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よく考えたら、言えなかったと思うよ、
俺がマツリちゃんでも。」
巨大なラッコの如き、オットーの繰り出すパンチを、
軽くよけながら、ノエルは槍を繰り出した。
「テツさんのことを思えばって点でも、言えないよ。」
「そうなんですか?」
キュキュキューと愛らしい鳴き声をあげて、
倒れたオットーをよけながら、ポールが尋ねる。
約束道理、昼食後カプラサービスの転送を利用して、
海岸までやってきたが、
目当ての海獣モンスター・オットーは殆ど見られず、
今ので、やっと5匹目だ。
他にはお化け貝や、鳥型モンスター・レグルロなど、
小型の魔物が、時折襲いかかってくるばかり。
通常ならば数多く棲息するオットー達が、
砂浜を歩く人の足音を聞きつけて海から上陸し、
次々と襲いかかってくるはずであるのに、
誰かが乱獲したのか、
種族的な何かがあったのか、異常なほど少ない。
本来であれば、ノエルがペコペコを走らせて、
周囲の様子を見回ってくるところだが、
ポール達に合わせ、徒歩で来たのが仇になった。
仕方なく、そのまま移動を続けたが、
目的の魔物がいなければ暇になるのは当然で、
他の魔物が弱いとなれば、志気もやる気もさがる。
早々に飽きたジョーカーとヒゲは、
危機感の欠片もないことに海で水遊びを始め、
武器を降ろしこそしないものの、
ノエルとポールも雑談が主となりつつあった。
「戻ってきたっていったら、
当然、何処にいるって話になるじゃん?
でも、場所が寄りにも寄ってでしょ。
ただでさえ、テツさんとヒゲさん、仲悪いってのに。」
話題は今度の騒動から始まり、
クレイとテッカの諸事情に続き、
唯一事情を知っていたマツリの対応は如何なのかと、
いうところまで発展していた。
いくら口止めされていたとは言え、
マツリはテッカに冷たすぎるというポールの意見に、
ノエルが難しい顔をしたあたり、
事は思っているより複雑だったらしい。
誰にでもフレンドリーなヒゲが、
テッカとの確執があったという予想外の事実に、
ポールは目を丸くした。
「仲、悪かったんですか。」
「嫌いあってるってのとは違うけど、いいはずないよー
ヒゲさんは悪い人じゃないけど、ああでしょ。
反面、テツさんは生真面目なところがあるしさ。
元々キャラがあわないっていいのに、
クーさんが悪化させるからさー」
そもそも、ヒゲを連れてきたのがクレイだ。
どうせなら、目に付かないところで、
仲良くしてくれれば良かったのにとノエルが肩を落とす。
「クレイさんが悪化させる?」
二人が性格的に相反しているのは理解できるが、
クレイがそれに油を注ぐという、
益々イメージに合わない言葉にポールは首を傾げたが、
ちょっと考えれば判るでしょと呆れられた。
「考えてもごらんよ。
好きな人が、目の前で他の男とイチャイチャ、
ペア狩り行ってるってだけでムカつくのに、
そいつといるときは心底楽しそうだわ、
雑談含み何でも相談してたら、どう思う?」
当然、テッカならずとも心中穏やかなはずがない。
ようやく事情を理解して、ポールは頷いた。
「その上、ヒゲさんですしね。」
「そう、ヒゲさんだからね。」
ヒゲだからなんなのかは敢えて口にせず、
二人は揃ってため息をついた。
話題の当人は全くそんなことを知らずに、
ジョーカーと水遊びに熱中している。
「喰らえ、ジョーカー! ウォーターボール!!」
「やったな、この野郎wwwwwww」
いい年した男がキャッキャ言いながら、
ずぶ濡れになっている光景は、
不快とは言わずとも、見ていて楽しいものでもない。
魔物がでる海岸での行動としても、
好ましいとは言えない状況のなか、
ポールは改めて雑談内容を振り返った。
テッカとクレイの関係を前提としなくとも、
ドスコイとの付き合いがちょっと話し辛いのは判る。
その上、更に悪化するとなれば、
誰でも積極的に動きたくない。
挙げ句、上司を激しく傷つけるとなれば、尚更だろう。
何時だったか、ヒゲにはついつい気を許しすぎて、
口が滑るとクレイが笑っていたのを思い出し、
ポールが何とも言えずにいると、
ノエルがまた、ため息をついた。
「本当にさ、せめて他の知り合いのところだったらって、
思うよ。」
面倒の元と言えばヒゲに悪いが、
クレイも余計な人間と知り合ったものだ。
「ヒゲさんとクレイさんって、冒険者同士の、
臨時パーティで知り合ったんでしたっけ?」
「そうそう。俺は知らない人と組むの、
あんまり好きじゃないけど、クーさんはあの頃、
ちょくちょく臨時に混ざってたしね。」
ギルドのメンバーや友達と出かけるだけじゃ、
