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V(ヴァカみたいにどうでも良いこと)を、 N(ねちねち)と書いてみる。 根本的にヴァイオリンとは無関係です。
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もめる先輩方、
というより、ユッシとそれを叱るその他の言い争いが、
いつまでも終わらないのに、ポールは途方に暮れた。
両手に抱えた段ボールの中には、
小さな雛鳥が不思議そうに自分を見つめている。
まだ、孵化して2週間経っていないと思われる雛鳥は、
騎乗用として買い取られた事どころか、
母親から引き離されたことすら、理解しているか怪しい。
少なくとも、ポールが自分に危害を加えるとは、
夢にも思っていないだろう。
自分を信じきった瞳に、
泣きたくなるような想いが胸からせり上げたが、
意を決して、ポールは争う先輩方を止めた。
「あの、俺、やっぱり、
 ペコ、騎士ギルドからちゃんと借ります!」
新米の声に、全員が振り返る。
「急にどうしたの?」
ポールの決断自体は、非常に歓迎すべきものだが、
なぜ、心変わりしたのかをフェイヤーが問う。
場合によっては、更に面倒なことになるかもしれない。
LK3人+1は改めて身構えた。
「俺、よく分からないですけど、
 ペコを自分で育てるのは、おかしいんですよね?」
ポールの質問、というより確認に、
一端の間があった後、ノエルが答える。
「まあ、ある程度の実力を備えたひとなら、
 育てることもあるかもしれないけどね。」
完全否定はされなくても、上級者の趣味という事だ。
少なくとも、新米の自分には不相応と判断し、
ポールは改めて頷く。
「じゃあ、俺、諦めます。
 立ち位置の訓練にもなるのかと思ってましたけど、
 全力で騎士を目指さなきゃ行けないのに、
 別のこと、出来ませんから。」
ただの娯楽に手間をかけるほど、今の自分に余裕はない。
新米の立派な決断に、LK達は感心し、
同時に結果的に期待を裏切る形になったハイプリに、
冷たい視線を降り注ぐ。
尤も、ユッシはそれを気にするような男ではないが。

そちらを突っついても進展はないと判断し、
テッカがまず、ポールの判断を認める。
「確かに、騎士になったときのペコがどうこうってのは、
 今、考える事じゃないな。」
「まずは、転職が先だしね。」
フェイヤーも頷き、
騎乗用としてピッキを育てるのは諦めることになったが、
問題はまだあった。
「でも、そうしたら、この子をどうしたら・・・」
ポールが育てられなくても、
誰かが雛鳥の世話をしなくてはならない。
露店商にはきっと返せない。
もう、何処にいるともしれないし、仮に見つけても、
一度買ったものを引き取ってくれるか怪しい。
生き物だけに、LKたちも困った顔をする。
「野性に帰す、には、まだ小さすぎるよね。」
元々ペコペコは砂地に生息するモンスターだが、
フェイヤーの案にはすぐノエルが反対した。
「駄目ですよ。仮に大きく育ってても、
 どの道、人に育てられたペコじゃ生きていけません。
 一羽で生きていけるようにするとしたら、
 もっと手間がかかりますよ。」
「だよねえ。」
元々、否定的な案だった上にきっぱり反論され、
ギルマスはどうしたものかと腕を組んだ。
「野良ペコは畑を荒らすんで問題になってるしな。
 別の飼い主を捜すにしても上手く見つかるかどうか。」
いい案を思いつけないのはテッカも同じ様で、
最悪知り合いを片っ端から当たるしかないと言う彼に、
ユッシも流石に困った顔で頷いた。
「夕飯のおかずにするとしても、
 食べるところなさそうだしな。」
このハイプリはどこまでマイペースなのだろう。

