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「もうやだ、帰る!!」
「今頃なに言ってんだ、馬鹿野郎!」
「テツさん、右からきてるきてる!」
生体研究所の中に、
ポールの悲鳴と、LK達の怒声が響いた。
現在把握されているなかで、
生体研究所が最も危険な狩り場であるのは有名だ。
だが、入場僅か3分でドッペルゲンガーの群に囲まれ、
乱戦状態にはいるとは、いったい誰が思っただろう。
「最近、数が増えたって話は聞いてたけど、
本当だね・・・っと!」
言いながら、フェイヤーが女商人の姿をした魔物を、
槍の先に引っかけて、文字通りぶん投げた。
ここ、生態研究所のみに生息する、
生体ドッペルゲンガーとは、
一般的に人の姿をしたエネルギーの固まりのことを指す。
セージの研究報告によると、
ゲフェンタワーの地下に生息するものとは違い、
意志がないので思念体とは言い難いそうだ。
B3Fには最上級職である三次職、
B2Fには一次職と言われる、
基礎基本の初級冒険者の姿をしたドッペルが出る。
一次職ドッペルは見た目こそポールと同じ、
二次転職こと専門職試験合格前だが、
その攻撃力は比べものにならない。
雪崩のようなシーフの攻撃は、
早いだけでなく毒をはらみ、確実に体力を削り、
遠距離からはアーチャー、
ポールの故郷のハンターに比べても遜色ない、
スピードと正確さで、弓矢が急所めがけて飛んでくる。
防御が間に合ったにも関わらず、
商人のカートレボリューションで吹き飛ばされ、
本来、攻撃力の低い支援職であるアコライトにも、
速度減少魔法でリズムを崩され、
鈍器の重たい一撃を受け、ポールは必死で身を守った。
特に恐ろしいのがマジシャンの雷魔法で、
一度、避け損なったノエルが文字通り、
スピア号ごと吹き飛ばされて、落馬ならぬ落鳥しかけた。
「ノエルさん!」
悲鳴に近い声を上げただけのポールと正反対に、
テッカが素早く反応して、マジシャンの首を落とし、
ノエルも崩れた体勢を瞬く間にたて直したので、
事なきを得たが、受けたダメージは少なくないだろう。
魔法の当たった右肩に白ポーションを振りかけていたが、
雷で熱せられた鎧に飛び散った滴が、
ジュッと嫌な音を立てたのが聞こえた。
それでもLK達は止まることはなく、
主が掴まったのを確認したペコペコも、
背後から近寄ってきた商人を蹴り飛ばし、
ためらうことなく前進する。
ただ一人、明らかに場違いすぎて、
立ち尽くしたポールは、
誰かにぐいっと、体を引き寄せられた。
「はいはい、危ないよ。」
耳元でフェイヤーの落ち着いた声がしたと思う暇もなく、
ポールの居た場所に火柱が落ちる。
「ヒッ?!」
「大丈夫、大丈夫。」
新米を後ろから引きずったまま、
ギルマスが掲げた右手に、金色の槍が現れた。
「スピアピアースッ!」
魔法力で作り上げられた光の槍がマジシャンを貫き、
自分より強いエネルギーをたたき込まれた魔物は、
一瞬揺らぎ、静かに消えていく。
「ほら、気を抜いてる暇なんかないよ。」
振り向くことも出来ないうちに、
背後からフェイヤーの気配が消え、
代わりにシーフが飛びかかってくる。
一応ギルマスは後ろから、見ていてくれるようだが、
基本は自分で何とかしろと言うことらしい。
少女の姿をした魔物の、
止まらない攻撃を受けながら、
ジョーカーと手合わせしたとき、
勿論、AXは手加減してくれていただろうが、
まだ楽だったと、ポールは思った。
その上、どこから狙っているのか、
弓矢が絶えず心臓めがけて飛んでくる。
連携を取った敵の恐ろしさはここまで酷いのかと、
絶望する隙もなく、ただ死にたくない一心で、
盾に身を隠し、防御に徹した。
そんな弱気の剣士が、
二次職をも打ち返すというドッペルゲンガーに、
太刀打ちできるはずもなく、
気がつけば、壁際に追いつめられていた。
逃げ場をなくしたことにポールが青くなると、
意志のないエネルギーだけの存在が笑うはずがないが、
シーフはあざけるように口端を歪め、
突然、強烈な蹴りを繰り出した。
予想外の攻撃を右足に受け、
あっさりと新米剣士は膝を折り、盾を落としてしまう。
「しまった!」
落とした盾を拾おうとした瞬間、
肩にぐさりと弓矢が刺さる。
更にシーフの蹴りが横っ腹にも飛んできて、
ポールは無様にも壁に叩きつけられた。
「止まるな、そのまま横に動けっ!」
叫んだのはテッカだろうか。
言われるがままに必死で転がると、
短剣が壁にぐさりと突き刺さった。
どれだけ深く刺さったのか、短剣はなかなか抜けず、
女盗賊の動きが止まった。
しかし、アーチャーまで手を休めることはなく、
守る盾のない腕に、足に次々と矢が刺さる。
「このままじゃ、死ぬ。」
本能的にそう感じたが、
それが何を意味するかも理解する余裕がない。
ただ、真っ白になった頭を抱えて、
ポールが意識を手放しかけたとき、
足下から蛍色に光る風が立ち上がった。
対遠距離防御魔法・ニューマ。
LKのスピアピアース、モンクの阿修羅ですら、
その軌道を変えてしまうという魔法の風が吹きすさび、
ポールを守った。
「何、ボンヤリしてるんすか!」
聞き慣れた怒鳴り声で我に返ると、
マツリがシーフを叩きのめしたところだった。
「助かっ・・・痛てえ!」
死にはしなかったが、
刺さった矢を次々引き抜かれ、死ぬほど痛い。
マツリは瞬く間に、全ての矢が引き抜き、
頭から白ポーションを浴びせ、
ポールの口に無理矢理緑色の葉っぱを押し込んだ。
「苦っ、なんですか、これ!」
「イグ葉ですよ!