稼ぎが足りないって、ソロ狩りも含め、
毎日のように狩りに行ってたからなと昔を振り返りつつ、
ノエルは大きく伸びをした。
「それにしても、オットーの奴ら、本当にいないなあ。」
「どうしてなんでしょうね?」
これでは狩りにならないと、ポールも首を傾げる。
「おーい、ポール君達もこっちおいでよ!」
暢気にジョーカーが誘ってくるのに、
ノエルが苦笑いする。
「なんか、あっちの方が利口な気がするなあ。」
初夏に入った海岸は暑い。
モンスターが絶対にでないのであれば、
自分たちも喜んで混ざるところなのだが、
流石にそこまで気は抜けない。
抜けないのだが、肝心の魔物がいないのだ。
「誰かに、乱獲されちゃいましたかね?」
「かなあ?」
何故なんだろうと不思議がっていると、ヒゲが言った。
「さっき、向こうでWSさんっぽい人が、
狩りしてるの見たぞ。
その人が全部狩っちゃったんじゃないか?」
「えー そうなんですか?」
「えー まさかぁー」
それなら、仕方ないのかと納得しかけたポールと反対に、
ノエルはそんなはずはないと笑った。
「高レベルの騎士が全力で駆け回ったとか、
WIZが暴れたってんならわかるけど、
WS一人で、どうこうなるワケないよ。」
「そう言うものなんですか?」
ホワイトスミス、いわゆるWSは、
BSことブラックスミスの上位職だ。
その名の通り、即ち鍛冶屋から発生した職で、
商人系といわれる、
前衛職でもちょっと変わった職ではある。
ただ、魔物と戦うだけでなく、
荷物の運搬や収集、鉱物の研究に、
武器の作成、物の売買や作成など、
狩りというより、生活に関わる技術を得意とする。
確かに剣士やシーフ、考えようによってはマジシャン、
アコライトも戦場での技術に徹するのを考えれば、
戦闘以外のスキルを収得する商人系は、
純粋な戦闘職と比べてどうなのだろうとは思う。
しかし、WSといえば、
冒険者として最高ランクにあたる三次職の一つ。
それ相応の戦闘力を持っているであろうに、
騎士やWIZならばあり得て、
WSじゃ駄目というほど、問題があるのだろうか。
首を傾げたポールに、ジョーカーも笑う。
「そりゃそうだよ。だってWSでしょ?
確かにPTに一人いると便利だけどさ。
ボクらに比べると手数もぜんぜん少ないし、
戦い方も、ハンマーウォールで気絶させたところを、
ちまちま殴るって感じだかんね。
ソロで大量虐殺はないでしょー」
その言葉を裏付けるようにノエルも頷く。
「前、ギルドにいたから、俺もその強さはわかってるよ。
でも、一撃一撃は痛いけど、騎士ほどじゃないし、
なにより、タイマン勝負が基本の職だからね。
カート引っ張るから、どうしても軌道力も落ちるし、
海岸のオットー根こそぎって言うのは、
ちょっとないよー」
「しかしなあ。」
意見を否定されたから、ということもないだろうが、
ヒゲが首を傾げる。
「そうは言っても、
アドレナリンラッシュでスピードUPすれば、
重い斧でシーフ並の連打が可能になるのは事実だし、
攻撃力がカートの重量に左右されるとはいえ、
範囲攻撃もカートレボリューションがあるしな。
WSなら、当然属性武器も持ってるだろうし、
ないってことも、ないんじゃまいか?」
「いやーやっぱりないでしょー」
重量武器の破壊力と、対多数スキルの有無からすれば、
不可能ではないとの主張に、やっぱりノエルは首を振る。
「CRを主力と考えるなら、
当然相応の荷物がカートに入ってないといけないし、
そうなると、移動も大変だからね。」
移動範囲を固定して狩りをするのならばまだしも、
海岸を歩き回りながら、
出没するオットーをまとめて処理というのは、
移動する負担的にもスピード的にも難しいと言う。
ポールは知り合いの商人系と言えば、
BSの対になるアルケミストであるブラッドしかおらず、
その彼とも狩りに行ったことは一度もない。
仮に行ったことがあるとしても、
アルケミとBSは戦闘方法もほとんど異なるという。
ホムンクルスや人工モンスターを召還、使役して、
自身の戦闘力の低さを補ったり、
作成した薬品で、味方を回復させたり、
敵に甚大なダメージを与えたりと、
アルケミが多彩なスキルを拾得するに対し、
BSは完全な物理攻撃に終始するにも関わらず、
強力な必殺技は持っていないとのことだ。
アルケミ以上に運搬技術を重視しているので、
より運搬技術は高いし、
職業上武器の造形に関する知識も深いが、
どちらも攻撃とはあまり結びつきそうもない。
戦闘中に使うスキルも簡単な武器の攻撃力をあげる物や、
体力向上的なものだと言うし、ただ武器で戦うだけなら、
自分と大差ないようにも思える。
どちらにしろ、知識がない以上、
先輩方の意見に頷くしかなかった。
