理担当でもあったから、
帳簿も無茶苦茶になってたし。
いくら残ったライラさんが優秀だからって、
彼女も家庭があるし、小さい子供もいるし、
物量で攻められればどうにもならないよね。」
あーあと、悲鳴のような嘆き声を吐き出して、
クレイは肩を落とした。
「仮にメンバーが減ってなくても、
手伝いはやらされるだろうから、
連絡取りたくなかったんだけど、捕まったら案の定で。
色々嫌になったシェナさんが一人旅に出てから、
全く手を着けられてなかったのもあったからね・・・
現場にいたわけでもなければ、
時間が経ち過ぎて資料もない状態での、
毎月の活動内容、経費勘定表、
その他諸々の報告書作成は大変だったよ。
奴らの情報網で確かに祀ちゃんと連絡ついたし、
知り合い連中の連絡先も分かったけど、
代償は大きかったよ・・・」
そんなわけで、別のことをする余裕がなかったらしい。
「だったら、それこそ、
マツリちゃん経由で、連絡くれればよかったのに。」
ユッシは口をとがらせたが、
これはきっぱりと否定された。
「いや、別ギルドとはいえ、突然連絡絶つとか、
不義理をしたのは事実だし、
それを人に任せてどうこうってのは、違うでしょ。」
謝るべきは自分ですると、クレイは首を振った。
妙なところできっちりしてると唸ったユッシに代わり、
また、フェイヤーが口を出す。
「でも、なにも知らない新人さんって、
ポール君のことでしょ?
彼を連れてくるときに、
一緒にくることだってできたんじゃないかい?」
これにも、クレイは首を振った。
「いや、心配かけるだけかけさせて、
無事でよかったね、おかえりと、
暖かく迎えてもらえると信じきれるほど、
自分の存在に自信ないわ、うちは。」
何せ1年も経っているのだ。
始めのうちこそ心配しても、日が経つにつれ、
興味は失せ、感情も冷めていく。
元々、自分は他ギルドのメンバーで、
言ってしまえば、居なくなっても、
テッカとマツリ以外には何ら不都合はなかったのだ。
今更戻ったところで、ああ、そうですかと、
つれなくあしらわれても、おかしくはない。
「それだけならまだしも、
うちの知り合いだってことで、
ポール君まで弾かれたら、困るからね。」
自分の所為で新人の可能性を摘む危険は犯せないと言う。
「随分、慎重だねえ。」
僕らはそこまで薄情じゃないよと、
フェイヤーは不満げに眉を動かしたが、
クレイは最悪のケースは想定しておくものだと主張した。
「今回の話にポール君は関係ないわけだし、
うちの知り合いだってことで、
色眼鏡かけられるのも避けたかったからね。
まず、忌憚なくあの子の事を見てもらってから、
事情を説明しようと思って。」
「ああ、ねえ。」
あの子の人形りを知った上でなら、
自分を理由にはじき出すことはしまいという、
信用されているのだか、全くされていないのか、
よく分からない曖昧な評価に、
曖昧な返事をしたフェイヤーに代わるように、
それまで黙っていたテッカが口を開いた。
「言いたいことは大体分かった。」
体調不良や周囲の状況が幾ばくかのものか、
実際のところは分からないが、
難癖を付けたところで、変わるものでもないだろう。
また、他ギルドより、自分のギルドを優先するのも、
新米のことを第一に考えるのも、
否定できることではない。
「それなら、まずは無事だったことを喜ぶべきだ。」
一番文句を言いたいはずの彼が下した判断に、
反論をあげるものは居なかった。
ユッシですら、もの言いたげに幼なじみを省みただけで、
何も言わない。
「だがな、」
しかし、当然それで済むわけがない。
テッカのこめかみにピキリと青筋が浮かぶ。
「それならそれと何でさっき、そう言わなかった!」
声を荒げざるを得ない当然の疑問に、
誠意を持って返されるのであれば、
話はここまで大きくなるまい。
「うるさいなあ!
