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結局、クレイが復帰したのは3日後であった。
体調不良で休むという連絡事態は、
その日のうちに、人づてで来たものの、
まさか、そのまま3日も休むとは誰も思っていなかったので、
片手を上げて彼女が溜まり場に戻ってきたときは、
無事だった安心と、その反動がない交ぜになって、
メンバーは文句を言わずにはいられなかった。
「全くもう、何やってるんですか!
クレイさんの所為で、騎士団いけなくなっちゃったんですからね!」
「いやあ、悪い悪い。 朝、目が覚めたら体動かなくてさー
うちも歳だからかな。」
ジョーカーの苦情を、24歳とはとても思えない理由でクレイが軽くいなすと、
今度はポールが口を尖らした。
「病み上がりなのに、ニブル特攻ツアーなんか行くからですよー」
「あー まあ、そうなんだけど、ここまで影響あると思わなかったって言うか、
ヒゲ氏のピンチだったから。」
不可抗力ということで見逃してよ。と、クレイが流そうとすると、
ヒゲも、
「ワシの所為ですみませんwwwwww」
と、あまり反省の感じられない様子で謝った。
「っていうかさー クレイさんはヒゲに甘いんだよ。
借金なんて自己責任なんだから、放っておけば良いのに。
仮にボクのことだったら放って置いたでしょー」
そう、ジョーカーは指摘したが、
「そりゃまあ、自分とヒゲ氏は違うから。」
と、あっさり肯定され、
「ヒドスwwwwwwwwwwwwwww」
と、悲鳴を上げる羽目になった。
「差別! これは言われなき差別です!」
そう叫びながら、
地面を拳でたたき、泣き崩れるジョーカーを全く見ようともしないが、
一応、クレイが苦言を取り入れる。
「そりゃまあ、うちだって本来なら放っておきますけどね。
結婚してないのに『離婚だ!』とかいう、騒ぎにならないんだったら。
ヒゲ氏は泣いたって別にいいけど、嫁さんは可哀想だからねえ。」
ハイプリの遠くを見る視線に嫌な気配を感じ取り、
ポールが聞く。
「あったんですか、そういうことが?」
「ハイ、結構最近に。」
確かにヒゲの借金が判明したとき、クレイは「また」と、言っていた。
ポールが横目でヒゲをじろりと見ると、
ヒゲが「テヘッ☆ミ」っと、笑いながら頭をかいた。
「ヒゲさん!」
「御免なさいwwwwwwwwwwww」
ポールとヒゲが仲良くじゃれ始めた横で、
立ち直りの早いジョーカーが更に文句を言い始める。
「大体さ、誰なの、あのチェイサー!
ボクというものがありながら、あんなのと付き合ってるの!?」
「いや、彼は知り合いの知り合いであんまり、
うちも付き合いないんだけど・・・
しょうがないじゃない、他に充てがなかったんだから。」
クレイが来ないことを代わりにつげに来たのは、
三人とも面識のないチェイサーだった。
アサシンと同く、シーフから派生する二次職・ローグの上級職であるが、
派手なアクションや、乱雑な強盗行為、トリッキーな動きを主とする彼らは、
その名のとおり、しばしばゴロツキとして扱われ、
他の冒険者の中でも評価が低い。
特に闇に隠れ、隠密に行動することを好むアサシンと正反対の性質を持つ為、
同じシーフ系でありながら、仲があまり良くない。
伝言に来てくれたチェイサーは、
ポールが見た感じ、傍で言われるほど悪そうには見えなかった。
しかし、ファーの付いた蒼のコートに、黒いズボン。
腰にぶら下げられたいくつかの鎖と、
どれも堅気とは違う臭いがしたのも、また事実だった。
アサシンとは別の意味で単独行動を好み、
同職としか付き合わないと言われるローグと知り合いという、
クレイの知り合いとはどんな人物なのだろうか。
