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「で、うちがいない間に、
そんな面白いことやってたわけ?」
憮然とした顔で、ギルド唯一のハイプリーストが訊いた。
「面白いとか、そういう話じゃないよ!
誰も彼も、そろって無茶してさ!
挙げ句、これだもん。
何が面白いんだよ!」
幼なじみのLKが即座に怒鳴る。
「ってか、こなかったのはお前の勝手だろ!
毎日フラフラ、どこ行ってるんだよ!」
支援がいないせいで、
皆どれだけ困っているかとのノエルの苦情は、
いつも通り都合よく、彼の耳をすり抜けた。
「つかさー しっかりしてよね。
近々、生体B3Fツアーやろうと思ってたのに、
ギルマスのフェイさんがAXにやられたなんて、
噂にでもなったら、人集められないじゃん。」
己がいないせいで、メンバーが被った被害だと、
言えなくもないという事実には都合よく目をつぶり、
足らない頭数や職業を集める自分の身にもなってくれと、
ユッシはブツクサ言った。
「いやあ、本当、面目ない。」
魔法による治療を受けながら、
ギルマスがのんきに笑う。
その様子にあまり反省の色はない。
吹き出た血液の量にしては、傷は大きくなく、
一足先にユッシが戻っていたこともあって、
純支援の高魔力による回復魔法・ヒールで、
あっと言う間に直っていく。
「これでよし、と。」
ユッシが手を引いた時には、
傷口はすっかりふさぎ、
傍目には痕も残っていないように見えた。
大した傷じゃなくてよかったと、ハイプリは思う。
その後ろでは、まだポールが自己主張を続けている。
「でも、ちゃんと当たったんですよー
マツリさんだって、見てたでしょー?」
「ビキナーズラックって言葉、知りやせんか?」
口の悪いLKに手痛く叩き返されてはいるが、
未だ興奮冷めやらぬようだ。
残りのメンバーも、どことなくテンションが高い。
ノエルは怒っているが、
狩りとしては悪くないものだったのだろう。
「何だかなあ。皆ばっかり楽しんできちゃったわけ?
これなら、うちも行けばよかった。」
「だから、お前が勝手にいなくなるんだろ!」
ため息混じりに呟けば、
即座にノエルの文句が飛んだ。
まあまあと、フェイヤーが割ってはいる。
「次は全員で行こうね。
それで、今日の清算だけど。」
「そうだ。カウントはどうなった?」
清算と聞いて思い出したのか、テッカが結果を問う。
どうやら、
キルカウント競争までやってたらしい。
「んー 僕の勘定だと、
鉄っちゃんが152、祀ちゃんが129、
僕が122の、ノエル君が73、ポール君が0だね。」
「あの中で、数えてたんですか!?」
ギルマスの結果報告に、新米剣士が叫ぶ。
激しい戦闘であればあるほど、
普通は敵に気を取られ、全体を見失いがちだが、
冷静に状況を把握できる能力こそ、
指揮官に最も必要となる。
この点において、フェイヤーは他の追随を許さない。
彼が数えていたのであれば、多少の誤差はあれ、
そんなものなのだろう。
結果に満足したのか、テッカが頷き、
新米の護衛に徹していたにしては良い数だと、
ノエルも満更ではない顔をしたが、
負けが決まったマツリは苦々しげに舌打ちした。
腹いせに、道具袋にしまった戦利品をぶちまける。
「こんなもん、盗ってる場合じゃねえって、
分かってんのに止められねえ、この右手が憎い!」
一体、細い体のどこに仕舞っていたのか、
剣に短剣、杖などの武器の類に、少量の防具品、
束になった鎖がゴロゴロと床に転がる。
異色のLKの手癖の悪さは、相変わらずらしい。
「本当に、何をやってたんだお前は。」
呆れ顔でテッカが諫めた。
「はいはい、他の皆も拾ったものがあれば出してね。」
フェイヤーの指示に、
次々と、鎖やらハンマーやらが提出されるが、
その数はあまり多くない。
「全部で、10万ぐらいかなあ。」
ノエルが呟く。
「と、すると、5人で分けたら、
一人2万か。やっぱ少ないなー」
「2万? あんなに激しい狩り場だったのに!?」
LKのぼやきに、再び新米が驚いた声を上げた。
一人、10万だと思ったらしい。
「ドッペルは結局エネルギー体だからね。
他の魔物みたいに角や鱗が穫れるわけでもないし、
物理的な収入となると、物を持ってる方が珍しいからね。」
MSでも拾えれば話は別だが、
金銭は見込めないと思っていいという、
ギルマスの補足に、新米は言った。
「それじゃあ、俺はいいですよ。
皆さんで分けてください。」
回復薬だって、結構使ったでしょうと首を振る。
実際、高級回復薬である白ポーションは、
一つ920zほどする。
いかに腕のいい冒険者でも、
生体研究所のドッペルゲンガー相手では、
程度はあれ、負傷は免れないし、
プリーストがいないのでは尚更である。
驚異の回避力と多少の回復魔法を使えるマツリでも、
20は使っているはずで、他のメンバーはもっと多いだろう。
バーサクポーションなどの体力増強材を含めて考えれば、
簡単に稼ぎを追い越してしまう。
「結局俺、敵の一匹も倒せてないし。
守ってただけですから。」
仕事らしい仕事をしてないのに、
分け前までもらえないと生真面目に言い、
その事実を思い出したのか、ポールは肩を落とした。
それを言うなら、新米剣士を、
上級狩り場に引っ張っていった、ギルメンの方がおかしいのだが、
最後の一撃は兎も角、防戦一手だったことを考えると、
前衛職である剣士としては気が引ける物があるようだ。
「まあまあ、そう言わずに。
あれだけ守れれば、十分だよ。」
元々レベル違いの狩り場なんだからと、
フェイヤーがポールを慰める。
実際、ドッペル相手に己が身一つだけでも、
守りきったのであれば、剣士としては上出来であって、
新米を見直したユッシも、
ギルマスと一緒になって、新米を励ました。
「結構、防御の才能あるんじゃないか?
