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果たして、ポールの運命は前途多難であった。
まず、本来なら仲介者として、
ギルドメンバーに紹介するべきマツリが、
用事があるとかで、その職務を放棄した。
おかげで、ポールはたった一人、
ギルドの溜まり場となっている簡易集合住宅に、
挨拶に行く羽目になった。
面接など、形ばかりのもの。
すげなく追い返されることはないから、
安心しろとは言われたが、
一人で知らない人、
ましてや、熟練の冒険者達の溜まり場に行くのは、
非常に勇気が必要だった。
ドアの前で、何度も住所を確かめる。
「ここで、大丈夫だよね。」
十三回目の確認を終えて、
ポールは遂に意を決した。
これから、身の程知らずにもGvに挑戦しようと言うのに、
高々、知らない人の溜まり場を訪ねるだけで、
臆していては話にならないではないか。
「大丈夫、マツリさんが話してくれてるから大丈夫。」
自分に言い聞かせながら、ふるえる指で呼び鈴を押す。
ブーッと色気のない音が、部屋の中で響いた。
程なくして、「はーい。」と、言う返事と、
人が動く音がして、
ドアノブの鍵がガチャガチャと鳴る。
出てきたのは、金髪碧眼のハイプリースト。
身長はヒゲとジョーカーの中間ぐらいで、
年も似たようなものだろう。
色白な細面には、気の強さが全面に出ていて、
支援職だと甘くみると、痛い目に遭わされそうだ。
早速、気後れしそうなポールを、
ジロジロと遠慮なく見るアイスブルーの瞳が冷たい。
「あの・・・」
マツリの紹介できたのだがと、
ポールが用件を告げるより早く、
ハイプリは口端を歪めて、言い放った。
「チェンジ。」
そしてバタンと、目の前で扉が閉められる。
「ちょ、」
あまりの扱いに、一瞬固まったものの、
慌ててポールはドアを叩いた。
「ちょっと、待ってくださいよ!!」
「違うでしょ、ユッシン!!!」
この扱いは何だと、慌てるポールと同じくらい、
焦った男の叫び声が響く。
ドタドタと、物にぶつかる音がして、
今度は黒髪のロードナイトがドアを開けてくれる。
「御免ね、吃驚させちゃって、御免ね。
ユッシン、謝んなさい!」
ポールに謝ると同時にハイプリを叱ったLKは、
一回りほど年上で、ギルマスらしいが、
ユッシンと呼ばれたハイプリは、全く敬意を表さず、
ふてくされた様に言った。
「剣士なんか、使えねーよ。
転職してから、出直してこい!」
「一次の子だって言うのは、
最初から分かってたことでしょ!
それでも居ないよりはマシって、
真っ先に賛成しておいて、今更、何言ってるの!」
やっぱり、自分がやろうとしているのは、
よっぽど異例なんだなと、ポールは納得したのだが、
LKは口が滑ったと思ったらしく、
「御免ね、
別に剣士が悪いって言う訳じゃないんだけど。」
と、改めて謝った。
それでもハイプリは態度を改めず、尚も言う。
「だって、マツリちゃんの紹介だから、
もっとしっかりしてるかと思ったら、
ヒョロヒョロじゃん。
大体、騎士志望なんだろ。
うちは騎士は余ってるんだよ。
クルセイダー志望なら、話は違ったのに。」
ここまで言って、ふと、気がついたように、
ハイプリは叫んだ。
「そうだ、今からでも遅くないから、
クルセになれよ!」
「勝手な事、言うんじゃありません!!」
遭ったばかりの他人の将来を、
自分の都合で決めようとする強引さと適当さは、
どこかで、見たような気がするなと、
他人事のようにポールは思う。
しかし、ポールがどう思おうと、
ギルマスとしてはメンバーの横暴すぎる発言を、
黙って見過ごすわけにはいかない。
「それに、いくら気に入らないからって、
チェンジってなんだい。失礼でしょ!
デリヘル嬢呼んでるんじゃないんだよ!」
LKはほとほと困ったようにハイプリを叱ったが、
真顔で返された。
「御免、うち、そういうのやったことないから、
わかんないや。」
「あ、俺もー」
「ちょ、君たち! 知ってるのに知らない振りしない!」
変なところをつっこまれた上に、
ポールまで追従したので、LKがさらに慌てるが、
ハイプリはペースを崩さない。
「判ってるよ、フェイさん・・・
長い間独り身で居ると、
大人の男には、色々あるって事ぐらい。」
「ちょっと! 人聞きの悪いこと言わないでよ!!」
割と必死に、LKが訂正する。
「違うって、僕はそんなの呼んだこと、えっと、
うん、ないよ、ないない!
過去にそういうのが好きだった人と、
知り合いだったぐらいだって!」
「無理すんなよ。」
「してないし! そんなに困ってないし!
