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潮風と優しい波の音に包まれた町、イズルート。
ドスコイメンバーとその友人達が何時も通り、お気に入りのベンチ前に集まっている。
さて、今日は何処へ行こうかと話し合いが始まろうとすると、
ポールが「あ、俺はパスします。」と、言い出した。
今朝はなんだかご機嫌で、
話し掛けても、上の空な後輩の様子が気にならないはずはなく、
ジョーカーが問う。
「なんか、良いことあったの?」
どうやら、これから買い物に行かねばならないらしい。
ブラッドが、
「それなら付いて行こうか? 値切り交渉代わりにやってあげるよ。」
と、親切に言った。
どちらにも「エヘヘ」と、だらしない笑顔でポールが応えると、
ヒゲが何かに気が付いたらしく叫ぶ。
「あっ! もしかしてデート!?」
「なんだと!? 我が輩を差し置いて生意気な!
紹介しろ! そして揉ませろ!」
突然わいた色恋の話にジョーカーが食いつくが、
ブラッドが笑って流す。
「馬鹿だな、それだけは有り得ないだろ~」
「どちらもそれなりに最悪っすね。」
それぞれ別の意味でひどい二人を、呆れ顔でマツリが切り捨てるが、
ポール本人は気にした様子もなく、相変わらずニコニコしている。
「で、なんか良いことでもあったんすか?」
改めてマツリが問うと、ポールは本当に嬉しそうに答えた。
「友達に子供が産まれたんですよ~」
「ほぉー そりゃめでたい!」
ヒゲが歓声を上げ、その他も我が事のように喜んだ。
出生率は年々目に見えて下がっており、
養子を迎える事も珍しくないルーンミッドガッツ王国において、
新しい命の誕生は最も嬉しい出来事だった。
「とすると、買いに行くのは出産祝いだな。」
察しのいいブラッドが言えば、ジョーカーも興味津々に、
「何を買うつもりなの?」
と、聞いてきた。
独身者ばかりで、余計にこういう話が珍しいのだ。
本日初めて、ポールが困った顔をする。
「それで悩んでるんですよ。何が良いかなぁ?」
しかし、質問に答えられる者がいない。
ヒゲとジョーカーは顔を見合わせ、
ブラッドがマツリを振り返るが、肩をすくめられる。
こんな時、役にたつのがクレイの知恵袋なのだが、
相変わらず留守中で今日もいない。
「一時期、世話の手伝いならやってましたがねぇ…さて、何がいいのやら。」
マツリが首を傾げるが、これにも返事はない。
皆、世話どころか、赤ん坊を触った事すらないからだ。
「全く、クレイさんは何時も肝心な時に居ないんだから~」
クレイの不在は既に確定事項とされ、
今更どうこう言っても仕方がないのだが、
八つ当たり気味にジョーカーが文句を言う。
それでも、昨日運良く会えたらしい。
ポールは幾つかアドバイスを貰っていた。
「クレイさんは、消耗品がいいって、言ってましたけど。」
玩具の類は使えるようになるまで間があるし、
食器、家具はかぶると邪魔になる。
服も着られる時期や好み、お下がりなどを考えると難しいのだ。
ならばと、ヒゲが提案する。
「オムツとお尻ふきがいいよ! 余ったら親が使えばいいし!」
「いや、親は使わないだろ。」
「使うとしてもお前だけだ。」
即座にジョーカーとブラッドのツッコミが入るが、
オムツがいいと言う事に関しては、クレイも同意見だったそうだ。
だがしかし、ポールは思う。
「でも、オムツとかっていかにもで、目新しさがないじゃないですか。」
どうせなら、ビックリさせるような物を送りたい。
尤もな意見に、じゃあ、それならと、ジョーカーが手をあげた。
「赤ちゃんが産まれて、お母さんは付ききりになるわけでしょ。
その間、一人になる旦那さんの為にDVDとかどうかな、夜専用の。」
如何にもジョーカーらしい奇抜なアイデアだが、
当然、周囲の非難をかう。
「本当に馬鹿だな、お前は!」
ブラッドが声を荒げた。
「DVDじゃ、音が出るだろ!
