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V(ヴァカみたいにどうでも良いこと)を、 N(ねちねち)と書いてみる。 根本的にヴァイオリンとは無関係です。
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シュバルツバルト共和国の中で
企業都市・リヒタルゼンは、
首都・ジュノーを抜き、最も栄えているとされる。
電工技術の中でも、特に製作管理が難しいとされる、
魔導コンピューターの研究では最先端を走るだけでなく、
薬学や生物学など、人体や生命の研究も盛んであり、
アルケミストのホムンクルス技法が開発されたのも、この街だ。
見た目も動作も、人と変わらない機械人間の実用化も、
間近だと言われる。
これらの技術に大きく貢献したとされるのが、
リヒタルゼンの誇る大企業レッケンベル社であり、
その巨大な本社が街の北西部にそびえ立っている。

数多くのアルケミストを抱え、
日々膨大な研究を積み重ねているだけでなく、
セージによる古代技術の解明、
ブラックスミスによる新しい武器の研究や、
物資の運搬から調達まで、
幅広く活動している大手ではあるが、
その裏でまことしやかに囁かれる、きな臭い噂も多い。

現在、各国の政府により、
第一級危険地域に認定されている箇所はいくつかあるが、
その中に、ポールたちがこれから赴く生体研究所と、
アルデバランとジュノーの中間地点に存在する、機械工場がある。
この二カ所は、元々レッケンベル社所有の施設であった。
そのなかに生息するドッペルゲンガーたちや、
人を襲うことで問題となっているロボットなどは、
レッケンベル社が秘密理に行った、
倫理に背く実験によって作成され、
その失敗により、暴走したものだと言われていた。

当然、国内外で問題となり、
共和国政府による干渉があったが、
国勢を左右する大手企業には、
政府も対応を考慮せざるを得なかったこと、
各施設におけるロボットの暴走、魔物の氾濫が、
レッケンベル社に原因があるものと言う、
確固たる証拠がなかったこと、
内部に溢れた魔物たちの完全封鎖に、
社が成功したことなどが重なって、
厳重注意と、一定額の罰金にとどまったという。
政府と企業の攻防は水面下において、
未だ続いているとされるが、
現在のところ、レッケンベル社が優勢である。
事件時、社の責任を追及しきれず、
支配権を握る決定打を逃した政府は、
厳しい立場に置かれているようだ。

共和国の事情はともあれ、
魔物たちの氾濫が、何によるものであろうと、
生体研究所が危険な地区であることに代わりはない。
研究所を占拠している人工ドッペルゲンガーたちは、
見た目こそ、どこにでもいそうな一次職の少年・少女であるが、
その強さは一般的二次職の冒険者に匹敵する。
最下階に生息する三次職のドッペルゲンガーにおいては、
冒険者の三次職で形成されたPTをたった一体で、
文字道理、壊滅させることもある。
「そんな、危険な場所に、赴いちゃうんですね。」
「赴いちゃいますよ。」
「見納めかもしんねえから、周りの景色、
 よく見ておきなせぇ。」
「縁起でもないこと言わないでください!」
目的の割に、緊迫感にかける会話を繰り広げながら、
ポールたちは研究所の入り口にたどり着いた。
フェイヤーが入場手続きをしてくれるのを待ちながら、
ポールはリヒタルゼンの町並みを眺めた。
研究所の入り口は少し、小高い丘に設置されているので、
街の全体がよく見える。

丘に沿うように、北から南まで長い塀がしかれ、
街が分割されている。
中央の検問所を通らなければ出入りができない仕組みだ。
壁を隔てた丘の下に当たる西側には、
巨大なレッケンベル本社はもちろん、
贅を尽くした広い庭の高級住宅地、
門構えの立派なホテルに、
扱っているものはないと言われるデパートと、
近代的な建物が美しく並んでいる。
木や煉瓦で作られたプロンティアの建物とは少し違い、
なんだか余所余所しい。
金属的な感じがするのは、木材の代わりに鉄の柱を、
支柱にしていると聞いたせいだろうか。

