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「さあ、帰ろう。」
帰宅を促すフェイヤーに、
メンバーは揃って頷いたが、テッカがそれを止めた。
「待てよ。」
「なんだい、鉄っちゃん?」
不思議そうに小首を傾げたギルマスに、
テッカは顎をしゃくってポールを示した。
「折角きたのに守ってばかりで、
一度も手を出してねえじゃねえか。
一匹ぐらい、相手させてやってもいいんじゃねえか?」
その言葉に、
フェイヤーは「ああ、確かに。」と納得した顔をしたが、
ノエルが「ゲッ、まだやるの!?」と、悲鳴をあげた。
「ポール君だって、もう、十分頑張ったじゃないですか!
皆、疲れてるんだし、素直に帰りましょうよ!」
「祀、その辺にいる奴、適当につれてこい。」
「商人か、アコならいけますかね。」
ノエルの制止を無視したテッカの指示に、
こう言うときに限って、素直にマツリが動く。
周囲をくるくると回りながら照らしていた光の玉も、
発動者について離れていき、
その後をノエルが追う。
「まって、せめてルアフはおいてって!」
「サイトじゃあるめえし、
そんな器用なこたぁできませんや。」
魔法の明かりと共に、
二人が言い争いながら、近くの別室へと消えていく。
急に今まで散々やりこめられていたドッペルと、
一戦交えることになったポールは、
何とも複雑な心境だった。
確かに、このまま帰るのは情けない。
しかし、果たして自分は戦えるのだろうか。
「なんだ、しけた面して。
止めて、さっさと帰るか?」
不安が顔に出ていたのだろう。
テッカが、怒ったように言うのに、
慌ててポールは首を振った。
何時までも、倒されたAXの陰に怯えていても仕方ない。
言われるがままに武器を用意する新米騎士の様子に、
頼りない物を感じたのか、
咎めるとも励ますともつかない調子で、
LKたちが口を出す。
「悩むこたあねえ。
今までと同じく盾で防ぎながら、
隙を見て手を出してみればいいだけのことだ。」
「いざとなったら、援護するし、
祀ちゃんにクローズコンファインしてもらえば、
すぐ逃げられ・・・」
「それ以上言ったら、怒るぞ。」
「あ、ごめんごめん。」
ギルマスが何か触れてはいけない物に触れたらしい。
ポールへのアドバイスから、二人は軽い口論に入った。
その声を聞きながら、
新米剣士は調子の戻らない自分自身に、
そっとため息をついた。
背中に背負ったままだった借り物の槍を持ってはみたが、
うまく気持ちを切り替えられない。
やっぱり自分は臆病なのだろうか。
いくらレベル違いの上位の魔物とはいえ、
出会う度に体がすくんで動けないのでは、話にならない。
「しっかり、しなきゃ。」
改めて、己に言い聞かせ、
ポールはマツリとノエルの消えた方へ向いた。
丁度いい相手がいないのか、なかなか戻ってこない。
「もう、この際、このマジでも良いすかね?」
「ダメに決まって・・・危ねえ!」
などと聞こえる話し声が、
ますます不安を煽る。
そんなポールの気持ちを知らないフェイヤーは、
早々にペコペコの背から降り、
くつろいだ様子でノンビリと言う。
「しかし、今日はよく狩ったねえ。
帰った後の一杯が楽しみだよ。」
「酒の話は戻ってからにしろよ。」
既に帰宅モードのギルマスをテッカが窘める。
「まだ狩り場だぞ。気を抜くには早えだろ。」
「えー 僕の心は既に繁華街まで、
飛んでいるというのに!
ビール! ビール!
鉄っちゃんも、今日は付き合ってくれるよね?
