V(ヴァカみたいにどうでも良いこと)を、
N(ねちねち)と書いてみる。
根本的にヴァイオリンとは無関係です。
×
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「はいはい、やめやめ。」
漸くクレイが止めに入り、マツリが刀を引く。
しかし、既にジョーカーは激しい狩場から戻ったかのように、
ボロボロになっていた。
ヒゲがゲラゲラ笑う。
「ぼっこぼこにやられてやんのwwwwwwwww」
「るっさいな! 思った以上に速くて、
避けられなかったんだよ!」
多少なりとも、プライドが傷つけられたのか、
ジョーカーが結構本気で八つ当たりの拳を振るい、
ヒゲがすんでの所でそれを避ける。
「AXの癖に避けられないってどうなのwwwwwwwwww」
「黙れwwwwwwwwwwwwwwwww」
ボコボコと殴りあい始めた二人の間に入り、
クレイがジョーカーに問う。
「つか、何やったんですか、ジョカさん。」
「ボクは何もしてませんよ!」
ヒゲの首を締め上げながら、ジョーカーが心外だと怒鳴った。
「ボクはただ、
『クレイさんと仲良いみたいだけど、あのおっぱいはボクのですからね!』
って、言っただけですよ!」
「あーね。」
クレイが全てを了解して肩を落とすと、
マツリが吐き捨てる。
「こんな下衆のどこがいいんすか、姐さん。」
その様子を見ながら、ポールもため息をついた。
「オレ、慣れちゃって、気にならなくなってましたけど、
ジョカさんのこういうのって、やっぱりダメですよね。」
「ポール君。それは慣れつつある、君がまずダメだから。」
無表情にポールにも突っ込んでから、
クレイがジョーカーを叱った。
「ちょっと、祀ちゃんは良い所のお嬢さんなんだからやめてよ。」
「へいへい。」
怒られるのはいつもボクさーと、
ジョーカーが不貞腐れながらも、ヒゲとの喧嘩をやめると、
クレイは今度はマツリに向き直った。
「祀ちゃんも。
ジョカさんは誰に対してもこうだから、いちいち気にしないで。」
何のフォローにもならない、ただの対処法に、
LKは納得いかなさそうに舌打ちする。
「ったく、突然1年間も行方不明になって、やっと連絡が来たと思ったら、
こんなのと組んでたんすか。」
「いや、だってG解体しちゃってて、
どう連絡つけようか困ったって言うか、
ソロでいても仕方ないし、せっかく誘われたから入っておこうかと思ったって言うか、
そのまま居座ったのは、こんなのって言うか、ジョカさんはおまけで、
どちらかといえば、ヒゲ氏がいたからなんだけど。」
マツリのキツい視線から目をそむけ、クレイが言い訳に入る。
が、視線の先のヒゲを見て、すぐに態度を改めた。
「すみません・・・いや、本当にすみません・・・」
珍しく全力の低姿勢で平謝るクレイに、ヒゲが追従する。
「生きててスミマセンwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「やめて、ヒゲ氏。いや、マジでやめてください。」
クレイの立場がどんどん悪くなっていくのが目に見えるようだ。
何とか、ヒゲを止めようとするが、
焦っている所為か、うまくいかない。
それに加勢する力はポールにはないし、
ジョーカーはまだ、不貞腐れて黙っている。
「もう済んだ話ですし、理由は聞きやせんがね。」
収拾の付かなくなりそうだった所を、
未だ憤懣やるかたない様子だが、マツリが話を切り替えた。
「で、今日はどこに行く予定なんですか。」
無駄話を好まないのか、至極実務的な質問のおかげで、
漸く冒険者同士の集まりらしくなった。
せっかく変わった流れを止めまいと、
クレイがテキパキと答える。
「今日こそ、騎士団!
