忍者ブログ
V(ヴァカみたいにどうでも良いこと)を、 N(ねちねち)と書いてみる。 根本的にヴァイオリンとは無関係です。
[213]  [214]  [215]  [216]  [217]  [218]  [219]  [220]  [221]  [222]  [223
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 

生体研究所では、検問所での入場手続きのほかに、
契約書にサインを求められる。
研究所で事故が起こった場合の責任は、
個人で持たなければならない所為と、
本人に確かに入場の意思があることを、確認するためだ。
研究所は入り口から死亡率の高い危険な場所。
万一にも、一般市民が立ち入れば命の保証はない。

先にLK達がサインをすませ、
最後にポールが慣れない手つきで署名するのを見ながら、
警備兵が話しかけてきた。
「お兄さん、ここは初めてですか?」
「あ、はい。」
ポールの目を一切見ないで、
サインした書類を取り上げると、
事務的、というより機械的に彼は言った。
「先ほど、B3Fから、
 ガイルが進入したとの報告がありましたので。
 気をつけてくださいね。」
「は、B3F?」
特に許可を取った者でなければ入れないと言う、
B3Fから進入したとはどういうことか。
ポールが考えるまもなく、ノエルが悲鳴を上げた。
「げっ、マジで!?」
先輩の反応に本能が身の危険を告げ、
正確に状況をポールは認識した。
「B3Fから、
 モンスターが入り込んだってことですか?」
「入り口に張った警備システムは完璧なんですけどね。」
警備員は研究所の門を開けながら、
淡々と言った。
「AXの本能がそうさせるのか、
 ごく偶に警備網を突破するガイルがいるんですよ。」
「突破される時点で、完璧とは言わないと思います!」
即座に悲鳴とも突っ込みつも付かない指摘を、
新米は叫んだ。

それをひどく苦々しげに、警備員は睨み、
チッと舌打ちした。
高い科学と魔法学から作り出した、
自分たちの防御結界を上回るものなどない。
その足元にも及ばない田舎国の人間が、
生意気なことを言いやがる。
そう考えているのが透けて見えた。
「どんなに立派な結界でも、出入りの際には、
 道をあけなきゃならないでしょう。」
「誰かがB3Fに入ろうとする隙間を狙って、
 潜り込んでくるってことですか?」
差別心も露わな警備員の態度に、
バカにされるものかと、ポールは頭をフル回転させる。
出した答えは正解だったようで、
肩をすくめて警備員は肯定した。
「普通ドッペルは人と見れば襲いかかってくるもんで、
 ガイルもそうなんですけどね。
 進入者を襲うより、2Fに潜り込みたがる変なのが、  
  1000体中1体ほどにいるんですよ。」
「まあ、AXだからね。」
「AXなら仕方ない。」
フェイヤーとテッカが肯定したのは、
包囲網を抜ける技に徹したアサシンのサガなのか、
アサシンには、時々変なのがいると言うことなのか。
どちらとも分からないが、
ノエルがぐったりとしたのは確かだった。

「ガイルは、クロークして近寄ってきて、
 いきなり攻撃してくるから怖いんだよ。」
暗殺者を敵に回す恐ろしさは、
いつ襲われるか予測がつかないところにある。
一気に気力をそがれた風のノエルに、
フェイヤーが軽く同意する。
「プリがいないと、ちょっと厳しいかもしれないねえ。」
プリーストがいれば、
魔物が陰に身を隠していても、魔法で暴けるし、
あらかじめ防御結界キリエレイソンをかけておけば、
突然襲われても、刃を弾いてくれる。
万一のことがあっても、
強制回復魔法リザクレイションがあれば、
それなりの代償、多大な肉体疲労が伴うが、
大半の怪我は一瞬で直せる。
生きてさえいれば、蝶の羽で戻るなり、
逃げるなりできるだろう。
しかし、今回はその防御の要が不在だった。 
「どうしますー? やめときますかー?」
やる気のなさも露わに、警備員が聞いてくる。
「やっぱりユッシがいなくて、
 ガイルがいるって言うのは、
 いくら2Fでも、ちょっと危ないんじゃないかな。」
「まあねえ。」
日を改めようかと、ノエルとフェイヤーが話し合うのに、
ポールは強くうなずく。
無茶はしないでほしいと新米は願ったが、
天津二人組が納得しなかった。

