[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「んもー! いつまでおしゃべりしてるのよ!」
両手をぶんぶん振りながら、ヒゲが怒鳴った。
「お前がそのオカマ口調やめるまでかな。」
ギルマスの抗議にも拘らず、
反抗心も顕わに、ジョーカーはゴロゴロと草むらを転がりまわったが、
流石にポールは剣を持ち直した。
そこにマツリが基礎支援を掛けてくれる。
魔法のお陰でグンと体が軽くなり、
剣を持つ手にも力が入る。
五感や集中力を高めるブレッシング、
基礎体力を強化する速度増加。
どちらも、狩りの補助魔法として効果は絶大であり、
支援魔法を得意とするアコライト系職でも基本中の基本魔法だが、
全ての基礎となるだけに、習得は難しく、アコライトは修行の殆どをその為に使う。
他職がおいそれと覚えられるものではない。
いったい、マツリはいつどこで学んだのだろう。
多くの経験を積まねばならない三次職でも、
LKが支援魔法を使うというのはありえないと、
ジョーカーから教えられてから、
なんだか、聞いてはいけない事のような気がして、
また、肝心のことをポールは聞きそびれていた。
他のどうでもいい事は散々質問しているのに、
妙なところで遠慮してしまう。
突然、ジョーカーのゴロゴロが速度を上げる。
働こうとしないジョーカーに業を煮やし、今度はヒゲが基礎支援をかけたのだ。
しかし、それでもAXが狩りに戻る気配はない。
「ジョカさん、起きてくださいよ。」
ポールもジョーカーに声を掛けるが、
AXは「えー めんどくさいー」
と、やる気の欠片もない。
「ジョーカー、サボるのもいい加減にしろよな!
ワシの晩御飯がかかっているんだぞ!」
今度はヒゲが注意する。
これは普段、PTの風紀管理はクレイに任せっぱなし、
むしろ率先して乱す側の彼からすれば、異例のことと言えるが、
クレイはいないし、一応まだ客扱いのマツリが働いているのに、
古参のジョーカーがサボっているというのは、
ギルドマスターとして黙ってはいられなかったのだろう。
そして何より、今日の稼ぎは夕飯のおかずに響く。
これは彼にとって死活問題である。
「うるさいなー 我輩を誰だと思ってるんだ!」
再三注意され、ジョーカーがさも心外だと怒り返した。
「我輩は天下のアサシンクロス様ですよ?
AXといえば、シーフの最上職!
こんなもんは叩く前にちょっとスティールすることで、
お前らの倍は集められるわ!」
ほら、見てみろ!と、ジョーカーが膨らんだアイテム袋を突き出すと
その倍はあろうかという袋がドンと、投げつけられた。
「ジョカさん、座ってんなら、それ持っててくれやせんかね。
いい加減、重くなっちまって。」
マツリがジョーカーの方を全く見ずに頼む。
「ねえ、だから、いつ拾ったのよ。」
シーフの特権を軽々と凌駕され、
非常に納得いかなさそうに、ジョーカーが問うが、
マツリはやはり答えようとせず、黙々とアンバーナイトを殴っている。
ほとんど息を乱さず、まるで踊っているかのように滑らかな動きで、
次から次へと大カタツムリをしとめているが、
戦利品を回収している様子はない。後でまとめて集めるつもりなのだろうか?
その素早く、正確な動きに見とれながら、
ポールが代わりに倒したカタツムリから皮を取ろうとすると、
魔法所の媒体となる中心部はすでに無くなっている。
不思議に思ってよく見れば、マツリは攻撃と同時にアンバーナイトから皮を剥ぎ取っていた。
攻撃でつぶしてしまう前に、アイテムを盗む。
スティールとよく似た動きだが、
ジョーカーが敵の隙を狙うことに集中するため、一度攻撃をやめるのに対して、
手を止めることなくアイテムを剥ぎ取るマツリの方が、
効率も技術力も上であるのは、初心者ポールの目からも明らかだ。
これは、スナッチャーと呼ばれる、更に高位のスキルである。
清算時、マツリのアイテムが人より異常に多いわけに納得し、
ポールは素直に「すっげー」と、感嘆の声をあげたが、
面子を潰されたAXはそうもいかない。
「君、やっぱりLKじゃないだろう。」
ジョーカーが自分の手抜きを棚に上げて、マツリを問い詰めると、
LKは飄々として答えた。
「そりゃまあ、確かにあたしゃアコ上がりですから、
LKとしては贋物かもしれませんな。」
「アコライトはスナッチャーしないよ!」
攻撃と盗みを両立させるスナッチャーは、
アサシンと対を成すシーフの上位職、
ローグの代名詞とも言える高等技術である。
下級とはいえ、本来聖職を示すアコライトとも、
上級騎士であるロードナイトとも、かけ離れたスキルであることは間違いない。
やっぱりマツリはLKではないと、ジョーカーは言い募ろうとして、
ふと、何かに引っ掛った。
「・・・ん? アコ上がり?」
「マツリさん、アコライトだったんですか?」
ポールも、意外な事実に驚く。
「あたしゃ今でこそ、こうして剣を握ってますが、
元々は支援職出身ですからね。」
再三、聞かれ飽きたことなのかもしれない。
一応手を止めて、マツリは淡々と返事をしているが、
これが非常に異例であることはポールにも判った。
健全な精神は健全な肉体からということで、
アコライトは魔法職でありながら、
魔力・知識を重視するマジシャンと異なり、心身共に鍛える。
その身の部分を更に強化し、
己の肉体を武器とするモンクが、
アコライトの上位職としてプリーストと対を成しているし、
プリースト自体も、ヒゲのように棒術を学び、