これを機会に、クルセを目指してみろよ!」
途端に、何とも言い難い白い視線が、
ポールを除く全てのギルメンから降ってきた。
いったい何なんだと、ユッシは憤る。
「なんだよ!
延びる可能性があるなら、教えてやるのが、
先輩冒険者としての義務だろ!」
「それより、あそこでアサクロがでなきゃな。」
ユッシを遮るように、テッカが無理矢理話を変える。
「シーフが短剣を落としたんだが、
どさくさに紛れて拾えなかった。
もし、マインゴーシュなら、良い値が付いたんだが。」
「みすみす稼ぎを見逃すなんざ、何やってるんすか!」
もったいないことをしたとテッカの言葉が終わる前に、
マツリの激しい非難が矢のように飛んだ。
「この役立たず! 甲斐性なし! ノロマ!
支援前提火力馬鹿! 特攻猪! ストーカー!」
「おい、そろそろ、いい加減にしろ。」
仮に拾っていたとしても、
8万程度で、5人割なら大きな差もでないが、
必要以上に非難するマツリに、静かにテッカが怒る。
いつしかそんな流れになれたポールが、
そのまま話を進めた。
「でも、怖かったですね、AX。
まさか、本当にでるなんて、思いませんでしたよ。」
「だから言ったろう。
怖いよ、アサクロは。」
新米の言葉に、
ノエルが繰り返した言葉をもう一度口にする。
「今回はやられる前に気がついたけど、
クロークからソニックブローは、
本当に死人がでるからね。
無防備な所にいきなり必殺技たたき込まれるんだもん。
容赦ないよ。」
「クロークはトンドルと違って、
移動に枷がありませんかんなあ。
仮に初撃を避けられても、素早く隠れて逃げられると、
追うのも一苦労でさ。」
いったん地下に潜れば、
地上の攻撃を受け付けない代わりに、
動きが鈍るローグのトンネルドライブと異なり、
動きを遮らないアサシンのクロークは、
細かい動きがしやすい。
それで何度か痛い目を見たのか、
悔しそうにマツリも補足し、
うんざりしたようにテッカも言った。
「ソウルブレイカーも痛えしな。
連射は難しいとはいえ、
阿修羅とちがって、SP全部使いきるわけでもねえし。
AXに限ったことじゃねえが、
毒攻撃もかすっただけで一気に動けなくなんのが、
やっかいだ。」
先輩方が口々に言うのを、ポールは一口にまとめた。
「やな感じなんですね、アサクロって!」
シンプルな答えに、LKたちが挙って頷く。
「苦労して倒しても、レア落とさないしなー」
地下3Fに最も潜っている回数が多いハイプリが、
ついでと言わんばかりに付け加えた。
「でも、LDと速度現象で動き止めちゃえば、
どうってことないし。
なれれば美味しい雑魚だよ。」
自信満々に言い切るユッシの様子に、
ポールは目を丸くする。
「弱いんですか、AXって。」
「一撃でも食らったら即死の槍投するLKや、
遠距離から神速で攻撃してくる砂、
容赦なく魔法ぶちこんでくるWIZに比べると、
くるって言うのが判っていれば、
対処も簡単なのは確かかなあ。」
新米に勘違いさずに伝えるには、
どうしたらいいかとノエルが首を傾げ、
どうでも良さそうにマツリも言う。
「味方も隠れられなくなるとはいえ、
ルアフの一つも焚いてりゃ、
めったなことはありませんな。」
「知らないうちに来るのが一番嫌な点なのは事実だな。」
テッカのまとめに、ポールは憤るように言った。
「こそこそ近寄ってきて、
悪いことするなんて、感じ悪いですね!」
闇に隠れて敵を暗殺することこそ、
アサシンの真骨頂なのだが、
それを感情で全面否定するかのような流れを、
フェイヤーが押しとどめる。
「まあまあ、でも今日は毒瓶落としてくれたじゃない。」
暗殺者の秘法によって作られた毒薬は、
一瓶でも10万ほどの値が付くはずだった。
それでみんなで美味しいものでも食べようと、
ギルマスが提案すると、ユッシが反応した。
「何? 毒瓶でたの?」
知り合いが欲しがっていたんだと、
