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V(ヴァカみたいにどうでも良いこと)を、 N(ねちねち)と書いてみる。 根本的にヴァイオリンとは無関係です。
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「足手まといなのは、判ってますけど、
 でも、俺・・・」
「そうと決まったら、さっさと行くぞ。」
ポールが自己主張しようとしたのを、
テッカが横から遮った。
下らんことを言う暇があるなら支度をしろと、
白ポーションを投げつけると、戸惑う新米を置いて、
乱戦でゆるんだ手甲の紐を締め直し始めた。
役立たずの続行は、やはり迷惑なのだろう。
ポールが肩を落とすと、
逐一凹むなと、背中をどつかれた。
「気なんぞ使わねえでいいから、頑張れって、
 言いてえんすよ。」
うんざりした顔で、マツリが囁く。
「口の効き方を知らねえ上司は面倒で嫌だねぇ。」
己を棚に上げて首を振る、
生意気な部下の声が聞こえていないはずはないが、
テッカは振り向きもしなかった。
つまりは、そういうことなのだろうかと、
ポールが少し安心したところへ、
「あーもー 知らないよ、俺は!」
と、怒声が響く。

穏和なノエルに似合わぬ大声に、
周囲は驚いた顔をしたが、
本人は観念したのか、槍を持ち直すと宣言した。
「こうなったら、もう、しゃあない。
 俺も本気で行きます。」
自暴自棄とはいえ、
ようやくその気になった彼に、マツリが飄々と訪ねる。
「今まで本気じゃなかったんですかい。」
「言葉の文だから! 逐一つっこまない!」
一言多いギルメンに噛みついた後、
キルカウント競争から外させてもらうとノエルは言った。
「これからは、ポール君のサポートに、
 専念させてもらいます。」
新米に合わせるため、
スペアリング号の背から降りた彼を、
フェイヤーが止める。
「僕がみとくから、大丈夫だって。」
「フェイさんだと安心して任せらんないの!」
ギルド唯一の騎乗獣所有者は、
ギルマスを頭から怒鳴りつけると、
愛鳥の手綱を押しつけた。
「それより、護衛やってくださいよ。
 その方がなんぼか、気が楽だから。」
一口に護衛と言っても様々だが、
ナイトの場合は主にその軌道力を生かし、
後衛の保護と前衛への加勢、双方をこなす事をさす。
防御に徹しすぎれば、前衛の負担が増え、
前へ出すぎると、一瞬の隙に後衛が壊滅することもある、
判断の難しい仕事で、経験がものを言う。
本来、長く冒険者をしているフェイヤーに、
うってつけの役だ。

ペコペコさえ持っていれば。

その事実も思い出したのか、
ますます、ノエルの表情が微妙なものになったが、
一回り年の離れたギルマスは、
のんびりしたペースを崩さない。
「はいよ。」
久しぶりにペコに乗るかねと手綱を受け取ると、
「え、よっこいしょ。」
と、年寄り臭い掛け声をあげて、
スピアリング号に乗り込む。
「どうどう。」
所有はしていなくとも、当然騎乗技術はあるようで、
ノエルに劣らぬ手綱さばきで、
軽くスペアリングを歩かせた。

メンバーの周りを一回りした後、
主と違う乗り手の重さを確かめているのか、
ペコペコは何度か足踏みをし、
準備ができたと言わんばかりに鳴き声をあげた。
「クエックエッ」
「よし、じゃあ、改めて行きますか。」
再度ギルマスが下した進軍命令に、メンバーが頷く。
「いぇーい。」
「だから、一人で突っ込むなって、言ってっだろ!」
適当なかけ声と裏腹に、
勢いよくマツリが階段をかけ降り、テッカが後を追う。
瞬く間に消えていく二人の背を眺めながら、
フェイヤーが笑った。
「相変わらず、マツリちゃんはやる気があるんだか、
 ないんだか、判んないねえ。」
そして、自らもペコペコの腹を軽く蹴り、
進めと合図する。
「さあ、僕らも行こう。」
階段を下りていくギルマスに、
ポールは続こうとし、途中でノエルと目が合った。
その侮蔑すら含んだ冷たい視線に、
思わず、足が止まる。