祀ちゃん、騎士団はメイン狩場だったよね。
ポール君は初めてだから、色々教えてあげてくれる?」
「別に、行ってる回数が多いってだけで、
他人様に教えられるほどのものが、あるわけじゃねえっすけどね。」
LKはあまり気乗りしない様子を見せるが、
それを無視して、クレイはどんどん話を進めた。
「ポール君、ジョカさん、準備はもう、出来てるのよね?」
「準備って程のものはないですけど。」
「ボクもとりあえず、一通り出来てる。」
二人がうなずくと、それに続いてヒゲが手を上げる。
「すみません! 聖水忘れました!!」
「早くとって来い、馬鹿!」
今日はどこまでもクレイの足を引っ張るつもりらしい。
追い立てられて倉庫にヒゲが走り、
ポールが移動方法を聞く。
「今、ジョンダの移動サービス期間でしたっけ?
それとも、ポタでいくんですか?」
「ヒゲが用意したって言ってたよー」
ジョーカーが答えた。
騎士団こと、古城・グラストヘイム騎士団跡に、
ワープポータルによる直接での移動は不可能である。
土地の魔力と、それに絡んだ魔物のエネルギーが強く、結界代わりとなっており、
プリースト一人程度の魔力など跳ね返し、出口を作らせないからだ。
しかし、古城の門前にならば、
移動ポイントを設置することは可能であるし、
シュバルツバルド共和国のカプラサービスにあたる、
ジョンダが期間限定ながらも移動サービスを行っている。
「じゃあ、ヒゲさん待ちですね。」
ポールが戻ってくるヒゲが見えないかと、身を乗り出したその横に、
いつの間にかマツリが来ていた。
「騎士志望なんすってね。」
後ろにいるジョーカー達からは、二人でヒゲを待っているようにしか見えないであろう。
誰に言うでもないように小さく、それでいてはっきりとした声でマツリは言った。
「両手希望なのか、槍希望なのか、どっちでもいいっすが、
少なくともあたしの真似だきゃぁ、しねぇほうがいいですぜ。」
確かに、発音が少しおかしい。
同じ天津出身でも、クレイはもっとすっきりと話すのにな。
そう、思いながら、ポールは聞いた。
「ダメ、なんですか?」
上位職とは言っても、魔法職のヒゲやクレイは騎士とはかけ離れているし、
同じ前衛職でも、ジョーカーが好んで扱うのは短剣やカタールで、
騎士の使う両手剣や槍とは攻撃方法も間合いも違う。
身近に手本とする同職がいれば良いのにと、
ギルメン達が口癖のように言い、
自分でも、目指すものがはっきりしていれば、
今後の方針も決めやすいのにと思う。
そういう意味では、マツリはうってつけに見えるのだが。
「姐さんも、ああは言ってますがね。」
軽やかに、スキップを踏みながらヒゲが戻ってくるのが見える。
あ、クレイにHL打たれた。
そんな間抜けな情景に、口元を緩めることはおろか、
感情すら読めない無表情のまま、マツリは言う。
「あたしは誰かの手本には、向きやせん。
そいつは、姐さんだってわかってるはずです。」
「どうしてですか?」
上手く、納得できずにポールは食い下がった。
他職に比べてLKが転職しやすいということはない。
戦闘に不向きのクリエや教授に比べれば、純戦闘職であるから、
3次職受験条件のMP上納はしやすいだろうが、
それでも、必要額を貯めるには相当の戦闘を経験しなければならないし、
受験資格が整っても、厳しい実技・筆記試験両方をパスしなければ三次職としては認められない。
マツリのバックルには、確かにLKの証である金赤の魔応石が取り付けられているし、
騎士系列最高職であるからにはポールの手本になるのに、
不都合があるはずはないのだが。
プリほどではないとしても、
騎士も攻撃スタイルが分かれるから、その所為だろうか?