喜々として買い取りを申し出る。
ちょうど良かったと、
フェイヤーも喜んで小瓶を取り出したが、
どうも、その様子がおかしいのに気がつく。
「どうしたの?」
「いや、なんか、軽い?」
異変を察したギルマスが小瓶のふたを開け、
不思議そうな顔をしたギルメンたちの前で、
瓶を軽く傾けた。
黒い小瓶の中から、
一滴の紫色の滴がこぼれ、床を焦がす。
が、それ以上は、降っても逆さにしても、
でてこない。
「・・・空だね。」
「空だな。」
「空ですね。」
しばしの沈黙の後、
部屋は再び騒がしくなった。
「なにそれ! 期待させるだけさせといて、
空っぽとか、何それ!」
「やらしい! これはやらしい!」
「だから、ちゃんとマイン拾ってれば良かったのに、
この駄目男!」
「俺のせいかよ! 悪かったな!」
「あー 晩酌が一本増えると思ったのにー」
「あんたは禁酒に決まってるだろうが!
腹に穴あけて何言ってるんだ!」
ギルメンと一緒に散々騒いだ後で、
ポールは心から、今回のまとめを叫んだ。
「あーもう、アサクロなんか、大ッ嫌いだ!!」
ほぼ同時期、
イズルートの片隅でクシャミをした男がいた。
「あー また、どっかで美女がボクの噂してるなー
モテる男は辛いわー」
「ないわー」
「それだけはないわー」
ジョーカーが鼻を啜りつつ言うそばから、
サイドからハイプリ二人の突っ込みが入る。
「いやいや、判らないですよ?
この間会った豊満な胸のアルケミさん辺りが、
今頃ボクのことを思いだしていたとしても、不思議じゃない。」
非常にポジティブと言っていいのか、
表現の仕方がキモいと指摘するべきか悩むジョーカーの発言に、
顔色一つ変えずヒゲとクレイはどうでも良さそうにつっこんだ。
「更にありえないわー」
「天地がひっくり返ってもないわー」
そのやる気のない突っ込みに、
ちょっと、あんたたちと、
ジョーカーが反論しようとしたとき、
ハッとクレイが我に返ったように叫んだ。
「むしろ、今ので、
向こうさんが悪寒を覚えた可能性がある!」
「なんてことだ! 謝れ!
ジョーカー、アルケミさんに謝れ!!」
今までの気のなさはどこへやら。
水を得た魚のように、
自分を責めるハイプリ二人の理不尽な態度に、
ジョーカーも叫んだ。
「ごめんなさいねwwwwwwwww」
「信じられない! 周りに迷惑かけるとか、
ちょっと、やめなさいよ!」
「本当に、酷いな、ジョカは!!」
「あんたたちも大概酷いよwwwwwwwww」
ぽかぽかといい年した男達が殴りあう様は、
どうしようもなく派手だが、
これでも、ポールがいないので、大人しい方なのだ。
ふと、彼のことを考えて、
クレイはそっとため息をついた。
「無事に、帰ってくればいいけど。」
それに気がつかず、ヒゲとジョーカーが、
ますます激しく争いはじめ、ついには殴りあいを始めた。
「大体お前に彼女がいるって現実の方が、
よっぽど酷いんだよ!
おまえこそ、嫁に謝れ!」
「生まれてきてすみませんwwwwwwww
でも、変態おっぱい星人に言われたくないwwww」
「誰が変態かwwwwwwwwwwww
せめて、おっぱい聖人と呼べwwwwwww」
その様子ををみながら、クレイはまた、思う。
「うん、ポール君が大丈夫でも、
こっちが大丈夫じゃないかもしれない。」
むしろ、彼がいない間に、
現状を矯正するべきなのではないか。
イズルートは、今日も本当にうるさい。
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| S | M | T | W | T | F | S |
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残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