ホテルやデパートの他にも、
プロンティアではみられない、背の高い建物が多い。
材質の違いはここにも出ているのだろうかと、
ポールは一人うなずいて、
あんまり好きじゃないなと、結論づけた。
もちろん、高層ビルに興味はあるし、
デパートには是非、入ってみたいのだが、
森の奥で育った彼には、木の匂いのしない町並みは、
なんだか、落ち着かないのだ。
それに、と思う。
丘の上に当たる東側、
現在ポールのいる生体研究所入り口はもちろん、
レッケンベル社において、厳重に管理されているが、
それ以外の建物、移住区や酒場、食料品店、教会など、
どれもが、西側には及びもつかない、
古く荒れたものばかりなのだ。
すれ違った人々も、どこか荒んでみえ、
知識でしか知らないスラム街とは、
こういうものではないのかと、思わせた。
「どうして、同じ街なのに、こんなにも違うんだろう。」
ポールには不思議でならない。

彼が育ったフェイヨンはどの村でも同じ、
悪くいえば代わり映えのしない生活を送っている。
災害や魔物の襲来などで、どこかの村が危機に陥れば、
すぐさま、ほかの村が救済に向かうし、
逆に獲物が多く取れれば、近辺に配り、
お互いが助け合って生きてきた。
村同士の交流地となっているフェイヨン中心部は別だが、
どの村が、人一倍大きいことも、小さいこともない。
なぜ、この街では東西でこんなに違うのろう。
純粋といえば余りに純粋な疑問に、
ポールが首を傾げていると、ノエルが肩をたたいた。
「なに、ぼーっとしてるの。
 まさか本当に、見納めだと、
 思ってるんじゃないだろうね。」
何時でもこれる、なんなら、
今度観光にきてもいいとLKは笑ったが、
ポールは首を振った。
「いえ、なんでこんなに西と東で、
 建物や、雰囲気が違うのかなって思いまして。」
「ああねー」
新米のまっすぐな疑問にどう答えたものかと、
ノエルは頭をかいた。

「要は、”働かざるもの食うべからず”が、
 元だってことなんだけど。」
リヒタルゼンだけに関わらず、
シュバルツガルド共和国は植物が少なく、
砂漠や、岩がむき出しとなった山岳地帯が多い。
当然、農作業に不向きの地形が多く、
荒れた土では収穫物も少ない。
幸い、金属など鉱物資源は豊富だが、
鉱山での採掘作業はきつい肉体労働に、
落盤、じん肺の発病など危険が伴う。
石と鉄の建物が守った古代の遺産も、
解読し、活用するには、膨大な知識とたゆまぬ研究努力がいる。
そんな過酷な環境の中で、
人々は必死で生活してきたわけだが、
すべての人間がそれに耐えうるわけではない。
働くことを諦め、酒や薬物に逃避するもの、
私欲に走り、窃盗に手を染めるものがでる。
犯罪者はどこの国でも手に余るのに、
皆苦しい生活を送っていればこそ、社会的負担も大きい。
シュバルツガルドの治安維持に対する高い意識は、
ここからくるとされるが、
リヒタルゼンでは特に、それが強い。
落伍者のレッテルを貼られたものに向けられた、
厳しい目が、自然と住む場所も分けた。
そうして出来たのが東側の街であり、
当然、西側の人々が快く思っているはずがない。
商業や工業が発達して街が豊かになった後も、
その確執は続き、生体研究所の事故を理由に、
垣根まで作られてしまった。
今でも、東側に生まれたものが西側で仕事を持つことは、
非常に困難だとされる。

「でも、それってちょっと酷くないですか!」
ノエルの説明を聞いて、ポールは非難の声を上げた。
過去がどうあれ、豊かになった現代まで、
差別を続けることはないじゃないか。
憤った彼を、ノエルが宥めるより早く、
マツリが横から口を挟んだ。
「働くことから逃げた怠け者やその子孫に、
 自分たちが苦労し、これからも努力をつぎ込む仕事が、
 勤まるわけがねえ。」
どうでも良さそうな口振りはいつも通りなのだが、
どこか嘲りを含んでいる要に聞こえたのは、
内容のせいだろう。
「自分たちの仕事や、築いてきたものへの誇りと自負が、
 そうさせんでしょうかね。」
血のにじむ努力を経て獲得したものを、
横から簡単にかっさわれては堪らない。
その気持ちは分かると、
マツリはやっぱり、どうでも良さそうに言った。