非常に気になるところではあったが、
もう一つ、ポールにはクレイに聞かなければならないことがあった。
「それで、クレイさん。あの人は誰なんですか?」
ポールが振り返った先には、
青年とも、少年とも言えるぐらいのLKが少し離れて立っていた。
LKにしては非常に小柄で、身長は160cmないだろう。
ほっそりとした体つきは華奢とも言え、
少女と見間違わんばかりの大きな瞳。
色白で整った顔を、鳶色のつややかな髪が覆っている。
ポールの視線に気が付いているのかいないのか、
そもそも、こちらの会話に注意を払っているのかすら判らない。
全てに無関心な態度で、何を見るというわけでもなく佇んでいる。
ポールに問われたクレイが、「ああ」と、一息ついた後、
「祀ちゃん、一寸。」と、声をかけると、
そこで漸く、ポール達の方をゆっくりと見、やる気なさそうに近づいてきた。
クレイの隣、ポールたちから1.5mほど離れた時点で止まる。
同じか、少し上程度の歳でありながら、
ポールとはかけ離れた落ち着きと隙のなさに、
剣士系最上位職の実力が現れているかのようだ。
目指すべき位置にいる具体的な例の出現に、
ポールはなんとなく落ち着かない気分になる。
クレイがマツリと呼んだLKを紹介する。
「うちの古い友達の祀ちゃん。一寸、助っ人に来てもらったの。」
「マツリ・コヒナタです。どーも。」
まさか声変わり前ということもないだろうが、男にしては一寸声が高い。
一応、会釈はしたが、
良好な付き合いを望んでいるとは、とても思えないぶっきらぼうな態度に、
ポールはどう挨拶したものかと、戸惑ってしまう。
それに気がついているだろうに、
いつもどおり、何事にも動じない冷静さで、クレイが話を進める。
「祀ちゃん、そんで、こっちが昨日話したポール君で、
こっちがジョカさんこと、ジョーカーさん。」
「あ、始めまして、ポール・スミスです。」
「ジョーカー・ペンドラゴンです。どもー」
振られてポールが、慌てて挨拶したのに対し、
ジョーカーはLKに負けず劣らず、やる気がない挨拶をした。
男に興味のないジョーカーらしい反応といえる。
クレイが「それで。」と、一旦切り、ヒゲの方に向き直る。
「一応、こっちが、ヒゲ氏こと・・・」
「ヒゲでーすwwwwwwwwwwwよろしくねっ!☆ミ!!!!!!!!!!!」
クレイの言葉をさえぎって、ヒゲが前に乗り出す。
『うっわー』
初対面の挨拶にも関わらず、駄目っぽさ全開のヒゲを見ながら、
ポールとジョーカーは、互いに同じことを考えていることを感じ取った。
どうしてこの男はこう、無駄にテンションが高いのだろう。
相手が女性であれば、ジョーカーもほぼ同じことをするが、
相手を択ばない分、ヒゲの性質の悪さは本物である。
ヒゲの自己紹介が身長、体重、好きなもの進み、
そして、誰も興味のないスリーサイズに入ろうとした時、
ボソッと、LKが挨拶を返した。
「お久しぶりです、ヒゲさん。相変わらずっすね。」
「あるぇwwwwwwwwwwww知り合いでしたかwwwwwwwww?」
それまでの流れが一気に無駄になり、ヒゲがズサッとこけた。
「ええ、1年ほど前に一寸。」
「まあ、憶えてないだろうなーとは思ったけど、
案の定、憶えてなかったか。」
アクションの派手なヒゲに対し、
あくまで冷静にクレイとマツリが答えるので、余計にヒゲが哀れに見える。
「一寸wwwwwベッキーwwwwどういうことですかwwwww」
己の記憶力の無さを無視し、ヒゲが食って掛かるが、
クレイはやはり、動じない。
「だから、うちらが知り合った頃、
何回か一緒に狩り行ったじゃない、この子も。」
「えーっと・・・狩りながらお酒飲んで怒られてた人だっけ?」
「全然違います。」
