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久しぶりにメンバーが揃ったにもかかわらず、
誰一人として口をきかない。
それぞれに思うことがあるのだろうか。
疲れきった空気がどんよりと漂っていた。
ポールは今日の稼ぎについて考えていた。
半日かけて集めた植物の茎は、
お一人様128,000zという、いつもから比べれば、
破格の収入をもたらしてくれたが、
もっとやりたいかを問われると、首を横に振らずにはいられないというのが、
ポールの実直な感想であった。
また、モンスターも生き物である以上、無限に湧き出すわけではない。
仮に毎日狩りに行ったとしても、
元々多く生息しているわけではないマンドラゴラの数は、
狩れば狩るほどに減少して、
稼ぎもそれに併せて、どんどん目減りしていくだろう。
それに、ヒゲとクレイの清算を目の当たりにしてしまうと、
128kという金額自体も、なんだか、そんなに凄くないような気がしてきた。
ブラッドが言っていた様に、青ジェム代などの経費が加われば、
目減りしてしまうのはもちろんだが、
それでも、7.5Mを3日で稼げてしまうのであれば、
もっと、自分にも割りのいい方法があるのではないかと、思ってしまう。
同時に、それが甘い考えであるのも判っていた。
もし、冒険者家業がそんなに簡単に稼げるものならば、
志願者は後を立たないだろう。
だが、実際には減少の一途をたどっているという調査結果が、政府より出ている。
その最大の理由はなんと言っても、リスクの高さにあった。
あまり大きく取り上げられることはないが、
毎日のように死傷事故が冒険者ギルドには報告されている。
高い稼ぎを見込める狩場には、今とは比べ物にならない危険が付きまとうし、
危険な狩り場に行くには、それなりの装備のほかに、
軽くて莫大な効果をもたらす回復剤や、
火や風等の属性攻撃を弱める鎧のコーティング剤など、
高価な消耗品が必要であることも多い。
さりとて、それらを用いたからといって、安全を保障されるわけでもないし、
リスクをおかしたからといって、
見合った報酬が用意されているとも限らない。
運良く、価値の高いアイテムを手に入れたり、
通常の収集品で稼げればいいが、
高い消耗品を使うだけつかって、何も得られなかったりすることもある。
それどころか、今後の生活に支障をきたすような大怪我はもちろん、
命すら、いつ落としてもおかしくない。
それが狩場に行くということである。
ヒゲとクレイのニブル狩りにしても、
それなりの経験をつんだ、
高レベルのハイプリーストであるから狩りが成立したのであって、
最後こそ、不真面目に終わったものの、
別に楽をして稼いだわけではないのは、聞くまでもなかった。
むしろ自分は楽をしているのだ。と、ポールは考える。
ヒゲやクレイが回復魔法をかけてくれるから、回復剤は要らないし、
強い敵が相手でも、いざとなったらジョーカーがかばってくれるので、大きな怪我もしない。
その上、自分以外は皆経験豊富な冒険者で、
狩りなれている分、効率よく狩りができるから、収入もいい。
同じレベルの狩り仲間はいないので、他人と比べることは出来ないが、
少なくともソロだったころよりも、全てにおいて段違いにいいのだ。
現状に不平を言うのは、贅沢が過ぎるだろう。
それは痛いほどに判っていた。
「だっけどなー」
ギルメンの世話になっているのがよく判るからこそ、
もっとポールは役に立ちたかった。
今まで、ギルメンの誰一人、ポールにもっと頑張ることを望んだことはないし、
足手まといになるのを、気にした様子すらない。
しかし、剣士であるからには、
かばってもらうばかりでなく、前に立ちたかったし、
横から、援護してもらわなくても、一人で敵ぐらい倒したかった。
その為には、自分の戦闘技術を上げるだけでなく、
狩場に適した、いい装備が必要で、
装備を買うためには、お金が要るのだった。
「一体、どうしたらいいんだろう?」
一人、呟きながら、ポールは腕のレンジャーバックルをそっとなでた。
バックルには、ポールの身分証明のデータに、剣士ギルドの登録、
所属する個人ギルド、ドスコイ喫茶のエンブレムなど、
大切なデータが入った魔法反応石がいくつか取り付けられている。
そして最後に、くっきりと公認冒険者としての登録番号が印字されていた。
『65390』 それがポールの番号だ。
冒険者のテストを合格して、
バックルを受け取り、自分の番号をなぞったときは、
念願がかなったのを実感したし、これから何でもできる気がした。
しかし、それからたった二ヶ月足らずで、
自分の無力さに悩まされている。
一瞬のミスが命取りになる冒険者にあせりは禁物だといわれるし、
結局コツコツ稼ぐしかないのは判っているが、