「ユッシ!」
あまりの提案に青ざめたポール以上に、
ノエルが理性をとばし、ユッシをぶん殴る。
「お前、他人事だからって、
 言って良いことと、悪いことがあるだろ!
 そもそも原因作っておいて、
 ふざけるのもいい加減にしろよ!!」
穏和なノエルをここまで怒らせてしまい、
流石のユッシも不味いと思わないわけがないが、
手を出されては、収まるものも収まらない。
謝るどころか持ち前の負けん気で噛みつき返す。
「なんだよ! 
 生きるためには食わなきゃいけない。
 ペコは駄目だ、あれも駄目だなんて言ってたら、
 何も食えないだろ!」
「そういう問題じゃないんだよ!」
本気の殴りあいが始まる一歩手前で、
フェイヤーが一喝する。
「止しなさい!」
普段幾らのんびりしていても、
フェイヤーはギルドマスターだ。
一言たりとも反論を許さない気迫で、
強制的に喧嘩を止める。

父親代わりのギルマスに押さえられれば、
ユッシもノエルも、大人しくするしかない。
黙り込んだ二人に、ため息をつきながらも、
今回ばかりはきっぱりと、
フェイヤーはユッシの非を責めた。
「今のはユッシンが悪いよ。」
確かにポールがピッキを手に入れたのは、
たった数時間前のことかもしれないが、
愛情は時間の長さと比例せず、
彼がピッキをひどく大事にしていることは一目瞭然だ。
情を移したものを軽く扱われれば、
誰だっていい気はしない。
スペアリングを可愛がっているノエルには、
余計にポールの気持ちが分かるだろう。
新米に変わって激高したのは、
相手を思いやる気持ちをもっていれば当然だと、
フェイヤーは言った。

「ただ、ノル君も手を出したのはよくないね。
 それでおあいこにしなさい。」
双方の非を認め、これ以上の喧嘩を認めないことを、
ギルマスは宣言する。
「勝手に名前、短縮しないでくださいよ。」
そこだけ反論したもののノエルは拳を下げ、
ユッシは頬を思い切り膨らませたが、何も言わなかった。
何とか場が収まったところで、
フェイヤーはもう一度ため息をつき、本来の問題に戻る。
「兎も角、騎乗用として育てるのはやめるとしても、
 ペットとして飼うぐらいなら、いいんじゃないかい?」
それぐらいなら、剣士にも許されるだろうとの意見に、
一瞬迷う素振りを見せたが、結局テッカも頷いた。
「そうだな。
 それだけなら、立ち位置などの訓練にも、
 ならねえことはないな。」
ペットを狩りにも連れていく冒険者は多々いるが、
モンスターに攻撃されるのは、人間だけのはずがない。
きちんと守り切れなければ殺されてしまうし、
戦闘に夢中になっている間に、逃げられることも多い。
逆に気を配りすぎてしまえば、
手数が減り、自分の身が危なくなる。
そこを調節する余力ができれば、
PTメンバーの動きを気にすることだって難しくあるまい。
「じゃあ、飼ってもいいんですか!?」
「その分、これまで以上に頑張れるんならだぞ。」
テッカにくぎは差されたが、
諦めていたピッキの飼育許可にポールは飛び上がった。