主要武器の違いは大きい。
扱い方はもちろん、習得スキルや、間合いなどの動きも変わる。
だが、マツリは「両手志望でも、槍でもどっちでもいい」と言った。
そもそも、ポールはまだ、どちらになるかすら決めていない。
「あたしゃ、LKとしては出来損ないの類ですからね。」
酷く自虐的に思えることを、どうでも良さそうにマツリは言った。
「え?」
「まあ、見てりゃ、すぐにわかりまさぁ。」
それだけ言うと、よく分かっていないポールをおいて、
マツリはクレイの所へ行ってしまった。
程なくして、ヒゲがワープポータルを出し、
メンバーはどんどんポータルに乗っていく。
ポールもその後を追うしかない。
代わり行く景色を眺めながら、ふと考える。
「LKになっても、落ちこぼれとか言われるんだろうか。」
背筋がぞっとしたのは、グラストヘイムの放つ、
負のエネルギーに当てられた所為にしておこう。
「でけえー」
古城・グラストヘイムの門前に立ったとき、
ポールはそれ以上のことを考えられなかった。
神々と敵対していた巨人族が作ったとされる、
この謎の多い古城の大きさは半端ではない。
本当に常しえの神代に立てられたのかは定かではないが、
巨人が造ったとでも言わなければ、説明が出来ないサイズである。
所々崩れかけた城壁は30mを優に超すであろうし、
金属製の城門は錆び付いて、今にもぎしついた音を立てそうであるのに、
風に吹かれてもピクリとも動かない程に重い。
半開きになった城門の隙間を潜り抜けると、
青白い石造りの天守が厳然と建っていた。
奥へ進んでいくと巨大な力で打ち壊されたらしい石壁が道をふさぎ、
激しい戦闘の跡を残している。
現存する壁も古臭く、蔦が巻きついてはいるが、
巧みな職人でもあったと言う巨人が作ったとされるだけあって造りは確かで、
未だに崩壊の危険はなさそうだ。
それでも、廃墟と呼んで差し支えない陰気臭さがあり、
時々弓を射掛けてくる悪魔・ガーゴイルが可愛らしくみえるほど、
何かが出そうな雰囲気をかもし出している。
なれた足取りで先に進むマツリの後を追うと、
突然、伏せるように指示が出た。
言われるがままに、瓦礫の隅に隠れると、
人の5倍はあろうかという黒い馬に乗った漆黒の騎士が、
やはり巨大な鎧を着た骸骨を従えて通り過ぎていく。
「深淵の騎士と、カーリッツバーグでさ。」
騎士が十分離れたのを確認し、マツリが言い、
馬に乗ったほうが深遠、骸骨のほうがカリツだと教えてくれる。
「戦に負けた巨人の成れの果てたぁ、言われてますが、
どこまで本当かは、知れたもんじゃありません。」
仮にも、神々のライバルとも在ろう者が土地の魔力にとらわれ、
魔物と化すなどという話は、あまり体裁のいいものではない。
さりとて、他に説明のしようもないのが、
神々と違い、ちっぽけで無知無力な人間の限界である。
どちらにしても、単独で戦うには分が悪い相手だと言いかけて、
マツリはふと、己の過ちに気が付いた。
「そういや、今日は姐さん方がいらっしゃるんでしたね。」
戦ってもよかったかと、LKが小首を傾げると、
ハイプリがそれを止める。
「いや、基礎支援も掛かってないし、いきなり突っ込まれるのも困るしね。
特に今日は、ポール君がいるから。」
と、言うわけで、アレを見たら下がるようにと、
クレイに注意され、ポールは首をすくめた。
「これから行く騎士団って、あんなのがうじゃうじゃしてるんですか?」
「うじゃうじゃはしてない。でも、いるときはいるね。
それにカリツはメイン敵の一つだし。」
「うひー」
毎度のことだが、アンデットを相手にするのは、
あまり気持ちのいいものではない。
改めて、肩を落としたポールを横目で見て、
マツリが鼻を鳴らした。
「馬鹿に、されたかな。」
そっと、心の中で思う。
悪魔から猛獣まで、数多くのモンスターを相手にする冒険者であり、
騎士志望でありながら、アンデットが怖いでは話にならない。
自分はやはり、ちょっとどこか甘えているのかなと、ポールは反省し、
狩場についたら、改めて頑張ろうと決意した。
「深淵が来たらワシが耐えるから、ジョカSBr打てよ!」
ヒゲが対処方を進言し、ジョーカーがうなずく。
「はいよ。」
「オレはどうしたらいいですか?」
非力ながらも戦力にならないかとポールは問うが、
「ポール君は巻き込まれないように下がってればいいって。」
と、あっさり言われてしまう。
「でも・・・」
頑張ると決意したポールは食い下がるが、マツリに再び鼻先で笑われた。
「考えのねぇ騎士ほど前に出たがる。世の中の鉄則ですな。」
ぐっと、詰まる。
確かに、レベルの低い自分が無理に前に出ても、良い結果は得られないかもしれないが、
いくらなんでも、それはちょっと言いすぎじゃなかろうか。
「でかい獲物を倒すほかにも、やることはいくらでもありますぜ。」
マツリの態度自体は挨拶のときと変わりなく、どうでもよさそうなのだが、
言葉がキツい。
怒ろうにも言い返せず、ポールはこぶしを握り締めた。
「だから、そういう騎士にならないように注意しろってことよ。」
横から、クレイのフォローが入る。
「祀ちゃんを呼んだのは、そういう意味もあるから、
よく見ておきなさい。」
ポールを見つめる先輩ハイプリの瞳はいつになく真面目だ。
思うところはあったが、クレイの顔を立てる感じでポールは黙った。
そんなことはどこ吹く風のマツリは、相変わらず何事にも興味がなさそうで、
いつもなら、おどけて場を変えようとするジョーカーも頭を掻いただけ。
ヒゲが気を使ったのか、明るく言った。
「まあ、いざとなったらSWもあるし、
ベッキーがME打ってもいいし!