そんなつもりはなかったが、
結果的に自分をかばってくれた先輩の好意を、
蹴り飛ばすような真似をしてしまった。
申し訳なさを感じると同時に、
冷ややかな声が耳を刺す。
「何を考えてるんだか知らないけど、
 身の程知らずって言葉、知ってる?」
ノエルが放った言葉は視線と違わず冷淡で、
ポールは思わず下を向いた。
「ヤバいと判っているのに、
 引けるところで引かないなんて、
 バカを通り越して自殺志願者がすることだよ。
 死にたいなら一人で勝手に死ねばいいけど、
 周りを巻き込むような真似はやめてもらいたいね。」
何も出来ないのは、先ほど証明済みだ。
それだけならまだしも、
誰かの手を煩わせなければならないのも確定している。
防御しきれず怪我をすることも、
自分を庇おうとして誰かが、
死ぬことだって大いにありえる。
どちらも、周りにとっては迷惑この上ないだろう。
「すみません。」
余りに当然過ぎる非難。
責められる立場なのは判ってはいたが、
親切に自分を受け入れてくれた、
ノエルの言葉だと思うと余計に心が痛んだ。
だが、止めるべきだったとも思わなかった。
少しでも上に行くために、
危険でも前に進むと決めたのだ。
弓使いの森で育った自分には、
剣士としての経験や知識が圧倒的に足らない。
不足を埋めるには相応の努力が必要で、
危ないから、まだ早いからと逃げていては、
目標にたどり着くまで、幾ら時間があっても足りるまい。
それに、多少強引とはいえ、
マツリ達の許可は得たのだ。
騎士最高職のLKが大丈夫というのであれば、
チャレンジしてみるべきだろうと、
ポールは考えていた。

新米が謝罪の言葉を口にはしても、
反省も後悔もしていないのを感じ取ったのか。
再びノエルは口を開きかけ、何も言わずに顔を背けた。
ポールに対する言葉を探しているのか、
己を納得させようとしたのか、
片手で数度頭をかきむしる。
「まあ、いくら無謀とはいえ、
 新人さんがやる気になっているのに、
 頭から否定するどうかとも、思うけどさ。
 無茶すぎるよ。」
せめて、プリさえいればと、
腹の底からの想いと共についたため息を、
最後のぼやきとして、ノエルは頭を降った。
「まあ、こうなったからには仕方ない。
 ちゃんと、ついてきなよ。」
勿論だと、新米が強く頷いたのを、
もの言いたげな顔で眺め、
最後の忠告だとLKは言った。
「これだけは覚えておきな。
 どんなに強くなったって、なんだって、
 死んだら、何もかも、お終いなんだからね。」
「わかって、います。」
冒険者になるからには、当然覚悟するべき事だ。
もてる限りの覚悟を持って、
ポールは返事をしたが、即座に否定される。
「いいや、判ってないね。」
そう断言した、ノエルの顔にも声にも感情はない。
「君は、何も判ってないよ。」
大きくも小さくもなく、早くも遅くもない。
どんな非難や侮蔑よりも冷たい先輩の声に、
ポールは愕然としたが、
ノエルはさっさとギルメンの後を追い、
階段を下りていく。

「もっとも、こっちだって死なせる気はないけどね。」
踊り場で振り返った時には、
もう、いつもと同じだった。
「こうなったからには、やれるだけやるよ!
 気合い、入れられるだけ入れてよね!」
「はい!」
気合いなのか自棄なのかは相変わらず微妙なとこだが、
ノエルの掛け声にあわせて、ポールの返事も大きくなる。
「ポーション、万能薬は直ぐ使えるようになってる?」
「はい!」
「盾はしっかり持って、絶対落とすなよ!」
「はい!」
「ちゃんと敵の動きを観なよ。
 怖いからって、目を瞑ったらダメだよ!」
「はい!」
体育会系のノリを思わせる大声の確認作業は、
緊張や疑念、恐怖を吹き飛ばした。
「やばいって分かってて行くんだ、
 これで転けたら、本当にバカだからね!
 死んでも死なないでよ!」
「はい!」
最後の確認と共に、
二人は階段を駆け降りる。
行く先を思えば、足が震えないわけではないが、
後はもう、やるだけだ。
体は、動く。
動けることが分かる、余裕もある。
余裕は、それを与えてくれた先輩に感謝すること共に、
もう一つ、気がつかせた。
「でも、死んでも死なないって言うのは、
 文法的になんか変じゃ・・・」
「さっき、俺が、
 マツリちゃんになんて言ったか聞いてた?!」
「ハイッ、すみません!」
気持ちと文法は時々折り合わない。
取りあえず、沈黙は金だと重ねて書いておく。

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