大体、その気なら飲み屋で適当にやれば、
結構何とかなるもんでしょ!」
ポールがいるというのに、
話がだんだんおかしくなってきた。
ドスコイとよく似た流れとはいえ、
完全に男所帯なせいか、幾分生々しい。
慣れた雰囲気に忘れかけたが、
自己紹介はいつ出来るのか、
そもそも受け入れてもらえるのかと、
ポールが不安になり始めた頃に、
二階にから、LKの二人組が降りてきた。
「何の騒ぎだ、やかましい。」
「いったい、どうしたのよ。」
双方、身長175cmを越えたぐらいで、
眼孔鋭い黒髪の方が、少し年上だろうか。
ギルマスのLKほどではないが、
ポールやハイプリに比べると、
経験を積んだ、落ち着いた大人の雰囲気がする。
おそらくクレイと同じか、もう少し上だろう。
それに比べると、もう一人はまだ若い。
彼のマカボニーブラウンの長髪には、見覚えがあった。
「ノエルさん!」
「やあ、やっぱり君か。」
予期せぬ知った顔にポールが顔を綻ばせると、
LKの方も苦笑して返した。
「マツリちゃんが剣士を連れてくるって言うから、
もしかしたらとは思っていたけど。」
よく考えれば、如何にプロンティアが広くとも、
アコライト出身のLKなぞ、マツリの他に居ない。
あの時の的確なアドバイスは、
心当たりがあったからかと、ポールが納得する横で、
流れが変わり、ほっとしたらしいギルマスも、
話に乗ってくる。
「なんだい、ノエル君とも知り合いかい?」
「ええ、バイト先でちょっと。
この子なら、俺も歓迎しますよ。」
転職後も剣士ギルドにきて、
熱心に勉強する真面目な者など、そうは居ないと、
ノエルがギルマスに進言し、
ようやく諦めたのか、ハイプリも「チェッ」と、
舌打ちはしたものの、文句を言うのをやめた。
ようやく、受け入れ準備が整い、
改めて、ギルマスがポールに向き直った。
「騒がせちゃって御免ね。
祀ちゃんから、話は聞いてるよ。
Gvに出たいんだってね。」
若いのに向上心が高いのはいいことだよと、
にこやかに笑う。
「挨拶が遅れちゃったけど、
僕がZZHことZekeZeroHampのギルドマスター
フェイヤー・ヤンです。よろしくね。」
「ポール・スミスです。よろしくお願いします。」
ようやく自己紹介が始まり、慌ててポールも頭を下げる。
そんなに硬くならないでと、ギルマスは微笑んだ。
東邦の生まれを意味する艶やかな黒髪と、
焦げ茶色の優しげな瞳が、
穏やかな雰囲気を醸し出しているが、隙がない。
「みんな、ヤンとか、フェイとか、
好きなように呼んでるから、
君も、呼びやすいようにしてくれていいよ。
それで、こっちのハイプリがうちの唯一の支援職で、
サブマスターのユッシ・ルンベルク、
こっちの黒髪がテッカ・リンドウ、
最後が、もう知ってるみたいだけど、
ノエル・ラングフォード、
それに祀ちゃんを合わせて、全部で5人。
以上がうちのメンバーになるから。」
Gvギルドとしては少ないけどと、
困ったようにフェイヤーは笑う。
その紹介によろしくなと、
軽く右手を挙げて答えたのはノエルだけ。
ユッシの方はちらりと目をくれただけで、
すぐそっぽを向いてしまい、
テッカの方に至っては、敵意ともとれる鋭い視線を、
真っ直ぐにポールに向けていた。
何か、気に障るようなことをしただろうかと、
考える間もなく、
「おい、お前。」と、鋭い検索が始まる。
「あの、何か・・・」
したでしょうかと、
ポールは早くも腰が引けた答え方をしてしまうが、
そんなことには構わず、テッカは一歩前に出て、
真っ正面に立つ。
「祀と知り合いだって話だが、
あいつに剣士の知り合いが居るなんて話は、
聞いたことがねえ。
一体、どういう繋がりだ?」
「それはその・・・」
何も悪いことはしていないのに、
威圧間に押されて、どもってしまう。
何とか、クレイに紹介されたと言おうと、
ポールが口を開けた瞬間、
ヒュッと、何かが頭上を通り抜け、
テッカの頭に当たる。
ゴスッと鈍い音と共に、テッカがのけぞり、
あがった血しぶきにポールは悲鳴を上げた。
「うわぁあ!?」
「ちょ、鉄っちゃん、大丈夫!?」
フェイヤーが慌てて駆け寄るが、
大した傷ではないらしい。
すぐにLKは立ち上がり、石が飛んできた方向に怒鳴る。
「祀!!」
その言葉の通り、何時の間に帰ってきたのか、
玄関先でマツリが小石を片手で持て遊んでいた。
「ったく、嫁入り前の娘が居る父親じゃあるめぇし、
何、詮索してんすか、うっとうしい。」
「LKが、石投げるんじゃねえって言ってんだろ!