見つけた時に、適当にやればいいじゃん!」
「確実に当たると判ってんのに、対策を決めておかないのはどうかと思いやすがね。」
マツリがきついのは特にポールに対してだけではないらしい。
あっさりとヒゲの無策は否定され、ジョーカーがそれに続く。
「深淵は気を抜いて戦えるほど、楽な相手でもないしね。」
奴のBBSは下手すると一撃でやられかねないからねと、AXが危険性を指摘すると、
クレイが更に最新情報という名の止めをさした。
「冒険者ギルドの調査結果によると、
最近、生息数が3倍に増えたらしいよ。
後、取り巻きのカリツはいいけど、本体にはME効かないから。」
「何wwwwwwこのワシの意見に不利過ぎる展開wwwwwwwwwww」
叫んだところで、どうにもならない。
「はいはい、ここでくっちゃべってても仕方ないし、進みますよー」
「マツリさんはもう行っちゃってますよ。」
「ったく、ヒゲがトロトロしてるからー」
「ワシのせいですかwwwwすみませんwwwwwww」
出先にクレイの足を引っ張った罰が当たったのだろうか。
珍しく、ジョーカーではなく、ヒゲが叩かれる。
クレイが速度上昇の魔法をかけなおし、
メンバーは先に進んだ。
マツリは自分は手本にならないし、クレイもそれを了承しているという。
しかし、クレイはマツリの動きを見て置けという。
それは一体、どういうことなのか。
釈然としないものを抱えたまま、ポールは先を行くマツリの後を追いかけた。
騎士団内は、サイズこそ違えど、
人間の城ときっと変わらないのであろう。
武器庫や、厩らしき場所もあり、
いくつもの棚を備えた場所は兵士の控え室を思わせる。
ポールはまだ入った事はないが、
騎士ギルドのあるプロンティア騎士団内もこんな感じなのだろうか。
階段一つとっても、段差が人には大きすぎて、
登るのには苦労するが、
一度進んでしまえば幅が広い分、移動は楽である。
部屋を仕切る壁は人の目からは城壁に近く、
中央に位置する連絡通路の上からは、
各部屋の中をうごめく深遠やカーリッツバーグ、
そして動く鎧であるレイドリックや、レイドリックアーチャーの姿がみえた。
深遠の騎士が3倍、カリツが2倍ほどポールよりも大きいのにも関わらず、
レイドリックやレイドリックアーチャーは人と同じサイズである。
これは巨人と戦った古代人の鎧が変化したものだといわれているが、
それならば、人を襲ってくるのはどういう訳なのか。
家族や仲間を守るために戦ったであろう英霊たちの想いを他所に、
鎧は不のエネルギーに支配され、冒険者たちに剣を向ける。
深遠の騎士が引き連れる一部のカリツを除けば、
アンデットなどの、死体や無機物にエネルギーがたまって動く類の魔物は、
連携を取って、戦略的に攻撃してくることはない。
だが、攻撃パターンが遠・近距離とうまく分かれているため、
ガシャガシャと不愉快な音を立てながら、襲い掛かるレイドリックを払いのけると、
その隙にアーチャーが矢を射掛けてくる。
「ニューマ!」
ヒゲとクレイが即座に魔法を放ち、
聖なる風が魔物の矢を吹き飛ばした。
指定された場所の半径2mに吹き上げる風は、
魔法攻撃には効果がない反面、SWなどの一部の防御魔法をも退けてしまうが、
遠距離からの物理攻撃には絶大な威力をあらわす。
その間にジョーカーのSBrがアーチャーを落とし、
マツリかポールがレイドに止めを刺す。