あれこれ理由は付けてみたものの、結局のところ、
お前が怒っているから行きたくなかったからとか、
幾らうちでも本人を前に言えるか!」
「今、言ってるだろ!」
案の定クレイの返答は状況を悪化させるものでしかなく、
イズでの惨劇が再びくり消される。
「やめなさい、二人とも!」
ペチペチキーキーとしか言えない叩き合いに、
フェイヤーが悲鳴に近い制止を掛けるが、
やめられるのなら、始めから騒ぐまい。
しかもよくよく見てみれば、
テッカはクレイの攻撃を手で受け止めているだけと、
防戦一方である。
確かに大の男が、しかも騎士ともあろうものが、
女相手に手を出すわけにもいくまい。
『不憫だなあ、色々と。』
辛い立場に、
男たちはホロリと涙を流したが、
一番泣きたかったのは、本人だろう。
「祀も、ただ黙っているだけじゃなくて、
なんか、他にやりようなかったのか?!」
叩かれながら八つ当たり気味にテッカが部下を怒鳴ると、
憮然とした顔でマツリは答えた。
「そんなこと言われましてもねえ。」
「祀ちゃんを責めないでよ。」
見事な左ストレートを打ち出しながら、
クレイも文句を言う。
「仕方ないんだよ。
全面的にうちの言うこと聞く理由があるから。」
「え、なにそれ?」
全面的という、並ならぬ言葉にユッシが興味を示せば、
クレイは事も無げに言った。
「いや、病気で多々、倒れてたって言ったじゃん?
あれ、完治するどころか、
発作が出るようになっちゃってさー
一定のストレスがたまると、
血、吐くようになっちゃったんだよね。」
血染みは落ちないし、洗濯が面倒で困るわと、
世間話のごとくげらげら笑う彼女に、
それって笑い事なのと、
ノエルが口にしようとした時だった。
「そう、ちょうどこんな風に。」
カハッと、変な咳をしたかと思う間もなく、
クレイの口から、大量の血がこぼれ出しす。
『ぎゃあーーーーーーーー!!!』
その場にいた全員の口から、
つんざくような悲鳴が立ち上がり、
場はこれ以上ないほどにパニックとなった。
「だ、から、余計な、ストレス、ないように、
好きに、やらせてくれって、頼んだ、のよ。ゲフッ」
「わかった! わかったからこれ以上しゃべるな!」
「姐さん! しっかりしてくだせえ、姐さん!」
「ちょ、バケツ、バケツ!!」
「ユッシ、ヒール、ヒール!」
「病気にヒールは効かないよ、バカ!」
結果、貧血を起こしたフェイヤーは自室に逃げ、
ユッシは予定道理狩りに出かけ、
テッカとマツリはクレイを病院につれていき、
色々なことが棚上げとなったらしい。
「まあ、ざっとこんな感じ?」
そのときの状況を思い出したのか、
話し終わったときにはノエルから表情が消えていた。
「いきなり背後から現れて、
『いよう、お久しぶり。ご無沙汰しております』とか、
平気でいうんだもん。
俺やフェイさんだけならまだしも、
ギルメン総ずっこけとか早々見れるもんじゃないよ。」
驚いて、すっころんだZZHのメンバーの、
驚きようには目もくれず、にこやかに挨拶するのが、
非常に白々しかったらしい。
「流石、クレイさんですね。」
「あの度胸はハンパないよね。」
ポールとジョーカーは揃って頷いた。
「その上、ああ言えばこう言うってか、
口じゃ絶対引かないしさー
加えてあの出血でしょ。
あれで納得しなかったら、俺らが悪者じゃん。」
全員顔を蒼白にしたのは勿論、
マツリちゃんなんか、泣いてたよと、
語るほどに、ノエルの表情は硬くなる。
「でしょうねー」
「責任の受け渡しが巧妙だよね。」
ポールもジョーカーもやはり同意しかできず、
全ての鬱憤を込め、叫ぶようにノエルは締めくくった。
「結局、誰があの人に勝てるって言うんだ!」
「誰も勝てないと思います!」
「少なくとも、ボク等には無理です!」
心からの叫びにポールとジョーカーが追従し、
絶対、あれ、ひどいよね!