前衛に立つ、殴りと呼ばれるスタイルが存在する。
しかし、鋭利な武器を持ち、前衛に立つ事をに前提とした剣士と、
仲間を守り、己を鍛える目的で攻撃をも学ぶアコライトは全く異なる存在であり、
必要ならば魔法も扱う前衛職同士という視点で見ても、
モンクも殴りプリも、クルセイダーとはかけ離れている。
まして物理攻撃に特化した騎士にアコライトがなるには、
さまざまな無理が出ることは間違いない。
それまで学び、高めた知識・魔力を捨て、畑違いの剣術に手を出すなど、
無謀であるし、無意味でもある。
そんなに簡単に方向性を変えられるほど、冒険者の世界は甘くない。
飽きれたようにジョーカーは尋ねた。
「何で、そんな無茶なことを。」
「うちの両手剣騎士な上司が横暴でね。
『支援だからって、甘えるな。
前に出ろは言わないが、自分の身は自分で守れ。』
なぞと、無茶を言いやがりましてね。」
言葉が乱暴な割りに、本人はどうでもよさそうなのはいつものことだが、
話の内容が、どうでも良くはない。
仮面の下で、ジョーカーが眉をしかめたのがポールにも判った。
「そんで、逃げるくらいは何とかなるようになったら、
今度は『避けれるなら反撃しろ。』と。
そんな事やってる間に、こうなったわけでさ。」
「それって、PTと言うか、前衛の意味がないじゃん。」
支援が攻撃にまで回れば、当然、本来の役職が手薄になる。
そもそも、剣士やアサシンは防御力の他メンバーに攻撃が行かないよう、
前に立って壁になるのが役目であるからこそ、”前衛”職と呼ばれるのであるし、
その前衛に守られるべき支援職に自衛を求めるというのは、
マツリの上司こそ、ある意味、職務放棄しているのに等しい。
上級者であるほど、各職が受け持つ役割の重要性を把握しているので、
ジョーカーが気分を害したのは尤もだが、
ポールにも、言いたいことがあった。
「それなら、それこそモンクか、せめて殴りになればよかったんじゃ?」
「殴りはいいよ! 殴り!」
”殴り”と言う言葉に反応して、ヒゲが振り返る。
そんなことに反応するのなら、それこそ、
手を動かせば良いのにと、思いつつ、
ポールは一応ヒゲに手を振って答えた。
モンクは確かに支援職からの派出であるが、
その身軽さと高い攻撃力を生かした三段拳からの連打、
体内のエネルギーを凝縮させて行う、指弾、発頚など、
魔法とも、他の攻撃職とも異なる体術で、高い性能を誇り、
何より、必殺スキル・阿修羅覇凰拳はSPを全て使ってしまう代わりに、
全職業中・最強と言われる瞬間火力をたたき出す。
攻撃と支援を両立させろと言うのであれば、
ヒゲの様な殴りになるのも一つの手ではある。
モンクのように、攻撃スキルがないので一見ぱっとしないが、
プリーストの扱うアスペルシオやマグニフィカートが優秀であるのはいうまでもないし、
メイスとて修練を重ねれば、それなりの攻撃力になる。
少なくとも、それまでの技術を捨てて新しい職業に転職するよりは、
アコ系のまま、スキルを増やしていった方が、
結果的に出来ることも増えるし、
その上司ともお互いの不足を補い合えるようになるはずだ。
しかし、マツリは軽く頭を振った。
「そりゃ、そうなんすが、ある程度してからは、
上司に稽古を付けてもらってましたからねえ。
剣士に鈍器の稽古は付けられんでしょう。」
他人からはどんなに納得がいかないことであっても、
人にはその時の事情があるし、マツリにもあっただろう。
少なくとも、既に済んだことを蒸し返されても、
いかんともしがたいのは事実である。
「面倒見いいんだか、勝手なんだか、わかんないね、その人。」
ジョーカーの言葉に、ポールも黙ってうなずくしかなかった。
全てにどうでもよさそうなマツリの態度は、
多くのものを諦めてきた所為なのかもしれないと、ポールは思いながら、
もう一つ、思い出したことも聞いた。
「じゃあ、FWはどこで覚えたんですか?」
これだけしゃべれば十分と思っていたのか、
狩りに戻ろうとしていたマツリの動きが止まる。
「・・・スクロール?」
魔法スクロールは一度しか使えない代わりに、
軽く魔力をこめることで、刻まれた低級魔法を、
誰でも扱えるようにしたものである。
FWは防御魔法として優秀であるから、LKであっても、
イザと言うときの為に、持ち歩いていてもおかしくはない。
だがしかし。
「答えるまで、間がありましたね。」
「あと、スナッチャーはどうなの、スナッチャー」
ポールとジョーカーが交互に突っ込む。
返事が疑問系だったあたりも、非常に怪しい。
まだ、このLKには何かある。
| 10 | 2025/11 | 12 |
| S | M | T | W | T | F | S |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ||||||
| 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
| 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
| 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
| 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 |
| 30 |
残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