そうやって、一向は少しずつ敵を求めて移動して行った。
ポールの手本にはなれないと言われたが、
マツリの動きは正にLKにふさわしいものだった。
スピードが半端ではなく、
ポールには目で追うことも難しい。
青白く光る細身の愛刀・華雅清水を抜き、
両手騎士限定の特殊魔法・ツーハンドクイッケンで一気に身体速度を上げ、
レイドリックを切り刻んだかと思うと、
横っ飛びに飛んで、隣のアーチャーの弓を払い落とす。
そうかと思えば、いつの間にか後ろに回ってカリツの首を落としている。
多くの敵を相手にするだけあって、ターゲットにもなりやすいのだが、
四方から襲い来る攻撃をやすやすと避けていた。
何より、圧巻なのはその立ち回りであった。
多数の敵に囲まれ、ただ逃げ惑っているかのように見えても、
LKを倒そうと集まってきたモンスター達は、
気がつけば一箇所にまとめらている。
「ボーリングバッシュ!!」
一体を吹き飛ばして周りのモンスターに叩きつける、騎士系列の必殺スキルによって、
レイドリック達は次々に吹き飛ばされ、崩れ落ちていった。
右左と位置を変えるマツリの動きを追いかけるのが難しいのは、
ポールだけではないらしく、ヒゲが支援魔法をかけられずに、何度か詰まった。
もしかすると、アサシンクロスであるジョーカーよりも素早いかもしれない。
両手騎士と言うのは、手数で勝負するとは聞いたが、
ここまでするものなのだろうか。
己との違いに愕然としたポールの横から、アーチャーの弓が襲い掛かる。
「ポール君!」
クレイの声で我に返り、とっさに身をそらすと、
右肩を弓矢が掠めた。
マフラーが裂け、僅かだが血が滲む。
「このっ!」
戦場でぼんやりとしている暇などない。
頑張るって決めたのに。
これでは馬鹿にされても仕方がないではないか。
悔しさをかみ締めながら、ポールはアーチャーに切りかかった。
「バッシュッ!!」
全力を込めたポールのバッシュが、鎧の隙間をうまく捕らえ、
派手な音を立てて、アーチャーが体制を崩す。
そこを逃さずに、もう一度ポールは刀を振り下ろした。
「大丈夫?!」
クレイが声をかけてくれる。
杖をふるって回復魔法をかけようとしてくれているのに気がつくと、
ポールはそれを跳ね除けるように答えた。
「大丈夫です!」
そして次のレイドリックに向かう。
ぴりりと肩が痛むが、こんなものは気にしていられない。
ほんのかすり傷だ。
ヒゲは支援と同時に前衛も張らねばならないし、
支援の半分以上を引き受けつつ、必要ならMEを張らねばならないクレイも忙しい。
この程度の傷など、かばってもらうに値しない。
「うりゃぁぁぁ!」
掛け声を上げて、レイドリックに切りかかる。
それとほぼ同時に肩傷が癒えた。
一瞬戸惑ったすきに、レイドリックもポールに向かって剣を振るってきた。
アーチャーと違ってレイドリックは近距離攻撃を得意とする。
新米剣士であるポールにやすやすと攻撃を許すことはなく、
激しく打ち返してくる。
初撃は盾で受けたが、即座に横払いを受け、盾を取り落としてしまった。
とっさに両手で剣を握り、そのまま進む。
レイドリックの剣が顔の横を掠めたが、ポールは怯まず一気に間合いを詰めた。
そのまま、レイドに切りかかるが、横からも、カーリッツバーグが襲い掛かってくる。
「マグナムブレイク!」
とっさに剣に魔法力を込め、当たると同時に爆発させる。
ポールは魔法は得意ではないが、