「でも、今と昔は違うじゃないですか。」
皆で協力する事は出来ないのかと、
納得のいかないポールをみて、
今度はテッカが口を開いた。
「格差があった方が、
 都合がいいって言う連中もいるんだよ。」
「どういうことですか?」
まだ、世間知らずの少年には思いもつかない言葉に、
ポールは目を丸くして聞いた。
「誰だって、好き好んで荒れた生活はしたかねえ。
 そこから抜け出す為なら、
 ちょっとぐらい危険な橋を渡ったり、
 汚ねえ仕事だってかまわないって奴がでてくんだろ。」
誰かが面倒事を押しつけるのに、うってつけである。
しかも、相手が貧しいとあれば、対価も安く済む。
「いがみ合ってりゃ、
 壁の反対側でどんな酷でぇことが起ころうと、
 気にもしなくなるしな。
 手前らの懐が痛む可能性をおかして格差をなくすよか、
 むしろ率先して、
 揉めてほしいって思う奴が居ても、おかしかねえ。」
「そんな酷い話って・・・」
言葉を失ったポールに、
テッカはさらに現実を突きつけた。
「特にここじゃ、そういうことを考えそうな企業が、
 幅を利かせてるからな。」
呆然として、ポールは西側にそびえ立つレッケンベルの、
大きな本社を眺めた。
光を反射してきらびやかに輝く白い壁が、
かえって禍々しく感じられる。
ただ、うなずくだけだった”きな臭い噂”が、
にわかに現実味を帯び、背筋が寒くなった。

「でもさあ、そんなに悪いことばかりじゃないよ。」
すっかりイメージの悪くなってしまったリヒタルゼンを、
ノエルがフォローする。
「去年流行った新型ウィルス、K51だっけ?
 あれの特効薬を短期間で作成して、
 安価で販売したのだって、レッケンベルだろ。」
おかげで子供たちがずいぶん助かったはずだとの言葉に、
テッカとマツリも黙ってうなずく。
「それだって、沢山の研究者や、
 大量生産できる設備があるからこそ出来たことだしさ。
 タナトスの塔みたいな、
 他が触らない危険な場所の調査も、率先してやってる。
 働いてる人だって、いろんな人が居るだろうし、
 全部ダメだってことじゃないと思うよ。」
「まあ、そうでしょうな。」
「可もあり、不可もあり、か。世の常だな。」
よくある話と、大人な天津二人組は、
あっさりと流したが、
子供な上に、世間知らずのポールは、
そう素直な態度はとれなかった。

ふてくされたように、黙り込んだ新米を心配して、
ノエルがもう一つ、明るい話題を提供する。
「それに、今、東西の若者同士が手を組んで、
 壁をなくそうって運動が盛んになってるじゃない。」
少人数ながらデモストレーション活動が行われたり、
政府への嘆願書が提出されたと、新聞で読んだと言うと、
マツリも、それは見たとうなずいた。
「確か、壁に隔てられた幼なじみの片方が、
 何者かに殺されたんが、
 きっかけになったんでしたっけ。」
一年ほど前、リヒタルゼンの高級ホテルで
西側の御曹司が殺害された。
物取りでもなければ、怨恨の線もなく、
警察関係者は、皆首を傾げたという。
ただ、被害者が死の直前、
「東の知り合いに会いに行く」と、
怒鳴っているのを聞いた者が数名おり、
東側との接触を好まない誰かがやったのだと、
この街を知るだれもが推測した。
犯人としては下手な仲良しごっこは命取りと、
警告のつもりだったようだが、逆に市民の反感を買い、
最終的に壁反対運動に発展してしまった。
口にする者はいなくとも、
思いえがく黒幕は同じだったのだろう。
リヒタルゼン市民のレッケンベルへの不信は、
少なくないようだ。

「藪をつついて、蛇を出したってとこか。」
抑圧された市民感情というのは、
どこで爆発するかわからないと、
テッカがあきれ顔で首を振った。
「だからさ、もう少しすればきっと色々よくなるって。」
ポールを励ますと言うよりも、性格なのだろう。
ノエルの見通しは少々楽観的すぎるといえたが、
何の希望もないよりはいいと、ポールは思う。
「そうなんですかねえ。」
ノエルの言葉を信じて、
ポールが己を納得させようとしたそばから、
だがしかし、と、早速邪魔が入った。
「とはいっても、ジュノーの学生が騒いだのが、
 元だって話ですかんね。
 どれだけリヒタルゼンに根付いたものだか、
 わかりゃしませんわ。」
マツリが活動の信憑性自体を疑問視する。
また、そうやって暗い方向に話を持っていくと、
ノエルが反発しようとしたところで、
ポールが首を傾げた。
「なんで、リヒの問題に、
 ジュノーの学生が文句を言うんです?」
新米の疑問にLK三人は顔を見合わせ、
誰が説明するかを視線で話し合う。