子供が起きて泣くわ、嫁さんにバレて怒られるわで、
ダブルパンチじゃないか。ここは雑誌にするべきだ!」
「そういう問題じゃないです、ブラッドさん!」
予想外のズレツッコミに、慌ててポールがツッコミ直し、
マツリが心底嫌そうに、ボソッと呟く。
「イヤホンでも、使えばいいんじゃね。」
「マツリちゃん、頭いい!」
それがあったかと、ジョーカーが喜ぶが、
改めてポールに怒鳴られる。
「出産祝いですよ! そんなエッチいの送ってどうするんですか!」
真面目に考えてくれと、ポールは怒ったが、
ジョーカーとブラッドが揃って言う。
「だって…落ち着くまで、暫くかかるだろうし…
おっぱいは赤ちゃんにとられちゃうし…」
「やっぱり、こういうのは男同士が察してやらないと…」
「いりませんよ、そんな心遣い!」
変なところばかりに気が回る二人を、ポールは叱り飛ばす。
そこへ、おずおずとヒゲが手を上げた。
「そういうことなら、ワシの空気嫁、貸そう、か?」
「借りません! ちゃんと新しいの買います!」
怒りのあまり、ポールのツッコミもずれる。
全く、この人達に相談した自分がバカだったとポールは憤慨し、
呆れて話に入ろうとしない、マツリに聞くことにした。
「マツリさんは、何か良いアイデアあります?」
「そう、言われましてもねぇ。」
世話を手伝ったのも、五年以上前のこと。
今更、あればよかったと思い出す物もない。
第一、マツリがしたのは手伝いであって、
メインに動いていたわけでもなかった。
「そういや、懐中時計が便利だって聞きやしたかね。
授乳時間を計ったりするのに使うんすが、
手をマメに洗わなきゃなんねぇし、
抱っこの時、引っ掛かるから腕時計だと不便だとか。」
なんとか、当時のことを引っ張り出すが、これもブラッドに疑問視されてしまう。
「でも、それって、掛け時計の一つもあればよくない?」
「だから、出先とかの話っすよ。」
それ自体は非常に興味深い話ではあった。
しかし、懐中時計となると、それこそデザインに好き嫌いが出そうであるし、
郵送中、粗雑に扱われて針が狂わないだろうか。
「難しいなぁ~」
改めて、ポールが悩む。
あわせて他のメンバーも悩みだしたところで、
少し嫌そうにジョーカーを見てから、マツリが手を上げた。
「物は兎も角、ジョカさんの着目点はよかったんじゃねえっすかね。
育児に手が取られる分、家事がどうしても疎かになるでしょうし、
大変なのは、旦那さんもでしょうかんね。」
「と、いうと?」
ジョーカーを肯定するのには引っかかるが、
マツリの意見なので、ポールが身を乗り出す。
「料理とか洗濯とか、そういうのが滞っても、
旦那さんが困らねぇような。もしくは、
奥さんの仕事を楽にするようなもんを送るってぇのは、どうですかね。」
「なるほどー」
ポールが大きくうなずき、その後ろでジョーカーがブラッドに噛み付いた。
「ほらみろ! やっぱりボクは正しい!」
『黙ってろよ。』
ジョーカーを除く、全員の台詞がハモる。
ヒゲ以外は皆、独身の一人暮らしであったし、
彼女と同棲中のヒゲも家事はよく手伝うので、あったら良いものは想像しやすい。
これがいいんじゃないか、あれはどうだと、
話がどんどん盛り上がっていった。
大まかな結論が出ると、早速ポールは駆け足でデパートへ行き、
手伝いの為に、ブラッドが後を追いかけた。
楽しい話題は皆を幸せにする。
マツリもそのまま機嫌よく狩場へ向かい、
ジョーカーとヒゲはのんびりとポールの帰りを待った。
「赤ちゃん、元気に育つと良いね!」
「そうだな!」
今度、ポールが写真を見せてくれるという。
新しい楽しみが増えたことを、二人は素直に喜んだ。
数日後、クレイが久しぶりに溜まり場へ顔を出すと、
ポールが友人からの手紙を読んでいるところだった。
大体の話の流れは聞いているので、
クレイも黙ってそれを聞く。
「『・・・と、言うわけで、息子が赤ちゃん帰りして困っていますが、
娘はよく眠り、すくすく育っております。
色々と忙しくしているでしょうが、
そちらも、体調や怪我には気をつけてください。
また、冒険の話をしてくれるのを楽しみにしています。
改めて、良い贈り物を本当にありがとう! 妻も喜んでいます。』
だ、そうですよ~」
悩んだ甲斐があったとポールが喜ぶと、
協力した各自も楽しげに笑った。
唯一、クレイは何を送ったのか知らなかったが、
この分だと、彼らはよい選択をしたのだろうと思う。
「で、何を送ったの?」
そう、クレイが聞こうとするのを、ポールの声が遮った。
「あ、追伸があります!」
「何々?」
手紙に添えられた赤ん坊の写真を見ていたジョーカーが顔を上げ、
注目が集まったところで、早速ポールが読み上げる。
「『追伸
ところで何故、出産祝いにカップラーメンを選ばれたのでしょうか?