理性と感情は別物だった。
何かに追われるような焦燥感にポールが強くとらわれている横で、
いかにもやる気がなさそうにだが、
漸くジョーカーが口火を切った。
「つかさー 金がないよ、金が。
稼いでも稼いでも、ぜんぜん足らないよー」
「そりゃ、ろくな使い方してなきゃ、いくら稼いだって足りないでしょ。」
ジョーカーの心からの声を、クレイが一刀両断に切り捨てた。
取り付く島もない態度に、ジョーカーがふてくされる。
「ちょっと、何でろくな使い方してないって決め付けるのさ。」
「ジョカさんの使い方なら、どんな使い方でもろくでもないに決まってます。」
「世界の常識だぞ。知らないのか、ジョカ? 本当馬鹿な!」
苦情を言うそばからクレイに叩き潰され、ヒゲにも蹴飛ばされる。
今日もジョーカーに勝ち目は一切ない。
その上、クレイの言葉をあっさりと認めた。
「まあ実際、有意義とはいえない使い方してるんだけどさ。」
もう一寸、堅実に使えばよかったと、後悔するジョーカーを、
さもありなんと、クレイがどうでも良さように先の言葉を読んだ。
「ヒゲ氏が青箱ギャンブルなら、自分はどうせ高級装備改造しまくって、
強化するどころか逆に壊して、
気が付いたら何も残っていませんでしたとか、そういうのでしょ。」
「・・・エスパー?」
自分の行動パターンを完全に読まれ、ジョーカーが固まる。
代わりにヒゲが大袈裟に反応した。
「うはwwwwwwww図星きたこれwwwwwwwwwwwwwww」
「うるさいなwwwwwwwwwwwほっとけwwwwwwwwwwww」
ゲラゲラと大笑いを始めた二人をクレイが鼻先であしらう。
「ったく、自分らの行動パターンなんて、
高が知れてるのよ。」
一頻り笑い終えると、
ジョーカーが真面目な顔で話を戻した。
「まあ、それは兎も角としてだよ、
現在の資金状況は、どう考えても問題だよ。」
ポールの記憶が正しければ、
ここ一週間で三回は出ている話だ。
うんざりしているのは誰も変わらないらしく、
無駄にジョーカーが叩かれることなく、素直に同意される。
「確かに、顔会わせる度にお金がないないって言うのは嫌だわ。」
「MPを売りゃ、それなりの金額になるんだけどな!」
「いや、それはやめておけ」
心底嫌そうにクレイがため息をつき、
ヒゲが安易な解決策を出したが、すぐさまジョーカーに否定された。
モンスターポイント・通称MPとは、死んだモンスターの死骸から発生する、
魔力の残りかすのようなものである。
魔物も死ねば、その魂は体から離れ、
魂のエネルギーである魔法力(SP)も同時に消えうせる。
しかし、人間と異なり、魔物はその肉や皮など、
体を形成するもの自体が強い魔力を秘めている。
死骸という名の物質になったものの魔力は、
通常、その身が腐り落ちるまで、少しずつ空中分解されていくのだが、
これを一気に吸収する魔術が100年ほど前に開発された。
魔物から吸収されたMPは、それまで都市の明かりや、
生活に必要な機械類を動かすために使われていた電力とよく似ており、
様々な用途で効果を発揮した。
また、作成に大規模な設備を必要とし、
それらを魔物からの防衛しなければならない等の理由により、
維持が非常に難しい電力と異なり、
日々の消耗品を得るために必要な狩りや、
身を守るための討伐と同時に得られるという利点などもあって、
MPは瞬く間に主要エネルギーとして求められるようになった。
このMPを効率よく、大々的に集めるために国が考案したのが、
そもそもの冒険者登録システムであり、
冒険者として認められたものだけが、
MPを吸収する魔反石を持つことが許される。
レンジャーバックルにはめ込まれた魔応石に溜め込まれたMPは、
一旦、カプラサービスのタンクに預けられ、
その際、結構な量の税金を引かれたあと、
正式に冒険者の所有となる。
貯めたMPは所属する職業ギルドに上納して、
上位職へのテストを受けるために使われるのが一般的だが、
カプラサービスを通じて国に売り、金銭に換えることも可能だ。
因みに、MPを売る相手は国に限られていて、
個人で売買することはテロ禁止法にて、硬く禁じられ、
何らかの理由から、個人的な譲渡をする際にも、
役所で面倒な手続きを踏まねばならない。
溜め込めば莫大なエネルギーとなるMPを、
破壊行為に使用されるのを防ぐ為で、
公認冒険者のみがMP集めを許可されていることも、同じ理由からだ。
当然ポールも、剣士の上位職、騎士になる為にMPと貯めているが、
こちらも金銭同様、なかなか必要量に届かない。
MPの話題が出たところで、思い出したのか、
ヒゲに現在の持ちポイントを聞かれ、
頭の隅の記憶をさぐる。
「えっと、確か、昨日預けたときは600kぐらいだったと思うんですけど。」
