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「はいはい、離れて。」
言いながら、フェイヤーが魔法スクロールを広げた。
「ファイアーウォール。」
軽く込められた魔力と唱えられた呪文に反応して、
スクロールに刻まれた術式が発動する。
ゲフェンでも、ごく一部の店でしか扱っていないという、
魔法スクロールが炎の壁を作り、
それを見た魔物達は諦めたのか、少しずつ去っていった。
「やれやれ、これでひとまず大丈夫かな。」
ギルマスの安堵した声に、
メンバーは僅かに息をつき、
いつでも動けるようにしながらも、武器を降ろした。
一安心すると、
それまで押さえ込まれていた恐怖が一気に吹き出し、
体がブルブル震え、傷口がジクジクと痛む。
「死ぬかと、思った・・・」
「あはは、ちょっとキツかったけど、大丈夫。
このままいけるよ!」
「どこが!?」
体のそこから絞り出したようなポールの泣き声に、
フェイヤーがにこやかに答え、
ノエルが即行で否定した。
「だから言ったじゃないですか、
プリなしじゃキツいって!
だいたい、何、あの量!
増えたって言ったって、異常すぎるでしょ!!」
悲鳴とも、怒声とも取れる大声に、
息を乱しながらも、マツリがあっさりと答える。
「そっすか。 あたしゃ、楽しかったすけどね。」
「激しい狩りほど、血が騒ぐもんね。」
「どういう神経してるの、君ら。」
死にかけたにしてはのんきな黒髪コンビに、
冷淡に突っ込んだせいか、
いくらかトーンダウンしたが、ノエルは抗議を続けた。
「幾らLKだからって、支援なしであの数は無茶だって!
百歩譲っていけるとしても、
今日は俺らだけじゃないんですよ!」
新人は身を守ることもおぼつかない。
何かあったらどうするつもりだと当然の指摘に、
落ち着いてと、フェイヤーが宥める。
「大丈夫だって、僕がみてるから。」
「みてただけじゃないすかっ!」
テンポのいい突っ込みを、
30秒ほどの沈黙が肯定した。
参ったなあと、あくまでのんきに頭をかいたギルマス、
何処吹く風のマツリ、
無言のテッカを一瞥すると、
うんざりしたようにノエルは吐き捨てた。
「これで、ガイルがきたら、
どうしようもないじゃないか。」
エルメス・ガイル。
アサシンクロスのドッペルゲンガーは、姿の通り、
生身のAXに勝るとも劣らぬ、隠密術を使用する。
彼に狙われたものは、襲われたことはおろか、
死んだことにすら気がつかないまま、
あの世をさまようと言う。
三次職ドッペルは、只でさえ十分に準備したPTを、
壊滅させることもあるというのに、
各自手一杯の時に、音もなく襲われれば、
どんな惨事が引き起こるか、想像に難くない。
気まずい雰囲気の中、
ポールは己の無力さを痛感していた。
見ていただけとは酷評されたが、
フェイヤーが気を配ってくれていたのは事実であるし、
いよいよ危なくなれば、ノエルかマツリが間に入って、
敵を倒してくれてもいた。
何より、魔物達の大半はテッカが押さえ、
アーチャーの遠距離攻撃は差し置いて、
ポールのところに直接こぼれてくる敵は、
1体を越すことはなかったのだ。
それでも、この体たらくである。
「何も、できなかった。」
たった1体のドッペルにすら対応できなかったことは、
彼の剣士としての自信を、根本から叩き折っていた。
やっぱり、自分には無理なのだろうか。
おとなしく槍を捨てて、家へ帰るべきなのだろうか。
傷口は確かにジクジクと痛んだが、
それ以上に心が痛い。
「で、どうする?