良いお店、見つけたんだ!」
「あんたに付き合ってたら、朝まで帰れねえから嫌だ。
大体、最近飲み過ぎだぞ。
冷蔵庫のだけで我慢しろよ。」
「そう言わずに、たまには付き合ってよ。
どうせ、うちで冷やしてるのだけじゃ、
全然足らないし。」
「今朝、2ダースは入ってたと思ったが・・・
っていうか、そういう話は戻ってからにしろって!」
最も危険な狩り場の一つである、
生体研究所でされてるとは思えない気の抜けた会話に、
普段なら、一緒になって笑うところだが、
どうしても、ポールは笑えなかった。
それどころか、まずます、気分が悪くなっていく。
マツリとノエルは、まだ戻らないのだろうか。
早く帰りたい。
フェイヤーと言い争いながらも、
テッカが全く警戒を解いていないので、
滅多なことはないだろうが、
どうしても、落ち着かない。
ストレスが最高潮に達したところで、
ノエルたちが戻ってくる声が聞こえた。
「ダメだよ、丁度いいのがいないー」
それにほっと一息ついたはずのポールは、
コトリ、と何かが動いた音を聞いた。
ゾクリと背中が総毛立つ。
新米の顔が青ざめたのをテッカは見逃さなかった。
素早く、ポールを突き飛ばすようにして庇う。
ビュンッと風を切る音を聞きながら、
倒したはずのアサシンクロスが、
獲物をとらえ損ねたカタールを手に、
自分を見下ろしているのをポールはみた。
AXはそのまま止まらず前進し、
冷たい刃がフェイヤーを突き刺す。
真っ赤な血が立ち上った。
「フェイさん!」
自分の叫び声を他人の声のようにポールは聞いた。
マツリとノエルが駆け戻ってくる足音も聞こえる。
テッカが剣を振るい、
それを横っ飛びにAXが避ける。
フェイヤーがゆっくりと倒れていく様も、
まるで、スローモーションのようにはっきりと見えた。
ドンッと、ギルマスの体が、
地面に叩きつけられた音が耳の奥で響く。
「このっ!」
テッカの刀が空を裂く音がした。
AXが再び闇の中へ沈もうとしている。
マツリがルアフの光玉と共にすぐそこまで、
戻ってきているのはわかったが、間に合わない。
一度姿を消されたら、見つけるのは困難だ。
このまま行かせたら、次は誰がやられるか。
やらせる、ものか。
無我夢中でポールは槍を片手に駆けた。
「駄目だ、君の腕じゃ当たらない!」
ノエルの声が聞こえた。
下手に手を出して、攻撃対象となれば、
自分が殺されるまで30秒かからないだろう。
それでも、動かないわけにはいかなかった。
「うわあああああああ!」
叫び声と共に槍を突き出す。
するりとAXが避けた。
それがどうにもやる気のない緩慢な動きに見え、
相手にされていないのだと、
ポールは頭に血が上るのを感じた。
「なんて無茶なことを!」
自分たちが戻るのを待たず、
ドッペルに突っ込んだ新米の姿を見て、
ノエルは叫ばずには居られなかった。
攻撃したところで当たるはずがない。
常識道理に、突き出された槍は軽々と避けられ、
AXが闇の中へ沈む。
次に彼が姿を現すときは、
ポールが死ぬときに違いない。
それが分かっているのに、なにも出来ないなんて。
必死で駆けてはいるが、自分は間に合わない。
俊足を誇るマツリも、おそらく無理だろう。
頼みの綱はテッカだが、
彼が敵を再び捕捉し、動くまでの僅かな時間差で、
AXはポールの息の根を止めてしまうかもしれない。
神様、頼むからと、
何度も裏切られた祈りと共に、ノエルは駆けた。
くるり、とポールが左側を向き、
空に向けて槍を突き出す。
ガスッ
鈍い音が響く。
あろうことか、空を突いたはずの新米の槍は、
AXを突き刺していた。
「はぁっ?!」
己が目が信じられずに、一瞬体のバランスを失い、
ノエルは転び駆ける。
その目の前で、予期せぬ攻撃に動きを止めたAXに、
テッカが剣を振るい、僅かに遅れてマツリが追撃する。
『ボーリングバッシュ!』
二人の声が、同時にノエルの耳へ飛び込んできた。
LKの必殺技を重ねて受けたドッペルゲンガーは、
今度こそ無に帰り、
その後にカラコロと音を立てて、黒い瓶が転がった。
一瞬の出来事に、誰もが言葉を発することが出来ず、
AXの置き土産が転がるカラカラという音だけが響く。
「痛っ・・・」
ギルマスのうめき声が僅かに響き、
続いて、叫び声に変わる。
「痛ったー!」
それを封切りに、
止まったかに見えた時間が再び動き出す。
「当たった? 当たりましたよ!
みました?! 当たりましたよ!!」
「ってか、ちょっと、フェイさん!
何やってるの! 本当、何やってるの!」
「だから気ぃ抜きすぎだっていっただろうが、
馬鹿野郎!」
「いやあ、面目ないー」
「だっせえ! ギルマスの癖にだっせえ!」
「マツリちゃん、君が叫ぶべきは、
まずヒールでしょ!!」
「それよりポタだポタ!!
また面倒なのが湧く前にポタだ!」
「ねえ、見たでしょ? 当たりましたよ!
AXに当たりましたよ!!」
「ワープポータル。」
「はいはい、帰る帰る!」
シュワシュワと音を立てて移動魔法陣が現れると、
全員雪崩れ込むようにそれにのる。
身体が浮かぶような独特の感覚を味わいながら、
ポールは呟いた。
「当たったのになあ、攻撃。」
「後にしろ!」
ポカリと、後頭部を叩かれた。
叩いたのは、テッカだ。多分。
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残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