大体、何処行ってやがった!」
年上のテッカに叱り飛ばされても、
マツリは顔色一つ変えない。
代わりに関係ないポールが裏で縮みあがる。
「すんませんね。ちょいと、ファラオのじいさんとの、
約束があったもんで。」
全く悪びれる様子のないマツリに、ユッシが賛同する。
「ボス狩りか、ならば仕方ない。」
「仕方なくないでしょ!」
今度はフェイヤーがユッシを叱り、
返す刀で、マツリにも注意する。
「新人さん連れてくるなら、
その場にいなくちゃ駄目じゃない!
それにご老人虐めはやめなさいって言ってるでしょ!」
「で、なんか出た?」
「駄目でさ。
あの爺、レアは疎か錫丈すら寄越しやがらねぇ。」
注意を無視して狩りの様子を話す二人に、
先ほどから怒りっぱなしのフェイヤーが更に怒鳴る。
「聞いてるのかい、君たち!!」
「本当にもう、いい加減にしろよ。
ユッシもマツリちゃんも。」
変わりそうにない流れに苛れたのか、
ノエルもフェイヤーの側につく。
「普段ならまだしも、今日はポール君が来てるんだぜ。
最初ぐらいちゃんとやらないと悪いじゃないか。
それにいつものことだけど、石投げは酷いって。
マツリちゃん、テツさんに謝んなよ。」
「生憎全力反抗期なんで、丁重にお断りしまさぁ。」
「えっ、反抗期って普通自分で言う?」
ギルマス達と同じく、軽くいなされたものの、
ノエルの至極尤もな意見に、一応場が落ち着く。
「ったく、それでこいつは何処の誰なんだ。」
不愉快そうにテッカが改めて問う。
それにフェイヤーも頷いた。
「そうだね、前回のこともあるし、
一応、その辺は聞いておかないと。
ここに来る前は何をしていたんだい?
何処かのギルドに所属してたりはしないの?」
「えっと、」
ちらりと、ポールがマツリを振り返ると、
眉一つ動かさないくせに、
強烈なアイコンタクトが飛んできた。
「ドスコイの事は、一言たりとも喋んじゃねぇ。」
先ほどはテッカに問い詰められ、
今度はマツリに脅されと、ポールは泣きそうになったが、
何とか答えを引っ張り出す。
「あの、俺、田舎から出てきて、
知り合いとかいなくて、ずっと一人だったんですが、
良くしてくれた人達がいて、
その人と付き合ってるうちに、
マツリさんとも知りあって、
俺がGv出たいって言ったら、
誘ってもらったんです。」
間がだいぶ抜けているとはいえ、
強ち嘘ではない程度にドスコイ抜きで事情を説明する。
ノエルが「おや?」と言う顔をしたが、
他のメンバーにはそれで通ったらしい。
「そっかー あの人達、
見かけによらず、結構面倒見いいからねえ。」
フェイヤーが納得し、テッカがマツリを叱る。
「お前、まだあんな柄の悪い連中と付き合ってんのか。」
どうやら、面倒見がよくて、柄の悪い知り合いが、
マツリには多いらしい。
それ以上追求されることなく、話は終わった。
と、言うよりも、終わらせざるを得なかった。
「LKがローグと付き合ったら、何が悪いってんでさ。」
「痛って、馬鹿、止せ、止めろって言ってるだろ!!」
再び、マツリとテッカが喧嘩を始めたのだ。
「悪くないよ! 別に悪くないけど、
部屋の中で砂撒きは止めなさいって言ってるでしょ!」
忽ち、部屋中がほこりっぽくなり、
フェイヤーが二人を止める。
「あーもー 二人ともいい加減にしてよ。」
ゲホゲホと咳込みながら、
ノエルは諦めたようにため息をつき、
この状況にも関わらず、マイペースにもユッシは、
「なー もう、狩り行っていい?」
と、言い出した。
「はいはい、友達と約束があるんだっけ?
行ってらっしゃい!
ちょ、鉄っちゃん、武器は止そうよ、武器は!」
「ボーリングバッシュッ!」
「椅子壊さないでってば!!」
遂には壊れた家具が宙を舞い始め、
暴れるLK二人と、
それを止めようとするギルマスの喧嘩は、
なかなか終わりそうにない。
ぼんやり立っていると、
飛んできた椅子の足に当たりそうで、
しゃがみ込んだポールに、
同じくしゃがんだノエルが手招きする。
「ほら、こっちこっち!」
二人は歩伏前進で、その場を退出した。
| 10 | 2025/11 | 12 |
| S | M | T | W | T | F | S |
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残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