せいぜい1年前のことも憶えてないのかと、
クレイの冷ややかな視線に責められ、ヒゲは懸命に記憶をたどる。
が、
「駄目だwwwwwwかすりもしねえwwwwwwwwwwww」
と、早々にリタイヤした。
その様子に「流石、脳みそミジンコレベル」とジョーカーが笑い、
ポールは、先ほどから不機嫌そうなマツリの機嫌が、
更に悪くなるのではと、ドキドキする。
しかし、当の本人は全くそんなことはどうでもよかったらしく、
それよりもと、別の点を問いただしてきた。
「つか、何で姐さんがベッキーなんすか。」
クレイのフルネームは”クレイ・セト”である。
そこにベッキーに繋がる要素は無く、Bの欠片すら入っていない。
実は、この疑問はポールの中にもあったのだが、
特に説明されることも、聞くタイミングも無く、
今に至ってしまった。
そういうことをきっちり聞かないのがポールの悪いところと言われているが、
本人は全く気にしていないのが、更に悪いかもしれない。
それは兎も角、クレイがさっくりとタネをばらす。
「ほら、うちの名前って漢字で書くと"紅玲”じゃない?
だからベッキーって。」
ばらしはしたが、ポールにはやっぱりよく判らない。
反面、マツリは、
「ああ。なるほどね。」
と、うなずいた。
堪らず、ポールが更に詳しい説明を要求したところによると、
クレイは東の国・天津(アマツ)の出身だが、
かの国はこちらのアルファベットに対応するひらがなのほかに、
カタカナ、漢字という、3種類の文字を多様に組み合わせて使う。
クレイの名前に使われている"紅"という漢字は、
草木染による鮮やかな赤のことを指すが、
コウ・アカ等、複数の読み方を持つ。
そのなかでも、尤も多く使われるのがベニなのだが、
ある時、漢字表記されたクレイの名前を見たヒゲが、
持ちうる天津語の知識をフル動員して発音した結果が『ベニレイ』で、
それを簡略化し、クレイはベッキーと呼ばれるようになったらしい。
よくもまあ、こんなくだらない理由があったものだと、ポールは感心した。
それから少し間をおいて、
マツリが漢字と聞いただけで、全てを把握したのを思い出す。
「もしかして、マツリさんもアマツの出身なんですか?」
漢字自体は同じ東国・龍城(ロンヤン)でも使われるが、
発音がまた異なるし、
天津語に精通していそうな事にしても、
クレイの知り合いだということも、それに繋がる。
何より名前が、ミットガルド王国のものとも、
隣国シュバルツガルドのものとも違う。
気がつけば当然とも思えるポールの質問に、
あっさりとマツリは頷き、クレイが補足した。
「出身もなにも、あたしゃ、まだ向こうの訛りが残ってるって、
よく注意されるくらいですしねぇ。」
「そもそも、うちらが知り合ったのも向こうだしね。」
二人は交互にポールの質問を肯定した後、
「こっち来て、もう五年は経つのにね。
っていうか、祀ちゃんは、母国語がまず訛ってるよね。」
「爺さんからうつったんでさ。兄貴は標準語喋ってますぜ。」
と、繋がりの深さを感じさせた。
その様子に、なんとなく表現しづらい気持ちをポールが抱えた横で、
「まあ、なんでもいいや。」
と、ジョーカーがマツリに片手を差し出した。
「とりあえず、今日はよろしくね。」
「こちらこそ。」
意外と素直に、マツリがジョーカーの手を握り返す。
無愛想とは言えども、一応、ある程度の人付き合いはするらしい。
軽くジョーカーとの握手が済むと、
マツリはそのまま、ポールにも右手を差し出した。
一瞬つまったものの、ポールもその手を握り返す。
近くで正面から見たマツリは、思った以上に小柄できれいな顔をしている。
東の生まれらしく、深い黒茶の大きな瞳が印象的だ。
胸元を飾っているのは天然石だろうか?