MBは剣士系列スキルだけあって扱いはさほど難しくない。
それでいて効果は確かで、切りかかったレイドを叩き伏せつつ、
横からきたカリツを爆発ではじき返した。
はじかれたカリツはジョーカーが抑えてくれたので、
改めてポールはレイドリックに止めを刺す。
「あぶねっえ・・・」
うまくMBが発動してよかったと、ほっと一息入れ、
周りの戦況を見ながら落とした盾を拾う。
「うっ」
拾おうとした左手がひどく痛む。
盾ごと払いのけられたときのダメージが残っていた。
更に頬を血が伝う。
「いてて・・・」
頬をぬぐってみたが、幸いさほど深い傷ではなさそうだ。
いつもなら、ヒールをかけてもらうところだが、
この程度で引き下がってなるものかと、
痛む左手を抑え、立ち上がる。
そこへ、再び回復魔法が掛けられた。
クレイではない。
彼女は溜まってきた敵を一掃するためにMEの詠唱を始めているので、
他の魔法を使うことは出来ない。
ヒゲでもない。
彼は今、3対のレイドに囲まれ、支援に回る余裕はない。
じゃあ、誰がと振り返ると、もう一度ヒールが飛んできた。
「マツリさん?」
ちらりと、マツリが振り返り、軽くうなずく。
「あ、ありがとうございます!」
礼を言うとすぐに、ポールは別の敵を探して動いた。
ヒールをもらった程度で一々止まっていては、
この狩場では役立たずだ。
しかし、LKであるマツリがヒールをしてくれるとは思わなかった。
同じ剣士系列であるクルセイダーはヒールも扱うから、
騎士でも使えないことはないのだろうか?
そうこうしているうちに、マツリは再びポールの視界から消え、
支援魔法を掛け損なったヒゲが、苛立った声を上げる。
「ヒゲ氏! 祀ちゃんの支援はうちがするから、
他の二人をお願い!」
「あいよ!」
MEプリであるクレイはプリースト最長呪文を操るだけあって、
ヒゲよりも対象の補足と詠唱が早い。
即座に役割分担を決めると、ハイプリ二人は支援を掛けなおしにはいった。
ポールにもブレスと速度、アスムプティオと、単体支援魔法が飛んでくる。
「よし。」
ポールが再び動き出した横から、
新しいカーリッツバーグが打ちかかってきた。
「このっ!」
すかさずその槍を払うとカーリッツバーグはフッと消える。
何か、変だ。
まずい。
ポールが危険を悟り、周りを見回すと、
そのすぐ近くの壁の隙間から、のっぺりとした黒い顔が現れる。
「ヒヒヒヒヒーンッ!!」
巨大な黒馬が嘶き、影がすべるように近寄ってきた。
背に乗る黒い騎士は幾つもの目がついた平たい仮面で顔を隠しているが、
それがなくても、感情を読み取ることは出来ないだろう。
ゴトリと、騎士が首を動かし、その目がポールを捕らえた。
深い穴に落ちたかのようなゾッとする感覚が、ポールを襲う。
灰色の、何も映し出さない瞳。
これまでにもゲフェニアなどでアンデットと対峙してきたし、
澱んだその目を見たことがない訳ではなかったが、
そんな小物とは一味違う。
巨人族の成れの果てと称されるだけあって、
鎧からあふれ出る魔力は重厚で、
それだけでポールを押しつぶしされそうになった。
「ポール君っ、止まんなっ!!」
毒気に当てられ、ふら付いたポールを、
横からジョーカーが掴んだこと、
ヒゲがポールのいた場所にSWを張ったこと、
深遠の騎士が幅20cm、刀身3mの斬馬刀を振り下ろしたのと、
それら全てがほぼ同じであった。
ガツンッ!