「やったあ!!」
満面の笑顔で大喜びする新入りに、荒れていた場も和む。
やれやれと、フェイヤーは胸をなで下ろし、
幼なじみ二人組も休戦する。
「だから、訓練になるって言ったろ。」
「そういう問題じゃないだろー
 ま、最終的に丸く収まったからいいか。」
文句を言うユッシから反省の色は見えないが、
ノエルは取りあえず怒るのをやめたらしい。
新しく増えた世話焼き対象のために、
部屋の隅と古いタオルを提供する。
「ここが一番暖かいから、普段はここにおくといいよ。
 それから、タオル一枚じゃかわいそうだから、
 これも一緒に入れてあげな。」
「はーい!」
ようやく、通常の朝の流れに戻ってきた。
結局部屋で飼うのかと文句を言いながら、
テッカが椅子に座って一息つけば、
フェイヤーは改めて冷蔵庫の中を漁り始め、
ノエルがピッキのために暖房器具が欲しいと騒ぐ。
「確か、湯たんぽがあったよな。
 何処しまったっけ?」
「二階の物置の中だろ。」
「そっか、ちょっと取ってくる。」
「確か、左上の箱の中にしまったと思うぞ。」
答えながら、ユッシは自分も座ろうとして、
椅子が2脚なくなっているのに気づいた。
「テツさん、うちの椅子は?」
「今朝、一番で修理に出した。」
「あ、そう。」
何の修理かは言わずとも知れたらしく、
ユッシはそれ以上聞かず、
ポールの箱の中身を突っついた。
「に、しても随分小さいなあ。
 ペットショップとかでみるのは、もっと育ってない?」
「ですよねー
 買うとき、それは俺も思ったんですよ。」
自分で買い与えた割には無責任なことを言ってるなと、
年長の二人が考えているとも知らず、
ハイプリと新米の会話は続く。
「餌ってさ、何をやるつもりなの?」
「取りあえず今は、一緒につけてもらったの、
 あげてますけど。」
購入時に付いてきた小鳥用の摺り餌の粉をお湯で練り、
小さなスプーンで与えているとポールが言えば、
それで栄養は大丈夫なのかと、ハイプリは眉をしかめた。
「ピッキ用の餌って、何がいいんだろうな?
 ペコ丸は赤ハーブとファブルとか、
 食べてるみたいだけど。」
「鷹の雛なら、ササミのミンチに、
 小松菜とか混ぜてあげてましたけどね?」
鷹を扱うハンターの多いフェイヨン出身者らしく、
ポールはそれなりの知識を持っている。
しかし、鷹とペコペコでは生態がだいぶ違う。
タンパク質の割合はどれくらいにすればいいのかと、
専門的な疑問を口にする新米に、
ハイプリはよく知らないと首を振った。
「ササミって、それじゃ共食いじゃん。
 それにペコは雑食だけど肉は食べないんじゃないか?
 せいぜい虫とかだろ。」
ペットショップや市場の露店で、
それっぽいのをみたと言うユッシに、
ポールは難しい顔で頷く。
「じゃあ、それと植物性のものを、
 適度に混ぜてあげればいいですかね?」
「餌はどのくらいの頻度で、あげてるんだい?」
横からフェイヤーも口を出す。
「ピッキはペットとして珍しくないし、
 あげるものはペットショップで聞けば解るだろうけど、
 小さいうちはマメに餌をあげないとダメと思うよ。」
「餌は鳴いたらあげてますけど、
 さっきので今日3回目だから・・・
 だいたい1時間おきぐらいですね。」 
大きさから考えても、
それ位の頻度でやらないといけない時期だと思うと、
ポールは返事をしたが、ユッシは一気に顔を歪めた。
「うえー めんどくさいー」
「だって、雛鳥ってそういうものじゃないですか。」
やる気のない声を出した先輩に、
何を今更と新米は口を尖らせる。
そこにノエルが2階から降りてきた。
「おーい、湯たんぽあったよー」
「ノエルさん、後、餌のことなんですけど。」
ポールが意見を頼むと、
ノエルはペコペコを騎乗獣として扱うLKとして、
それなりの答えを出した。
「ああ、ピッキは他の鳥の雛と違って、
 生まれてすぐ歩くっていうし、羽も生え揃ってるから、
 そんなに赤ちゃん扱いしなくてもいいだろうけど、
 まずは5分の摺り餌に小松菜と赤ハブとワームかな。
 それにオレンジとかの果汁を少し混ぜて・・・」
「ペットショップで、買えますかね?」
自分はそういう店に入ったことがないと、
ポールが心配そうに聞くと、ノエルは首を傾げた。
「全部買えると思うけど、
 店で売ってるワームは栄養が今一な上に、
 あげすぎにも注意しないと病気になるって聞くよ。」
「あと、頭も取ってやらないと駄目ですよね。」
芋虫はそのまま与えると消化に悪いし、
飲み込まれた後、幼鳥の腹を喰い破ることがある。
摺り餌も暖かくなければ体調を崩すので、
作り置きができず、毎回用意しなければならない。