「被害者の幼なじみがジュノーにいたって言うのも、
 あるみたいだけどね。」
少しの沈黙の後、
最初に説明してくれたのは、やはりノエルだった。
「共和国政府が下手を打ったから、
 今でこそ大人しいけど、
 元々ジュノーとリヒタルゼンは政治的に対立してるし、
 ”学問を志す全ての者に門を開ける”がモットーの、
 ジュノー・セージ連合は、完全実力主義な分、
 出身による差別を激しく嫌ってるんだ。」
「口を出すのに、ちょうどいい理由が向こうから、
 舞い込んできたってところですな。」
本来学者であるセージが政治的問題に口を出すことは、
ほぼないが、そのポリシーに関わるとなれば、
チャンスに黙っているほど大人しくないと、
マツリが補足する。

「やっぱり、ちゃん考えてる人がいるんですね。」
シュバルツガルドの政府があるジュノーが、
リヒタルゼンの状況をよく思っていないのなら、
きっと何とかするだろうと、ポールは安心した。
それだけじゃないと、テッカも口を開く。
「アルデバランも後ろめたい話題は、
 他国との交易に差し支えると苦ぇ顔してるし、
 アインブロッグはリヒタルゼンに富の集中を招いた、
 レッケンベルへ反感をもってる。
 政治的発言力はほとんどねえが、
 フィゲルも過去より現在を重視する風潮が強いからな。
 心情だけなら、リヒは四面楚歌に等しいだろうよ。」
けどよ。と、ギルドの要は渋い顔をゆるめない。
「逆に言やあ、それに対立するだけの力が、
 レッケンベルにゃあ、あるってことだ。
 それにこう言うのは結局、
 住んでる奴ら自身が動かねえと、意味がねえからな。」
強大な組織を崩すには、時間と力が必要であり、
マツリの言う通り、
黒幕にジュノーがいるから動いている程度では、
然したる変化は望めないと言われ、
再び、ポールはしょんぼりと気落ちしてしまう。
その弱気を退けるかのに、背後から、
静かに、しかし確信を持った深い声が、
新米の背中をたたいた。
「どちらにしろ、不当な統治は長く続かないよ。」

声に反応して、LKたちも顔を上げる。
「遅かったじゃねえすか。」
待ってましたと、マツリが立ち上がった。
「ごめんごめん。
 ポール君が入ったばかりだから、
 ギルド入会の手続きが伝わってなかったらしくて、
 手間取っちゃった。」
にこやかに謝りながら、
フェイヤーがシール式の入場許可証をメンバーに配った。
人間とモンスターを識別しやすいようにと、
通常より派手で大きなそれを、各自腕に巻き付ける。
「フェイさん、スピアの分は?」
「ごめん、忘れちゃった。」
「ちょ、俺ら、一応全員騎士なんですけど!」
愛鳥のラベルを取りに、ノエルが走ったのを見送りながら、
ポールは早速質問の続きにはいった。
「どうして、長く続かないって分かるんですか?」
はっきりと言い切ったギルマスの発言に、
何か裏があるような気がしたからだが、
帰ってきた返事は、
彼が望んでいたようなものではなかった。

「だって、それが人の世の流れだからね。」
気休めにしかならない答えに、
ポールが少し拍子抜けした顔をするのを見て、
笑いながら、フェイヤーはいった。
「どんなに長く続いた国でも800年程度、
 まして、今みたいに情報が発達してると、
 何か問題があれば、すぐに外に漏れるから、
 人々が団結しやすい分、崩れるのも早いよ。
 一部の地域を黙らせることができても、
 全体となると不可能に等しいしね。
 どんな良政を敷いたって、
 不満は後からこぼれるものなのに、
 はっきりした不満があれば、なおさらだよ。」
民衆というのは、どんな時代でも、
大人しく権力者の言うがままになるものではないと、
フェイヤーはこともなげに言った。
もっとも、天津の人は別かもしれないねと、
笑いながら付け加えたので、
テッカが何ともいいがたいような顔をし、
マツリはそっぽを向いた。

800年も続けば十分だと思いながら、
ポールは重ねて聞く。
「何で天津の人は、別なんですか?」
「あそこはなによりも、調和を重んじる国だからね。」
 よく言えば平和主義、悪く言えば慣習に流されやすい。
 周りに同調する傾向が強いから、
 場を乱すような変化を嫌う傾向が強いんだ。」
だから、他では暴動を通り越して、
テロが起きそうなぎりぎりまで追いつめられないと、
なかなか動かないと、フェイヤーは言う。
その上、テロ自体が流行になってしまえば、
皆、揃って動くだろうけどもと、怖いことを付け加えた。
テロって、流行でするものだろうかと、
ポールは呆れてしまう。