鈍い音を立てて、斬馬刀がSWに跳ね返される。
それと同時にジョーカーがポールを引き戻して、無理やり距離を広げた。
しかし、深遠の騎士は全く動じることなく、
今度は5mはあろうかというランスを振り上げる。
引き戻したポールに押される形で、ジョーカーも体制を崩して転んだが、
そのまま反撃に入った。
「ソウルブレイカー!」
夜空の星のような白銀のエネルギー波が深遠の騎士に叩き付けられた。
ソウルブレイカーは練り上げた魔力を一旦カタールに乗せ、
両腕を振り下ろして発射することで、
物理と魔力の両方のエネルギーを攻撃に使う、
アサシンクロスの誇る必殺スキルの一つ。
AX最強スキルの名に恥じることなく、見事、黒騎士のランスを吹き飛ばした。
だが、それでも騎士の動きは止まらない。
ゆったりとランスが使えなくなったのを確認すると、
再び斬馬刀を振り上げた。
主の意思に従い、黒馬も悠然と歩を進める。
ポールは立ち上がらなければと焦るが、深遠のほうが早い。
「ファイアーウォール!」
突如、炎の柱が立ち上がり、深遠の騎士を撥ね除けた。
炎の防壁に押され、黒馬がもがいている隙に、
ポールとジョーカーは体勢を立て直し、魔物から離れる。
入れ替わりにヒゲとマツリが前に出て、
左右から深遠に切りかかった。
獲物を逃した腹立たしさは、この感情のない魔物にもあるのだろうか。
人には扱えない強大な剣を振り回し、
ヒゲとマツリを振り払おうとする。
ヒゲがSWでそれを耐え、マツリは巧みな体裁きでそれを避ける。
と、マツリのステップが変わり、後方へ大きく飛び移った。
その動きを追おうと深遠が身を乗り出すが、
体が大きい分、動きも鈍重な黒騎士に捉えられるほど、
LKはのろまではない。
タンッタンッと、独特のステップで瞬く間に位置を変え、体制を整え直すと、
無謀にも深遠の真前から切りかかった。
ここぞとばかり、深遠が斬馬刀を振り下ろす。
ガチンッと、鋼が石畳を穿つ嫌な音がし、マツリの姿が消えている。
再び、ポールの目がマツリを捕らえたときには、
LKは黒騎士の背後に立っていた。
「バックスタブ!」
青白い刀身がLKの闘気を受けて、閃光を放つ。
鈍い音がして、後ろ足を折られた黒馬が大きくよろめいた。
巻き込まれまいと、ヒゲが跳ね除けたすぐ横に、
馬ごと黒騎士が倒れこむ。
そこを前衛職三人が追撃し、
ポールが黒馬に止めを刺し、マツリが騎士の右腕、ジョーカーが首を落とした。
如何な魔物であろうと首を落とされて生きてはいられない。
もっとも、傍から死んでいる身のアンデットは別にはなるが。
ゆっくりと黒い灰になっていく深遠の騎士の横で、ジョーカーが息をつく。
「やれやれ。」
「大丈夫、ポール君?」
少し離れた位置から、LAやSWで支援していたクレイが駆け寄ってくる。
「すみません、足、引っ張っちゃって。」
息を整える程に、敵を倒した高揚感が薄れていくと、不甲斐なさがポールを襲う。
何とか最後の攻撃には参加できたが、
自分が竦まねば、もっと安全に処理できたはずだ。
しょんぼりと、ポールが落とした肩をヒゲがぽんぽんと叩く。
「いやいや、上出来っしょ!