百郡色の小さく丸い石がきらりと光った。
と、同時にキュッとマツリの瞳孔が蛇のように細くなる。
ぎょっとしてポールがのけぞると、
その手を離さず、静かにマツリが言った。
「どうか、しましたか?」
「え・・・いや、なんでもないです。」
マツリが不思議そうに見返している。
その瞳は、当然のごとく、人のものだった。
気のせいだったのだろうか。
そういえば、ブラッドと握手をしたときも、
変な思いをしたなと、ポールは右手を眺めた。
その横で、何を思ったのか、
ジョーカーが仮面の上からとはいえ、無遠慮にジロジロとLKを見、
どことなく嬉しそうに言った。
「手もちっちゃいけど、身長もちっちゃいね、君!」
ドスコイメンバーには暗黙の了解として、
ヒゲは「ハゲ」、ジョーカーに「チビ」は禁句というのがある。
ヒゲは帽子の下を見たことがないし、外見的に禿げているようには見えないので、
おそらくネタの一部なのだろうとポールは解釈しているが、
ジョーカーの身長に関しては、結構まじめに気にしているらしい。
プロンティア政府・調査結果によると、成人男性平均身長は174cmで、
ジョーカーの身長が165cmであることを考えると、多少は思うところがあるだろう。
因みにポールは現在162cmだが、
まだまだ伸び盛りなので、全く気にしていない。
「まあ、男は身長じゃないしさ!
ちょっとぐらい小さくたって、気にすることないよ!」
周りをくるくる回りながら、マツリに絡むジョーカーはとても楽しそうだ。
その横で、ヒゲがそっと、クレイをつつく。
「ベッキー、前のGの人と連絡とってたんだ。」
「取ってたって言うか、取れられたって言うか、
祀ちゃんは前のGの子じゃないって言うか。」
と、どこか面倒そうにクレイが答える。
「連絡取れなくなって困ってたんでしょ? よかったじゃん。」
「よかったのかねえ。」
どこと無く、落ち着かなさげなクレイにヒゲも眉をひそめた。
「何か問題あんの?」
「いや、向こうと連絡取ると、絶対こっちと混ざると思って。
それにあの子も結構人見知りするし、
ジョカさんも、あんまり知らない人と行動するの嫌がるし。」
そういうのって、面倒でしょ。と、すまなそうにクレイが言うと、
納得いったヒゲが「あーね。」と、うなずいた。
「でも、ワシらのことは気にせんでいいよ!
ジョカも、大丈夫じゃないかな。」
「そうかな?」
ヒゲの言葉に、クレイが答えかけた時、
マツリとジョーカーの声が響く。
「ボウリングバッシュ!!」
「二ギャアーーーーーーー!!」
マツリによる、騎士系列の必殺技の一つ・ボーリングバッシュが、
ジョーカーを襲った。
ハイプリ二人の動きが一瞬止まる。
SWで防ぐべきか、先にヒールをかけてやるべきか。
それともLDでBBを止めるべきか。
支援のプロが冷静に判断する。
「まあ、大丈夫だろ。ジョカだし。」
「大丈夫だよね、血飛沫上がってるけど。」
冷徹に、ハイプリ二人は傍観に徹した。
見るに見かねて、ポールが叫ぶ。
「止めてくださいよ、二人とも!!!」
その間にもマツリの鋭い太刀筋がジョーカーを切り刻んでいく。
一応みねは返してあるが、痛いものは痛い。
新しいメンバーが増えても増えなくても、
ジョーカーの運命は、そう変わらないらしい。
| 10 | 2025/11 | 12 |
| S | M | T | W | T | F | S |
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| 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
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残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