「このクソ暑いのに、重たい荷物引っ張って狩りとか、
ご苦労だよね、全く。」
ジョーカーの言葉が締めくくりとなって、
WSの話題は終わり、
もう少し、移動して別のところに行ってみようかと、
ノエルが提案した。
さて、どうしたものかと悩んでいると、
キュキュキュキューとオットー達が騒ぎ立てる、
それも一匹や二匹どころでない声が聞こえてきた。
「なんですか、あれ?」
ポールが指さしたものの全容が明らかになるに連れ、
皆、思わず、口を開けずにいられなかった。
まず、大きな荷物を積んだカートを引いた、
ホワイトスミスの姿に目を見張る。
190を越しているだろうか、見上げるような長身は、
ミッツガルド王国の平均身長170cmを遙かに越えている。
それもただ、ひょろひょろと背が高いだけではなく、
屈強な筋肉が服の上からもありありと分かる。
透けるような白い肌と銀色の髪からすれば、
北国の生まれだろう。
賢しげな黒縁の眼鏡の下で青い瞳が冷たく光る。
機械的なまでに無表情に歩を進める彼の後を、
7・8匹のオットーが喧しく喚き立てて追いかけていた。
あからさまに重そうなカートを引っ張っているのに、
その動きは鈍ることもなく、黙々と進むWSに、
自棄っぱちに思える鳴き声をあげて、
一匹のオットーが躍り掛かった。
それを合図として、次々と他のオットー達も飛びかかる。
「危ない!」
思わず、ポールは叫んだ。
複数の、しかも取り囲むように四方から襲われれば、
歴戦の冒険者といえど、負傷は必須に思えた。
だが、WSは少しも慌てず、ただ少し、
カートを引く左手に、血管が浮き出たように見えた。
「カートレボリューション。」
商人系と呼ばれる彼らのみ扱う特殊なカートは、
力学と魔法学の技術と特殊な素材を用いて、
いかなる衝撃からも中身を守るよう作成されている。
その硬度を逆手に取り、
武器として扱うカートレボリューションは、
商人系スキルの花形だが、本来の用途に反していると、
非難も集めているらしい。
どの道、振り回すには重く、大きすぎるそれが、
軽々と宙を舞った様は、悪い夢を見ているかのような、
錯覚を引き起こした。
ドカンと空砲が鳴ったような音が遅れて耳に入り、
空中で躍るようにはね飛ばされたオットーの体が、
地面に着く前に第二段が降りおろされる。
それが幾度か繰り返され、
巨大な鉄骸のようなカートで複数回叩きのめされた、
海獣たちは平べったく潰れ、
最後には馬車にひかれた蛙のようになっていた。
それを黙々とカートに積み込み、
WSは立ち去ろうとしたが、
ポールたちの視線に気がついた。
僅かに眉を動かし、不機嫌そうに目を光らせる。
慌てて顔を背けたが、少し遅かったようだ。
「なんか、よう?」
地の底から湧き出たような低音ボイスに、
ジョーカーが飛び跳ねるように答える。
「いえ、なんでもないです!」
「・・・そう。」
攻撃的なわけではない。
ただ、全く友好関係を築ける気がしない。
因縁を付けられたらどうしようと内心青くなったが、
WSはそのまま反対方向、来た道を黙って帰っていった。
来たとき道理、黙々と去っていくその姿に、
ポールは一気に背筋が寒くなった。
「怖ぇえ・・・なにあれ、鬼神?」
「あんなに狩られちゃ、
そりゃ、居なくなるよな・・・」
蚊の泣くようなジョーカーのでつぶやきに、
同じく、ヒゲが気合いの抜けた声で答えた。
肝が冷えたのは、ポールだけではなかったらしい。
「本当、強かったですね・・・」
「それもそうだけどさぁ・・・あの気迫・・・
ある意味、テツさんに睨まれたときより怖かったよ。」
ブルブルっとノエルが体を振るわせたところで、
ポールは更に恐ろしいことに気がついた。
「でも、WSは大したことないって、
言ってませんでしたっけ?!」
『あれは例外!!』
あれが大したことないの?
そう驚いたポールに、ジョーカーとノエルが同時に叫び、
そのままお説教に入った。
「全く、変なこと言わないでよ!
あれが大したことなかったら、
ボクはどうしたらいいのさ!」
「勝てないね。ああ、勝てないよ、俺じゃ。
そうなると一般的LKは皆、
大したことない以下になっちゃうね!」
「すみません、変なこと言って。」
ヒステリックに叱りつけられながら、
何で自分が怒られるんだろうと、
ポールはぼんやり疑問を感じた。
なんにしろ、先輩のコンプレックスを刺激しないほうがいい。
| 10 | 2025/11 | 12 |
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残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