「うわー 本当にめんどくさいー」
気軽に買い与えたはいいが、
思った以上に手間のかかる存在と知って、
ユッシは完全に嫌になったらしい。
「まあ、頑張ってよ。」
早々に手を引っ込めて、我関せずの態度を示した。
だが、テッカがそれを許さない。
「うちにいる間だけでも、
 ユッシとノエル、二人で手伝ってやれ。」
「なんでー!」
進言ではなく決定事項としての通達に、
初めからそのつもりのノエルは特に何も思わず頷いたが、
世話のことなど、考えもしてないユッシは反発する。
「そりゃ買ったのは確かにうちだけど、
 ペットの世話をするのは飼い主の責任だし・・・」
「手伝ってやれ。」
ハイプリの言葉を途中で遮り、
有無をいわさぬ態度で、テッカはきっぱりと言い切った。
「それぐらいやっても罰は当たらないだろ。
 全く、余計なことばっかりしやがって。」
一体どれだけ騒ぎを起こせば気が済むのかと叱られ、
再びユッシは頬を膨らませる。

その様子にフェイヤーも呆れた顔をし、外を指さした。
「そうだね。それに反省の意味も込めて、
 城内を3周ぐらい、久しぶりに走ってらっしゃい。」
「えー!!」
これは予想外だったらしい。
ユッシが再び悲鳴を上げただけでなく、
テッカも驚いた顔をした。
「何だ、珍しい。」
そういうのは俺の仕事だろうと、
鞭の役を受け持っているLKが言えば、
飴の役が多いギルマスは難しい顔で首を振った。
「最近、色々と甘いなと思ってたからね。
 ちょっと引き締めていかないと。」
軽はずみな言動で新米に迷惑をかけ、
騒ぎを起こした幼なじみに下された罰に、
ノエルが恐る恐る手を挙げる。
「それって、俺もですか?」
「うん、そうだね。」
連帯責任とは言わないが、君は君で、
もっとしっかりしてと言われてしまい、
ノエルはがっくりと肩を落とした。

「もー 何でうちまで!」
「それはどっちかって言うと俺の台詞だよ。」
ブーブー文句を言い合いながら、
グズグズしている二人を、
早くいけとフェイヤーが急かす。
「ほらほら、行った行った。
 そろそろGvも近いし、
 これを機に、気合い入れ直してくれなきゃ困るよ。」
「そうか。」
確かにそうだと、テッカは静かに頷きながら席を立ち、
珍しく厳しい態度を示すギルマスの肩を叩いた。
「じゃあ、あんたも走ってこい。是非とも。」
今度はフェイヤーが悲鳴を上げる。
「えー! 何で僕まで!?」
「その理由を逐一説明した方がいいか?」
ギュッと、肩を掴む手に力が入り、
フェイヤーもウッと詰まった。
テッカは外見上はにこやかに笑っている。
しかし、彼が内心どれだけ怒っているかは、
肩に食い込んだ右手から、よく伝わってきた。
全く笑えない雰囲気に年少者たちが凍り付き、
ギルマスは素直に謝る。
「ご免なさい。」
大人しく罪を認めたフェイヤーをそのまま突き飛ばし、
荒々しく、テッカは再び椅子に座った。
「よし。じゃあ、揃って行ってこい。」
「ハーイ・・・」
吐き捨てるように言われ、すごすごと三人は出ていった。
その背中を複雑な表情でポールが見送る。
「行ってらっしゃいー」
ユッシやノエルはまだしも、
ギルマスのフェイヤーまで、
走り込みの罰を受けることになるとは。
果たしてどんな理由があるのだろう。
「テツさん、フェイさんは一体何を・・・?」
「聞くな。」
訪ねるも、一刀両断で切り捨てられるあたりが、
ますます恐ろしい。

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