どう考えても強すぎますよ! チートだチート!
などと、ぎゃあぎゃあ喚いていたら、
珍しく大人しかったヒゲが呆れ顔で呟いた。
「ベッキーに喧嘩売って勝とうなんて、
無駄な努力だって始めから判りきってるだろ。」
身も蓋もない発言に、場が一気に寒くなった。
「そりゃ、そうだけどさあ。」
ジョーカーが認めるのが、益々負け犬臭い。
「ま、無事だったんなら、
それに勝るものはないんだしさ。いいんだけど。」
別に喧嘩がしたいわけでもなし、
実際、生きて戻ってきて本当に良かったよと、
自分に言い聞かせるようにノエルは言った。
「本当はユッシなら勝てるんだろうけど、
あいつはあいつであっさり餌に釣られちゃうし、
そういうのも含めてクレイさんは上手すぎるよなぁー」
むしろ素直に平謝りしたほうが、
禍根を残さないであろう辺り、
本当に上手いのか疑問が残るが、
少なくとも、自分じゃ彼女には反論できない。
唯一対抗馬となりうる相方は当てにならないとくれば、
諦めるより仕方ないではないか。
結局、行方不明や連絡不足という原因より、
なし崩し的に認めざるを得ないと言う現状が、
しっくりこないのだ。
ノエルはため息をついたが、、
一番文句の多そうなユッシを黙らせたものに、
ポールが興味を示す。
「ユッシさんは、何に釣られたんですか?」
「いや、それは今、俺に聞かないで。」
そのうち分かるからと、首を振る。
これ以上、語りたくないらしい。
「じゃあ、そういうことで、
お昼食べたら、プロの十字路ね。」
「はーい。」
自分のたまり場へ戻るLKに手を振って、
ポールはひな鳥にも餌をやらなければと考えた。
「お前もそろそろ、お昼にしようね。」
「ピィ」
このピッキは愛想がいい。
ちゃんと返事をする愛鳥にポールが微笑むと、
横からジョーカーが顔をつっこんだ。
「つかさー それ、いつの間に仕入れたのよ。」
「昨日買ってもらったんです。」
「でも、ちゃんと世話出来るのー?」
ピッキより、自分の世話じゃないのと、
どこかで聞いた台詞をアサクロも口にしたが、
それに凹む新人はもういない。
「いいでしょ、別に。
ジョカさんには関係ないじゃないですか。」
大変なのは承知の上だ。
それでも頑張るともう決めた。
余計な口出しは無用ときっぱりポールがはねのけると、
大げさにジョーカーは騒ぎだした。
「うわー かわいくない!
暫くみないうちにこの態度!
ヒゲ、ポール君が不良になったぞ!」
やだやだと、相方に言いつけるが、
いつもの通り、ヒゲはつれない。
「お前の言うことなんて、
優等生でも聞きたくないだろ!」
「何このヒゲwwwもっとむかつくwwwww」
ぼかすかと殴り合いが始まり、
そのいつも通りの風景に、
今更ながら戻ってきたことを実感しポールは笑った。
ZZHのメンバーだって、勿論大切だけど、
どちらかを選ばなければならないのなら、
やっぱり、自分はこっちの方がいい。
クレイが聞いたら怠惰だと言いそうだし、
技術は向こうの方が学べるし、
ヒゲとジョーカーの喧嘩に巻き込まれるし、
いいことは一つもないだろうけど。
そう考えて、ポールはちょっと悲しくなった。
帰りたい場所と実利はなかなか共存しない。
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残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