「それなのに、いや、だからこそなのか、
 いろんなものを取り込んで、
 自分のものにしちゃう柔軟性もあるし、
 まあ、変わったところだよ、あそこは。」
仏教徒が甘茶を巻き、おはぎを食べながら、
クリスマスやハロウィンを楽しむ国は、
あそこぐらいだったろうと笑うギルマスに、
仏教徒とは何か、どうしてクリスマスがダメなのかを、
ポールは訪ねる。
「今の時代はほとんどの人が、
 オーディンを主神とする海神教だけど、
 一昔前は、別の宗教がメインだったからね。」
以前は海神教のほかにも、
たくさんの信者をもった宗教があったのだという。
「長い歴史の中で、クリスマスやハロウィンも、
 海神教に取り込まれちゃったけど、
 元々はキリスト教って言う、
 別の宗教のお祭りだったんだよ。」
「そうなんですかー」
そんな名前の神様は聞いたことがないと、
目をぱちくりさせる新米に、
以前は三大宗教と言われるほど、
大きなものだったのだがと、フェイヤーは苦笑する。
「まあ、だから、普通は仏教国では、
 あんまりやらないお祭りだったんだけど・・・」
どう言えば、分かりやすいか、
悩んだギルマスに、テッカが横から助け船を出す。
「プロンティアでフレイヤメインの、
 大がかりなお祭りをやる感じじゃねえか?」
「あー そうそう、そんな感じ。」

ポールたちの信仰する海神教には、
幾柱もの神がいる。
そのなかの豊穣神・フレイ、フレイヤの兄妹神は、
主神であり、アース神族の長であるオーディンと、
同じほどの力を持つと言われてはいるが、
海の向こうから訪れたヴァン神族という、
異海の神であった。
歌の神でもあるフレイはバード、
フレイヤはオーディンに匹敵する魔術の使い手として、
ウィザードの信仰を集めている。
しかし、純粋なオーディンの一族である鬼神トールや、
戦神ティール、光の神バルドルに比べると、
どうしても威光が弱い。
また、一般市民のほとんどは、
やはり主神オーディンを信仰しているため、
魔術都市ゲフェンやバードの聖地コモド以外の町で、
兄妹神の名を聞くことはない。
最近、シュバルツガルド共和国の取りなしで、
国交を結び始めたアナベルツ皇国では、
フレイヤが主神として扱われているが、
もし、プロンティアで、
彼女を主とするお祭りを催しても、
人々の反応は鈍いものだろう。
悪くすると、非難されるかもしれない。

「余所の国の神様のお祭りまでやるなんて、
 よっぽど信仰心があついか、
 無神経かの、どっちかですよね。」
「悪かったな、無神経で。」
悪意はないとは言え、
自分の感想がテッカを憮然とさせたのに気がつき、
ポールは首をすくめ、
フェイヤーの背中に隠れようとしたが、
笑って避けられた。
「でも、いいところだよ。
 食事はおいしいし、人は優しいし。」
「優しいって言うか、もめ事嫌って、
 表面を取り繕うだけじゃねえすかね。」
「そういう一面がないとは言わないけど。」
話すそばから、毒つくマツリを片手でなだめ、
懐かしそうにフェイヤーは目を細めた。
「だけど、本当にいいところだよ、あそこは。
 特に春の桜が綺麗でねえ。
 できるなら、また、もう一度行きたいなあ。」
しみじみと語るギルマスに、
ほえーと気の抜けた相づちを打ちながら、
遠い東国の花にポールが思いを馳せたところで、
テッカが現実に引き戻す。
「いつまでぼんやりしてるつもりだ。
 ノエルが戻り次第、とっとと行くぞ。
 気を引き締め直せ。」
「う、そうでした。」
これから、名実共に最も危険な狩り場へ、
足を踏み入れるのだ。
戻ってきた緊張感で、
ポールが吐きそうになったのと同時に、
ノエルが戻ってくる。
「ごめんー 遅くなっちゃって。」
「いえいえ、もっと遅くてもよかったですよ。
 できれば、このまま戻ってこなくても。」
「え、何でこんな短期間に、俺嫌われてるの。」
新米の素直な感想は激しく誤解を生んだ。
全く、口は災いの元だ。


 

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