リベンジする? それとも帰る?」
ギルマスの問いに、
それまで沈黙を保っていたテッカが即答する。
「俺はもう一度行くぞ。」
予想以上の数に不意をつかれたとはいえ、
このまま、逃げ帰るわけにはいかないと、
黒髪の騎士が言い切ると、
当然だと、部下も刀を持ち直す。
「Gvなら、あれ以上の相手をすることだって、
ありますかんな。」
天津組の意見にうなずくと、
フェイヤーはポールを振り返った。
「ポール君はどうする?」
ギルマスは口にしなかったが、
先に帰る以外の選択肢が、
ポールにはないのは明らかだった。
居ても役には立たないどころか、足手まといでしかない。
そもそも2次転職すら終わっていない新米剣士には、
レベル違いな場所なのだ。
そもそも話の流れでこうなったものの、
ポールの腕を見るなら、
もっと相応の相手を選ぶべきであるし、
予想以上の敵の存在が判明した今は、尚更である。
「俺は・・・」
これ以上、ここにいる意味はない。
そうは思っても、
それを認めてしまうのが悔しいのだか、
己の無力さが悲しいのだか分からないまま、
返事をできずにいると、
耳を疑うべき言葉が飛び込んできた。
「いきますな?」
「はぁ?!」
鳩が豆鉄砲を食らったような声をノエルが出し、
フェイヤーも「おや」と、意外そうな顔をした。
ポールの代わりに返事をしたのは、
他でもないマツリであった。
「マツリさん?」
折角、ギルドに招いてやったのに、
早速リタイヤするのは許さないと言う意味だろうか?
罪悪感が胸を締め付けるような思いで、
ポールが顔を上げると、
いつもの通り、どうでも良さそうに、
ポールを見返すマツリの目があった。
目があっても、二、三度瞬きしただけで、
何の感情も読みとれない。
「ちょっと、何考えてんのよ!」
代わりにノエルが怒鳴った。
「まさか、
殺すために連れてきたわけじゃないでしょ!?」
身を守ることも出来ない新人に何をさせる気だと、
噛みつくギルメンを、
お前こそ何を期待してるんだと、マツリは鼻で笑った。
「元々、剣士にドッペルゲンガーが倒せると、
思っていたわけでもねえでしょう。」
レベル違いを堂々と認められ、ノエルが返答に詰まる。
ポールが役に立たないのは端から承知の上だと、
マツリは言った。
「だからって、諦めんのは気が早えんじゃねえですかい。
それに、十分とは言えませんが、
そこそこ防御出来てんじゃないすか。」
盾を落としさえしなければ、
もう少し耐えられたはずだとも言われ、
ポールは目を丸くした。
敵を倒さずとも、
耐えることしか出来なくても良いと言われるとは、
思ってもいなかった。
「耐えるだけでも、時間は稼げるわけだし、
その間に僕らが動ければ、十分だよね。」
対多数の時ほど、
敵の手数を減らすことが重要になる。
うんうんと、どこか嬉しそうにフェイヤーが頷き、
マツリが続ける。
「大体、レベルが足んねえの、
面子が揃ってねえのと仰いますが、
もし、町中に魔物が攻め込んできたら、
襲われんのは、戦える者だけじゃありませんぜ。
常にプリが居るとも限らねぇでしょう。」
ここ十数年、
魔物の群が首都プロンティアを襲撃した事はおろか、
一匹のポリンすら、城門を潜ったことはない。
しかし、何時、何が起こるか分かったものではないし、
いざ、事が起こった時に、
準備ができてませんで済むほど、世の中は甘くない。
公式冒険者・レンジャーの規定には、
狩りのルールや施設の使用注意だけでなく、
有事における、町の警備への協力も記述されている。
そもそも、法に縛られるのを嫌うローグや、
戦闘の苦手なアルケミストならばいざ知らず、
ナイトは前衛職としても、その基本精神としても、
戦闘経験のない一般市民をも守りきる盾となれなければ、そう名乗る資格がない。
まして、不利な状況を補うことが出来ないのであれば、
最高職の一つ・ロードナイトである意味もない。
「それ位、俺らがフォローして当然、か。」
テッカが部下の意図を読むと、
弱々しく、ノエルが反論する。
「・・・だからって、ちょっとスパルタすぎるでしょう。」
決して、納得してはいないのだろうが、
場の流れはマツリにあり、
それを覆すほど、彼は鞭撻ではなかった。
「こんな無理して、一緒に狩る意味なんかないんだよ?」
不安げな視線をポールに向けるが、
新米は、意を決したように手を挙げて宣言した。
「俺、行きます!」
それをわざわざマツリがノエルに伝える。
「ですって。」
「うわー
一人だけ反対した俺、格好悪いー」
新米を庇い、メンバーの無茶を諫めたはずが、
これではただの臆病者である。
ここでも常識者は損をするらしい。
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残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