「なんでえ、AXの一匹や二匹。」
大したことはないと、マツリがあっさりと言い放つ。
「要は黙って近寄られなければいいんだろ。」
テッカもこともなげに言う。
「マツリにルアフの一つでも焚かせときゃあ、
 すむ話じゃねえか。」
シーフの得意技、ハイドやクロークなどの隠密スキルは、
アコライトの光魔法ルアフや、
マジシャンの火魔法サイトなどの強い光に弱い。
魔法が使えない場合は、
ハンターの特殊な集中力で見つけ出すよりなく、
本来LKだけでは対処できないが、
幸いなことにZZHには、
アコライト出身者が混ざっていた。

「ああ、その手があったね。」
祀ちゃんがいて良かったよと、
フェイヤーが少しほっとした顔をする。
職の偏ったZZHのメンバーは、
マツリの万能性に助けられることが多いのだが、
今回は当人が首を振った。
「嫌でさ。ルアフなんぞ焚いたら、
 いざって時にハイド出来ねえじゃねえすか。」
「自分一人だけ逃げようとすんな。
 っていうか、LKがハイドとか言うな。」
正々堂々正面突破が信条なLKが、
どうしてシーフのスキルを口にするのか。
経路は未だ謎であるが、再びテッカがマツリを叱る。

「危なくなったら、
 ハイド&トンドルは基本じゃねえすか。」
「LKならタゲとって囮になるぐらいしなけりゃ、
 後衛が困るだろ! 何のための高いHP係数だよ!」
「どのみち、悪魔化パッチきたら、
 ガイルにハイドは通用しないよ!」
時期設定が大体そのくらいだという説明はともかく、
揉めるLK達に、研究所の門番がしびれを切らして、
声を大きくした。
「それで、行くんですか? 行かないんですか?」
「あーはいはい、行きますー」
慌ててギルマスが進行を決め、
メンバーを扉の奥に押し込む。

出入り口は二重式になっており、
入ってきた扉が閉まってから、
進行方向の扉が開く仕組みとなっていた。
「最近、ドッペルの数が増えたって言うし、
 無理しない方がいいんじゃないかな。」
急かされて、半ば強引に決まった進行に、
ノエルが不安を口にした。
「はいはい、いつまでも文句言わない。」
新入りを不安にさせるようなことをするなと、
ギルマスが注意する。
「だいたい、ちょっと数が増えたって、
 1次職ぐらい捌けないと、LKの意味がないでしょ。」
幾ら危険だと言っても、
3次職が4人もいて、対応できないようでは情けないと、
指摘され、ノエルはようやく諦めた。
「まあ、そうですけどね。」
一人愛鳥に乗り込みながら、
LKになるための3次職試験に比べれば、
大したことはないかと、呟いた。
それを入り口のドアが、
完全にしまったブザー音がかき消す。

「三次試験って、そんなにきついんですか?」
新米が問うのに、LKたちは顔を見合わせて、
口々に言った。
「試験がきついって言うか、
 受けるために支払うMP集めが、きついんだよね。」
「必要MPを集めるのに、
 危険な狩り場にいって稼いでこれるかが、
 試験の一巻になってるからねえ。」
「ちんたらやってっと、
 必要量貯まる頃には引退ですかんな。」
ふーんと、ポールは軽く相づちを打った。
3次職になるには一生を費やすというが、
最年長のフェイヤーにしても、30の手前か、
少し越えたくらいである。
ノエルやテッカはまだ20代であるし、
マツリに至っては、自分とそう年も変わらない。
今一つ、大変さをつかみ損ねていると、
テッカが具体例をだした。
「ざっと、B3Fのドッペル2700体。」
「は?」
「1次なら約27000体分だな。」
「それも、一人でだからねえ。」
生体でソロはきついと、フェイヤーが更に補足した。
獲得MPは基本、パーティーメンバーで頭割りだから、
必要数はメンバーが2人いれば、2倍、
5人いれば5倍になる。
「逆に言やぁ、
 それだけ倒せば3次になれるってことだ。」
はっきりしてていいじゃねえかと、
テッカは言うが、ポールはますます分からなくなった。

B3Fの特殊ドッペルは考えないとしても、
一人で1次職ドッペル27,000体というのは、
多いのか、少ないのか。
仮に一人で一日100倒せるとすれば、270日。
1年足らずで二次職を通り越して、
三次のLKになれる計算だ。
だが、1次職ドッペルというのは、
そんなに狩れるものなのだろうか。