四の五の言わねえで、飲み込みなさい!」
あまりの苦さに押し込まれたものを吐き出そうとして、
口を押さえられ、ポールは目を白黒させた。
何とか飲み込むも、舌がしびれて唾液もでない。
それでも、飲まされた葉のおかげか、
腹の中から暖かくなり、意識もはっきりする。
その間にも矢を浴びせ続けるアーチャーを、
ノエルが落とし、叫んだ。
「フェイさん、ちゃんとみててあげてよ!」
ギルマスが困ったように答える。
「ちゃんとみてたよ。フォローはしなかったけど。」
「そういうのは、面倒みるって言わねえ!」
即行で突っ込んだテッカの声にも余裕はない。
それでもLK達が壁になってくれたお陰で、
ポールの方に魔物が来なくなった。
その間に、新米は何とか立ち上がろうとしたが、
なぜか、体に力が入らない。
異変を訴えようと口を開けると、
今度は万能薬が押し込まれた。
「さっさと飲んで、立ちなせぇ!」
「ずみばぜんー」
「フェイさん、ちょっと多すぎる!
このままじゃまずいよ!」
怒鳴るマツリに半泣きのポール、
焦るノエルと異なり、フェイヤーは冷静さを崩さない。
「そうだね、確か次の角の先に階段があったはず。
そこへ避難しようか。」
押して押されて、動き回っているうちに、
ポールには何処から入ってきたのかすら、
分からなくなっていたが、
ギルマスはきちんと位置を把握しており、
食事をとる店を決めるかのように、
のんびりと進路方向を示した。
「ほら、さっさと行くぞ、お前等!」
すぐさまテッカが先頭に立ち、道を作る。
彼のボーリングバッシュで魔物が吹き飛んだ隙を狙い、
マツリに引きずられるようにして、ポールは進んだ。
その左右をノエルとフェイヤーが挟むようにして、
追いすがってくる敵を振り払う。
何とか、角をいくつか曲がると、
程なく、登り階段が見えた。
B1F入り口のドアをこじ開け、
なだれ込むように、ポールたちは上の階へ逃げた。
全員が中に入ったのを確認してから、
フェイヤーがドアを閉めると、
ドッペルゲンガー達はそれ以上追ってこなかった。
どう言うわけか、彼らはB1Fが嫌いらしい。
0ではないが、生息数は非常に少なく、
地下のドッペルが上の階へくることもないそうだ。
だが、代わりに別種の魔物が生息している。
階を変えても、危機が去ったわけではなく、
早速、進入者に気がついたモンスターたちが、
わらわらと集まってきた。
赤い消防服に背負式消火器、そしてガスマスクと、
どこかで見たような姿に、ポールは思わず指さす。
「うわっ、ひ、ヒゲさ・・・!」
マツリがポールを突き飛ばし、
誰よりも早く魔物の群に突っ込む。
やってきたのは、元消防隊といわれる不死者・リムーバ。
当然、「こんにちはー」等と、
挨拶を交わすつもりではない。
「ボーリングバッシュッ!」
細身の日本刀・華雅清水が、
リムーバの群を吹き飛ばせば、
その横から追撃に入ったテッカの刀も青白く光る。
「オーラブレイドッ」
魔力を送り込まれ、切れ味を増した出雲守が、
リムーバ3体の胴をまとめて切り落とした。
残った何体かも、
瞬く間にノエルとフェイヤーが始末する。
はねられた首の一つが、
ゴロゴロとポールの所にやってきて、
耐火帽の中から白骨化した頭蓋骨が転がり落ちた。
「ひーっ!」
声にならない叫び声をあげながら、
新米はそれを叩き潰した。
どんなに見慣れた姿であっても、
やはり不死者は動く死体であった。
もっとも、生首は生首でもっと怖いかもしれない。
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残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