文句を言うわけではないのですが、
差し支えなければ、理由を教えていただけると助かります。』」
「カップラーメン?!」
出産祝いには決して向いているとは思えない選択に、
クレイが声を上げ、マツリが額を抑える。
「何で、選りにもよってカップラーメンなんすか。」
その物言いに、クレイは当然、マツリがポールの選択を責めるものと思ったが、
話は予想外の方向へ進む。
「同じコーナーに高級レトルトが幾らでもあったでしょうが。
贈り物だし、こんな機会でもねえと食わねぇんだから、
そっちにすりゃよかったのに。」
「えー だって、あのメーカーさんのラーメン、美味しいんですよ!」
マツリの指摘にポールが口を尖らしたが、
その双方に「違う!」と、クレイは突っ込んだ。
「そうじゃなくて、カップラーメンにしてもレトルトにしても、
何で、即席食品なのよ!」
「だって、掃除や洗濯は後でも死なねぇけど、
飯は毎日食わねぇわけには、いかねぇじゃねぇっすか。」
「疲れて帰ってきたときに、ご飯の支度とか面倒ですもんねー」
出産祝いで送り先を困惑させてどうすると、
クレイの思いとは裏腹に、マツリとポールがのんきに答える。
その後ろでジョーカーが、やはりレトルトは拙かったんじゃないのと、口を出した。
「やっぱりさー DVDにするべきだったんじゃないー?
あれなら、忙しい奥さんの代わりだって、すぐ分かるしさー」
「ばっか、DVDはデッキがあるか判らないじゃないか。
やっぱり雑誌か、写真集だろ!」
だから言ったのにと、ジョーカーがため息をつけば、
すぐさまブラッドがそれを否定する。
二人は”なんの”とは言わなかったのだが、クレイは正確に内容を察知した。
「そんな卑猥な出産祝いが何処にある!」
「まあまあ、ベッキー、抑えて、抑えて!」
手が出る寸前のクレイをヒゲが宥める。
「そんじゃさ、こうしようぜ!
出産祝いの贈りなおしという事で、、
奥さんのお手伝い券を発行するんだ!」
「発行するのはいいけど、誰が手伝うんですか?」
ポールの当然の質問に、ヒゲはにこやかに答えた。
「ワシ、ワシ! ワシがメイド服来て、お手伝いに行きます!」
「ヒゲ氏、それではお手伝いのというより、変態のデリバリーです!」
再び、クレイの叫び声が響く。
収めようとしているのか、更に荒らそうとしているのか、
ヒゲの発言は全くどちらだか分からない。
そうこうしている間にも、
じゃあベッキーが着れば良いじゃん。嫌ですよってか何故メイド服!
マツリさんなら、変じゃないんじゃ?
冗談じゃありません。大体あたしゃそこまで家事上手くありませんや。
先生そのお手伝い券はボクが欲しいです!ジョカにだけは発行されないと思うな等と、
ますます喧しくなっていき、騒ぎは収まりそうもない。
まさか、フェイヨンの新しい命も、
自分の為にこんな馬鹿騒ぎが起こるとはとは思わなかっただろう。
イズルートの一角は、今日もひたすらにボケばかりである。
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残り1割に真実が混ざってないことも、
ないかもしれない。
取り合えず、閲覧は自己責任で。