「あんまり溜まってないなー」
そっちの方も考えなきゃなと、ヒゲが言うと、
クレイがため息混じりにぼやく。
「ジョカさんが手を抜いて、ゴラァ森なんかに連れてったりするから・・・」
「すみませんwwwwwwwwwwww」
MSと違い、MPは純粋に強い敵ほど獲得ポイントが高い。
生憎マンドラゴラは低級モンスターの為、MPがほとんどなかった。
「だって、支援いないし、お金も稼げるし、
町から近いし、いい狩場だと思ったんだもん!」
ジョーカーが懸命に言い訳するが、
クレイはまともに取り合おうとせず、あっさり流す。
「はいはい、判った判った。
じゃあ、もう、明日からまた頑張るということで。」
「明日は騎士団行ってみようぜ! 通常ドロップが一寸あれだけど、
エルニウムとか、プチレアが結構出るし、
MSが出ればウハウハだし!」
ヒゲの提案に、他の二人が賛成し、
ポールも先輩達の意見に異存はない。
早速、段取りが組まれ、
明日の午前9時、準備を済ませて溜まり場に集まることになった。
「さて、じゃあ、今日は帰るか。」
「久しぶりに暖かい布団で寝られるな!」
ジョーカーがうーんと背伸びをし、ヒゲが嬉しそうに帰り支度を始める。
クレイも肩を回しながら立ち上がった。
「あーもー、うちも疲れた。
さっさと寝たいんで、先に失礼するわ。」
「お疲れさまー」
ギルメンと挨拶を軽く済ませ、
クレイはさっさと帰宅用のワープポータルを出す。
「あ、ポール君。帰る前にちゃんとMPはカプラさんに預けておくのよ?
1次職のMPタンクは小さいし、溢れさせたらもったいないからね。」
「はーい」
あれこれ言いながらも、ちゃんとポールの心配をしていくのがクレイのいいところだ。
言われたとおり、カプラサービスに寄ってから帰ろうと、
ポールは帰り道のルートを頭の中で確かめた。
「じゃあ、おやすみ。あ、そうそう、それから。」
ポータルに片足を乗せ掛けながら、付け加える。
「自分はちゃんとがんばってるし、成果も出てるから、
目先のことに囚われて焦らないのよ?
お金や装備なんて、そのうち、ちゃんと集まるから。」
それだけ言うと、さっさと片手を振ってクレイは帰ってしまった。
ジョーカーの行動パターンだけでなく、
ポールが考えていたことまで読んだのだろうか?
ポールは少し驚くと共に、クレイに感謝した。
慌てなくていい。
少しずつ確実に行けばいい。
当たり前のことだが、
自分で考えるだけでなく、人にも言ってもらえると、
ずっと安心できた。
ほっと一息ついたポールにジョーカーも声をかけてくれる。
「そうそう、狩り行ってれば、多かれ少なかれ、
何かしら増えてるしさ。」
先輩AXの言葉に、ポールは大きくうなずいて、気合を入れなおす。
「よし、明日も頑張るぞー!」
「その意気だよ。」
「明日は遅刻すんなよー!」
元気な後輩を嬉しそうにジョーカーも応援し、
ヒゲが楽しそうにからかった。
二人に手を振り、ポールは走って家に向かう。
明日の為に今日は早くやすまなくちゃ。
そう考えると、何だか嬉しくなって、
ポールは更にスピードを上げ、途中で慌ててカプラサービスの方に方向を変えた。
騎士団は巨人族の砦跡と言われ、
深遠の騎士や、レイドリックなどが済みつく、
中級ダンジョンの一つである。
赴くには念入りな準備と、それなりの勇気が必要だが、
少なくとも、後者は心配なさそうだ。
暮れかけた空には綺麗な夕焼けが広がっている。
この分なら、明日も晴れるだろう。
そして、次の日。
ポールの予想通り、空は雲一つなく晴れ渡った。
気合十分のポールはもちろん、
遅刻の多いジョーカーやヒゲも、時間通りに集まった。
イザという時の回復剤に、聖水や蒼ジェムなどの消耗品もしっかり持ち、
装備も各自が出来るだけ、狩場に適したものを用意した。
後はもう、出発するだけである。
しかし、問題が一つだけあった。
クレイが、来ていない。
「クレイさん、まーだー?」
「手本となるべきリーダーが遅刻ってどうなのかね!?」
「リーダーというか、ギルマスはヒゲさんじゃないですか。」
待ちくたびれたジョーカーが不貞腐れ、
自分を棚上げするヒゲにポールが突っ込む。
一時間待っても、二時間待っても、クレイは来なかった。
そのまま溜まり場でのんびりと雑談をしていると、
ふと、思い出したようにジョーカーがいった。
「結局さ、こうやって狩り行かないのが一番儲からなくて、
ボクら、これが多いんだよね。」
空はよく晴れ、いい狩り日和であるが、
ドスコイ喫茶は、しばらく、金欠から抜け出せそうにない。
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残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