そもそも、剣士が来る狩場じゃないし、これだけ動けてれば大丈夫だって。」
なあ、マツリちゃん!と、ヒゲがマツリに同意を求めると、
LKは一応「そうっすね。」っと、剣の血糊を振り落としながら答えた。
甚だそっけないこと、この上ない。
「おっ! エルニウム発見!」
ジョーカーが黒い灰の中から銀色に光る金属の塊を拾い上げた。
防具の強化に使う特殊金属で、市場価格は80kほどになる。
「プチレアGETしたことだし、今日はもう帰るかー」
「そうねー蒼ジェムも残り少ないし。」
ジョーカーの意見にクレイが賛成し、
イズ向けのワープポータルが出される。
メンバーは次々と飛び乗り、騎士団を後にした。
いつものイズルートの広場に戻ると、
ポールはどっとその場に座り込んでしまった。
「あー 疲れたー」
いつも以上に激しい戦闘を繰り返しただけでなく、
古城についてから気を張りっぱなしだったので、余計に疲れた気がする。
これで中級レベルのダンジョンだというのだから、
オーディン神殿などの上級、生体研究所などの超上級狩場にいったら、
どうなってしまうのだろうか。
レベルの高い冒険者は、一日に3時間しか狩りをしないというのもわかる気がする。
ぐったりしているポールの横で、ジョーカーがウキウキと精算の準備を始める。
「今日は実入りがいいはずだよー
最後に出た奴のほかに、2つもエルニウム、スティールしたかんね!」
ほら、見てよと、ジョーカーが誇らしげに懐から銀色の塊を取り出すと、
その横で、マツリがアイテム袋から、全く同じものを4つ落とす。
「・・・いつの間に、拾ってたの?」
「さぁて?」
ジョーカーの質問に、はっきりと答えないマツリのアイテム袋からは、
他にもブリガンやスケルボーンもゴロゴロと転がり落ちてきた。
それにあわせてポールも、拾ったものを出すが、
とても、その数には届かない。
まったく、一体いつの間に拾ったのだろう。
ヒゲやクレイも袋をあさり、瞬く間に収集品の山が出来上がる。
全部出揃ったところで、クレイが収集商人の元へ運ぼうとすると、
マツリが「じゃあ、あたしはこの辺で。」と、身支度を始めた。
「祀ちゃん、精算は?」
「ちょいと、この後、G狩りの予定が入ってるんすよ。
もう行かないと、どやされる時間なんで。」
「ちょ、そういうのはもっと早く言おうよ!」
本人よりも、クレイが焦る。
それじゃ、後で渡すからという言葉に軽くうなずいて、
マツリは席を立った。
「んじゃ、今日はお疲れ様した。」
「お疲れさまー」
「またねー!」
軽く挨拶を交わすと、さっさとLKは帰っていった。
その後姿にポールが声を掛ける。
「マツリさん、今日は色々フォローしてもらって、本当にありがとうございました!」
LKが少し立ち止まって、片手をあげた。
しかし、振り返らずにそのまま行ってしまう。
最後まで、そっけないままだったなあと、ポールは思った。
そこにクレイが声を掛けてくる。
「すごかったでしょ、祀ちゃんの動きは。」
「ええ、太刀裁きとかはもちろんですけど、
レイド4体に囲まれても、余裕でよけてましたものね。」
「いや、そういうのもだけど、敵の配分とかが。」
こっちに敵が来ないようにしてくれるから、
今日は支援に集中しやすくて、楽だったわーと、クレイが言うと、
横からジョーカーが「悪かったですね、しばしばこぼして。」と、不貞腐れる。
「誰がどれだけ持てるかとか、そういうのもちゃんと見てくれるし。」
「あー」
そう言われてみれば、確かにポールのところにも、1体以上の敵がめったに来なかった。
敵の数からすれば、もっと囲まれることがあってもよかったはずなのに。
「前線に立って、壁になるのも重要だけど、
そうやってPTメンバーの状態を見て、各自が動きやすいようにするのも大事なのよね。」
騎士は職の特性上、そこまで出来ることって少ないけど。と、
クレイは締めくくった。
「考えのない騎士ほど、前に出たがる。」
という、マツリの言葉がよみがえる。
確かに自分は、ともかく目の前の敵を倒し、
数を減らすことだけしか考えていなかった。
何対もの敵を相手にしながら、PTメンバーにまで気を配るなんて。
自分が、あのレベルまで辿り着くまでに、どれだけの時間が必要なのだろう。
ポールはそっとため息をつき、クレイに尋ねた。
「流石、ですよね。」
「まあ、祀ちゃんも、伊達にLKじゃないしね。」
「それに、マツリさん、ヒールやFWも使ってましたよね。
LKって、魔法は使わないと思ってたんですけど。」
すっと、クレイが目をそらした。
そこにジョーカーが口を出す。
「ボクも、あの独特の足捌きと、深遠の馬を倒した技には言いたいことがある。」
更にクレイが顔をそらし、ヒゲが楽しそうに古い天津の歌を口ずさむ。
「LKの振りしてあの子~ 実は違うんじゃね、と♪」
流石に黙っていられなかったのか、クレイが突っ込む。
「ヒゲ氏、それについては触れてはいけないことになっている。」
「ふぁーい」
マツリはLKとしてポールの手本には向かない。
その理由はマツリの冒険者としての素質以外にありそうだ。
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