ポリンやアンバーナイトなど、弱い相手ならば、
1日頑張れば300ほど狩れる。
ゲフェンタワー地下へ行ったときも、
クレイのMEもあって、短時間で同じぐらい狩れた。 
しかし、グラストヘイムの騎士団では、
2時間滞在してクタクタになったにも関わらず、
自分一人で倒した数は50に満たないし、
マツリと二人でフェイヨン地下墓地に通ったときは、
多くても、100行くか行かないかだった。
また、モンスターの数は有限である。
一つの場所で狩りを続ければ、
よっぽどのことがない限り、遭遇率は減る。

果たして、1次職ドッペルというのはどれだけの強さで、
どれだけの数がいるものなのだろうか。
うーんと悩んだポールに、
「遭遇率に関しては心配しなくていいよ。」
と、ノエルが言った。
「あいつら、何もなければ、
 どんどん分裂して数増えるから。」
そのくせ一定数に達すると、分裂をやめるらしい。
全く謎の多い存在だと、ノエルは肩をすくめた。
「強さに関してはまあ、行ってみれば分かるでしょ。」
「そうですねえ。」
そうこう言っている間に、
生体研究所内部へ直接つながった側の扉が開いた。
何かの薬品のにおいと、もうすぐ初夏に入るというのに、
冷たい空気が流れてくる。

早速、散歩にでも行くかのごとき足取りで、
マツリが先へ進み、「おい、突っ込むな。」と、
注意しながら、テッカがその後へ続いた。
足を引っ張らないように頑張らなければと、
真摯な顔をしたポールを、フェイヤーが笑った。
「まあ、新人さんには、
 ちょっと荷が重い相手なのは否定できないけど、
 イザとなれば僕らがいるし、
 滅多なことはないと思うよ。」
1次ドッペルの5体や6体、
まとめてきても、どうということはないう、
騎士最上職にふさわしい頼もしさに、
ポールが少し安心していると、
先へ進んだマツリが、通路の曲がり角でとまり、
振り向いた。

「じゃあ、逆にどんくらいきたら、
 やばいっすかね。」
ギルマスがすこし悩む。
「そうだなあ。
 怖いのはマジシャンの魔法だけど、
 1、2匹なら僕と鉄っちゃんで対処できるし、
 アチャのDSも祀ちゃんにニュマしてもらえばいいし、
 後は雑魚だからどうにでもなる、とすれば、
 マジ抜きなら一人3体持てるよね。
 3かける4で12。余裕を持って、10ぐらいまでなら、
 まとめてきても大丈夫じゃないかな。」
それ以上くると厳しくなっていくかなと、
フェイヤーの見通しに、ノエルも頷く。
「でも、ここは全体が広くて、
 小部屋が多いから、敵も分散してるし。」
B2Fは研究施設だけではなく、
休憩所、資料室も多く設置されているから、
研究所と言うより、どこかの大学みたいだという説明に、
ふんふんと、相づちを打ちながら、
ポールは辺りを見回した。

まだ、細い通路になっているが、
確かに研究所と言うよりは、高級住宅の廊下に似ている。
「隣の部屋にいたのが次々でてきて、
 連戦になることはよくあるけど、
 一度にまとめてはこないですよね。」
「だいたい一部屋ごとに5匹ぐらいいるのを、
 片づけて回る感じだねえ。」
それならば、最悪、後ろで大人しくしていれば、
何とかなりそうだ。
まずは、周りをよく見てと、己に言い聞かせる。
ポールが槍を握りしめ、
廊下と部屋を区切るように垂れ下がったカーテンを、
フェイヤーに続いてめくる。

「確かに今まではそうでしたけどね。」
どうでも良さそうな声が耳にはいると同時に、
さっと視界が開け、品のいい壁紙と、
高そうな装飾品がいくつか、
そしてテッカに押し留められている、
半透明の少年少女たちが目に入った。
愛刀をブンと、一振りして、マツリが言う。
「少なくとも、ここにゃ、
 ざっと30ぐらいいるようですぜ。」 
「うっそ。」
フェイヤーとノエルの同時つっこみが入った。
ここは生体研究所。
現存する、もっとも危険な場所の一つである。

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
secret (チェックを入れると管理人だけが読む事ができるコメントになります。)
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
10 2025/11 12
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
プロフィール
HN:
シプ
性別:
非公開
自己紹介:
適当6割、捏造3割。
残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。
オレンジリボン
子ども虐待防止「オレンジリボン運動」
最新コメント
[08/15 buiuuobcyx]
[08/15 hnwbgakpuo]
[08/14 fokfrfysmb]
[05/07 rzjcdujxck]
[09/17 JK]
アクセス解析
カウンター

Copyright © VN。 All Rights Reserved.
Material & Template by Inori  

忍者ブログ [PR]